酒匂隆雄の畢生の遊楽三昧 sakoh

何故、ドル高か?

2020/03/24

ドル・円相場は昨日のニューヨーク市場で高値111.58を付け、丁度ひと月前のレベルまで戻した。

3月9日に付けた安値101.19から10円39銭の急騰である。

(2月20日からのドル・円相場日足のローソク足)

何故、ドルはこんなに早く、そして大きく上昇したのであろうか?

二つの大きな理由が有ると考えている。

先ずその一。

-マージン・コールの発生。

先日も此処で話した様に今回のコロナ・ショックによる世界中の金融市場の混乱で、巨額のマージンコール・コール(約1,400兆円とも言われる。)が発生し、手元にドルの流動性が必要な投資家(投機家?)が保有していた巨額の金融資産の処分に迫られた。

一気に株、債券、金や原油などの金融商品を処分して現金化(ドルに換える。)した為に、これらの価格は暴落し、ドルは急上昇した。

ドルは対円だけではなく、対ユーロ、対ポンド、対豪・ドル、対ニュージーランド・ドルでも急騰した。

我々が金融取引を行う場合、信用リスク(取引相手の信用度を計る。)、レート・リスク(相場が上下するリスク。)、そしてリクイディティー・リスク(取引する際の市場の流動性の高低、或いは有無。)を考えるが、通常はレート・リスクを一番重要視する。

言い換えれば相場の上下に一番気を使う。

ところが今回のコロナ・ウィルス騒動の様に、突然市場が大荒れに成ると保有資産の売却が出来るのか、或いは保有するポジションの反対取引が出来るのかが最も重要な要件となる。

言い換えればリクイディティー・リスク(流動性・リスク)が最も大事になる訳である。

そしてリクイディティー(流動性)が有る限り、売却と反対取引が続き当然価格が一方向(今回は下げ方向)にオーバー・シュートすることになる。

その二。

-中央銀行の外貨準備調整。

昨日、対ドルでインド・ルピーが史上最安値を更新したニュースが流れたが、今回のドル上昇の煽りで新興国通貨の下落が激しい。

インドは約4,700億ドル、お隣の韓国は約4,000億ドルの外貨準備を保有するが、これらの国々は通貨防衛の為に自国通貨買い&ドル売り介入を行う。

外貨準備の構成はSDR.のそれとよく似ていると思われ(中国人民元を外貨準備に組み入れている国は多くは無かろう。)、大体ドルが60%、ユーロが20%、円が10%、そしてポンドなどのその他通貨が10%くらいと思われる。

ある国、例えば韓国がウォン防衛の為に400億ドルのドル売り&ウォン買い介入を行ったとすると外貨準備総額は3,600億ドルに減り、ドルの外貨準備は(4,000億ドル×60%=2,400億ドル)から400億ドルをひいた2,000億ドルとなり、これは外貨準備総額の56%でこれを将来の介入準備の止めに元の60%に戻すには、他の構成通貨であるユーロ、円、そしてその他通貨を売ってドルを購入する必要が出て来る。

韓国以外にも割合外貨準備の潤沢なブラジル(約3,600億ドル)、メキシコ(約1.900億ドル)、そしてインド(約4,700億ドル)などの新興国が同じ様なオペレーションを行った可能性は大であろう。

中々目に見えない中央銀行による壮大なドル買いである。

これらの要因でドルは大きく上昇したのではなかろうか?

では何時このドルの上昇は収まるのであろうか?

昨日米連邦準備理事会(FRB)は緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を必要なだけ買い取る無制限の量的緩和(QE)を決定した。

二回の計1.5%の大幅な利下げに次ぐ金融緩和策であり、市場の流動性確保の為には”何でもやる。”と言う覚悟を見せた。

これで投資家(投機家)は流動性確保の為の保有資産の投げ売りをする必要性は減少したのではなかろうか?

とは言え、コロナ・ウィルスの猛威は衰えるどころか、世界中で諸々の規制が増しつつある。

未だ油断は大敵ではあるが、今日の日経平均株価は午後1時半現在で約900円の上げを見せ(一時は1,000円を超える上昇を見せていた。)、NYダウ先物CME.も昨日までとは打って変わってアジア時間に上げて取引されている。

多少は金融市場の不安は収まりつつあるのかな?

何度も言う様に今は未曽有の金融危機(とまでは行っていないか?)の真っ最中。

過去の経験則は役に立たない。

兎に角今はリスク管理をきちんとして、ディフェンシブ(防御的)なスタンスで参りましょう。

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プロフィール

さこう・たかお
酒匂隆雄

酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。

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