ネタニヤフの思惑

「ホルムズ海峡の通行料なし解放と、米海軍による封鎖は即時解除する!世界の船はエンジンを始動し、石油を流通させよう!」 14日、トランプ大統領は自分のSNSに自慢げにそう書き込んだ。
イラン戦争は一件落着と言いたかったのだろう。しかし、実際にはそうなっていない。
トランプ大統領、JD・ヴァンス副大統領、イラン議会のモハマド・バゲル・ガリバフ議長の電子署名は確かに記録されており、トランプは、予定を2日早めて、パリ郊外のベルサイユ宮殿で停戦の覚書(MOU)に署名した。イラン国営メディアもペゼシュキアン大統領が正式署名したと伝えた。
発表のタイミングはトランプにとって好都合だったといえる。月曜日にフランスで開催されたG7サミットに現れたトランプはホルムズ海峡が金曜日までに封鎖解除されると繰り返し主張し、「我々はすでに多くの航路を確保している」とさえ嘯いた。
しかし、欧州の同盟国はその言葉を懐疑的にしか受け止めていない。停戦に関する詳細は依然として不明瞭だからだ。
元駐NATO米国大使カート・ボルカーはCNNに出演し、次のように指摘していた。「これは新たな交渉に向けた土台を整えるための一時的な覚書です。イランは核濃縮計画や濃縮ウランの保有に固執し、今後の交渉で強硬に主張するでしょう。そしてホルムズ海峡に対して何らかの支配権を主張したいと考えています」

そんな忠告もどこ吹く風。トランプは、1979年のイラン革命以来イランと和平を結んだ最初の米国大統領だと自画自賛している。それはもちろん正しくない。正しくは、トランプは米国をイラン戦争に巻き込んだ最初の大統領であり、その戦争を止めるために停戦を必要とした最初の大統領でしかない。お粗末なマッチポンプだ。
今回の暫定合意は、実質的に核問題を含んでおらず、まして正式な合意でもない。この停戦覚書は、両陣営がこれ以上戦争の経済的苦痛を耐えたくないという合意にすぎないのだ。
気まぐれで我慢のないトランプは自分が始めたこの戦争にうんざりしている。わずか数週間前には、イランに米特殊部隊を派遣して一時的に空軍基地を建設し、力づくで核物質を取り除くと息巻いていた。それが今では「えー、何故わざわざそんなことをする必要があるのか。ただの高濃縮ウランだ。それほど価値のあるものじゃない」と言い出す始末である。
そんな焦りの色がみえみえの米大統領からイランはまんまと大幅な譲歩を引き出した。覚書によれば、米軍による海上封鎖は解かれ、イランはすぐに石油を売却でき、制裁の一部は前倒しで緩和され、核問題は先延ばしされる。さらに、3000億ドルの復興基金が提供されるという。
イランの弾道ミサイルについては何の制限も設けられていない。パリでの記者団に対するトランプの言い草がこれまた振るっていた。
「サウジアラビアやカタールが持っているのに、イランだけが全く持てないというのは少し不公平だ」
私は思わず耳を疑った。中東のパワーバランスをトランプが理解していないことは明らかだ。中間選挙後に「トランプ合意」を自らひっくり返すこともありえる。
さらに注目すべきは、この一連の交渉にイスラエルが全く関与していないことだ。盟友とされるトランプとネタニヤフ両者の亀裂は今や公然のものとなっている。イスラエルが米国と共に戦争に踏み切った目的、つまりイスラエルにとって最大の脅威であるイランの核問題に関して解決に向けた兆候すら見えていないからだ。
調印のタイミングもネタニヤフにとっては最悪だ。イスラエル総選挙が10月に予定されており、世論調査ではネタニヤフ連立政権が過半数を失う見通しだ。さらに汚職疑惑や2023年10月以降の戦争対応への批判も続いている。
ネタニヤフは一貫して「アメリカをうまく動かせるのは自分だけだ」という主張を売り物にしていた。だがその神話が崩れつつある。それで彼はレバノンのヒズボラに対する攻撃を止めないだろう。国家存続と自らの政治生命に関わる脅威だからだ。
中東和平の方程式を解くのは難しい。

