蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

トランプ海峡封鎖

2026/07/21
ブログ

「あいつらはクズだ、時間の無駄だ!」

イランに対するそんなトランプ米大統領の気まぐれな一言で、60日間の暫定停戦合意はあっけなく崩壊し、アメリカとイランとの戦争は先月の暫定和平合意以前の状態に逆戻りしつつある。

トランプは今後アメリカが「ホルムズ海峡のガーディアン(守護者)になる」と宣言し、イランの港湾に対する海上封鎖再開を発表した。さらに海峡を通過する船舶から20%の通行料を課す方針を明らかにしたため、原油価格は急騰した。

わずか3週間前にマルコ・ルビオ米国務長官が「いかなる国も国際水路で通行料や手数料を徴収することは許されない国際法違反だ」と指摘したばかりだった。だが自己顕示欲むき出しのトランプはそんなことはお構いなしだ。今回の措置を同地域における米国の安全保障提供に対する「対価の回収」だと位置づけている。7月7日に軍事行動を再開したことを議会にも正式に通知した。

現地メディアの報道によると、アメリカの攻撃はイラン沿岸部を超えて拡大しているという。一方、イラン政府の強硬派は最高指導者だったハメネイ師の殺害に対する報復攻撃を強め、バーレーン、ヨルダン、クウェート、オマーンに展開する米軍の戦力を標的として攻撃を行った。

トランプのイランに対する怒りは収まらない。その理由のひとつは、7月初旬にイスラエルのネタニヤフ首相が米大統領暗殺目的だと思われる「最新かつ具体的な計画に関する情報」があると米政府に伝えたことではないか。

トルコの首都アンカラで行われたNATO首脳会議からの帰路では新型のエアフォースワン(大統領専用機)ではなく旧型の航空機を使用したというから、実際に安全上の懸念があったことはまず間違いない。新型機はカタールから寄贈された747で、急遽改修したためミサイル探知・対抗手段の一部が搭載されていなかったと信頼できる複数の米メディアが報じている。事実だとすればお粗末な話である。

記者団から「イランからの暗殺の驚異が理由か」と問われた際にトランプはそれを否定したが、「俺はイランの暗殺リストのナンバー1なんだ」と付け加えることも忘れていなかった。どこまでも自分をマッチョに見せたがるトランプ流の言い草である。

じつは、大統領暗殺が目的と思われる計画については米諜報機関も情報収集を続けていた。しかしその手法・実行部隊・場所などの細部は機密のため公表されていない。

 では、なぜネタニヤフはこのタイミングでトランプに最新の暗殺計画を知らせたのか。純粋に安全保障上の緊急警告だったのだろうか。中東安全保障の専門家は裏の動機があると推測している。イスラエルがトランプ政権の対イラン姿勢を強行に保つために情報を意図的に共有したのではないかとみているのだ。

ネタニヤフは政治の魔術師の異名をとるほど狡猾で熟練のネゴシエーターだ。歴代のアメリカ大統領を巧みに操ってきた。とりわけ思慮に欠けるトランプは操縦しやすく、エルサレムをイスラエルの首都と承認、イラン核合意(JCPOA)からの離脱、革命防衛隊のテロ組織認定など、イスラエルが長年求めてきた政策をトランプ政権で一気に実現してきた。宿敵イラン殲滅の好機を得たネタニヤフにとってアメリカのイラン直接攻撃は夢の実現だといえる。

しかし、ふたりの関係は今年6月頃から急速に悪化した。最大の原因は、トランプが国内で不人気なイラン戦争の終結を急いでいた矢先に、3か月後に迫った総選挙を前に「弱腰」と見られることを恐れたネタニヤフがレバノン(ヒズボラ)への攻撃を拡大させ、停戦を危うくしたことだ。電話会談でトランプが“Are you fuc*ing crazy?”(お前は狂っているのか)」とネタニヤフを罵倒したというから怒りは相当なものだったのだろう。

そもそも米国にとってイランは限定的な脅威でしかなかった。核兵器を製造しておらず、2035年までは大陸間弾頭ミサイルも開発できないというが米国防情報局の評価だった。しかし、功名心に駆られたトランプはネタニヤフの巧みな口車に乗せられ、何が勝利なのか明確な出口戦略を描く前に攻撃を始めてしまったというのが実態だ。

最高指導者ハメネイ師を含む数十人の殺害という「斬首作戦」はイラン側をさらに硬化させた。新たな後継者でハメネイ師の実子で強硬派のモジタバ師は戦争の長期化と核開発を加速させる可能性が高い。

今回の戦争によるエネルギーを含む物価の高騰は、11月の中間選挙に向けてトランプ政権・共和党に極めて不利に働いている。最新の米国内世論・経済指標・政治分析を総合すると、共和党は「支持率低下」「インフレ悪化」「熱量欠如(投票意欲の低下)」の三重苦に直面している。最新の調査では、投票に非常の意欲があると答えた民主党支持者が70%だったのに対し共和党支持者はわずか48%だった。

 「戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい」 そう呟いたのは第一次世界大戦を招いたドイツ最後の皇帝ウィルヘルム2世だった。戦争が4年以上も長引いて各国が疲弊したうえに、ロシア革命でロシアが撤退。ドイツでも革命が起きて帝政は崩壊した。トランプ政権はいったいどんな末路を辿るのだろうか。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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