蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。
現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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ロシアとウクライナ戦争の末路

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「戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい」

アラン・ジャドの小説『The Kaiser's Last Kiss』の中でそう呟いたのは第1次世界大戦を招いたドイツ皇帝ヴィルヘルム2世だった。

ウクライナ侵攻を決行したロシアのプーチン大統領も、迎え撃つウクライナのゼレンスキー大統領も、いまや同じ気持ちではないか。

圧倒的な兵力と情報戦で電撃的勝利を狙ったロシア軍だったが、欧米の支援を受けたウクライナ軍の抵抗が予想外に強く、侵攻から2ヶ月を経て泥沼化の様相をみせている。

一方、巧みなメディア戦略で勝利してまんまと西側諸国を巻き込んで一躍「英雄」となったゼレンスキーは、犠牲者が増えても戦場でロシアに勝てるという思いを強めている。

だが、その勇ましさがロシア軍やプーチンのエリート傭兵組織「ワグネル」による民間人の虐殺をエスカレートさせている。

ヒトラーが好んだ作曲家ワグナー意味する「ワグネル」の傭兵たちは今回の戦争でもかなりの残虐行為を行なっている可能性がある。

ご存じのように、ゼレンスキーはもともと政治とは縁もゆかりもないコメディ俳優だった。得意芸は下ネタで笑いをとることと男性器でピアノを弾くことだった。

転機はテレビドラマ『国民の僕(しもべ)』で大統領役を好演したことだった。一介の社会科教師がひょんなことから大統領に選ばれて汚職や不正と対決する政治風刺ドラマである。政治腐敗に辟易としていた多くの国民は劇中の姿と実際のゼレンスキーを重ね合わせて熱狂した。

番組は2019年の大統領選挙直前まで放送され、ゼレンスキーは反ロシアの現職ポロシェンコ候補を大差で破って大統領となった。まさにポピュリズムの産物である。

しかし、おいそれと大統領職が務まるわけがない。そのうえ政権の中枢に据えたのはコメディ集団のスタッフだった。パフォーマンスばかりで国内は混乱し、当初70%以上あった支持率は19%まで下落した。

そこで宥和派から反ロシアの急先鋒に変身。ネットやSNSなどを駆使して、「大国に立ち向かう勇気ある指導者」のイメージを作りあげた。お陰で支持率は91%まで急騰。

なぜそんなことが可能だったのか。じつは彼には後ろ盾がいる。番組を放送したテレビ局のオーナーで反プーチンのオルガルヒ(新興財閥)イーホル・コモロイスキーだ。詐欺や資金洗浄容疑で米国から入国禁止処分を受けたこともあるユダヤ資本家で、悪名高き極右アゾフ大隊の創設にも関わった人物だ。

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ゼレンスキーも、ドラマの役どころとは全く異なるお金持ちだ。大統領選時の資産公開で、国内不動産15件、オフショア蓄財、英国やイタリアの住宅、株などを所有していることが公になっている。さらに、国際ジャーナリスト連合が2012年に公開した「パンドラ文書」では、当選直前に資産を秘密の国外企業に移していたことも明らかになった。まだ背後には知られざる事実がありそうだ。

一方、国内での高い支持率を背景にプーチンが5月9日に勝利宣言を一方的に行なうとの観測が広がっている。第2次大戦でロシアが壮絶な対独戦に勝利した記念日で、ロシア国民の愛国心が高まる特別の日だからだ。

しかし政治的日程を優先する戦争は手段を選ばなくなる。化学、生物兵器や戦術核の使用もありえる。その「レッドライン」を超えれば、戦争の局面はがらりと変る。ウクライナ戦争から米国・NATO対ロシアの戦争になるからだ。第3次世界大戦に発展しかねない危機だ。

プーチン政権が生き延びても、すでにロシアの名声は地に落ちた。経済も大打撃を受けている。これ以上のウクライナ市民の犠牲は誰も望んでいないだろう。

正義を振りかざしてプーチンを「戦争犯罪人」だと罵るバイデン大統領だが、ここらで相手の面子を立ててゼレンスキーの暴走にブレーキをかけたらどうか。

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戦争を終わりにできる男の本音

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プーチン大統領はいつまでウクライナ戦争を続けるつもりか。

戦闘地域から送られてくる目を覆いたくなるような映像があまりにも痛ましい。地面に無造作に掘られた長い溝。その中には木棺や黒いバッグに入れられた数多くの遺体が並べられている。ロシア軍の容赦ない攻撃を受けているウクライナ各地では葬儀もできないまま名ばかりの「集団墓地」に次々と民間人の遺体が埋葬されている。英BBC放送が伝えた。

ウクライナ非常事態省は、ロシア軍の無差別攻撃で2000人以上の民間人が死亡したと発表。また、レズニコフ国防相によれば、死亡した民間人の数が戦闘で死亡した兵士の数を上まわっているという。

戦争の最中に正確な数字を把握することは困難だ。双方から偽情報も常時流されている。だが連日のウクライナ情勢を伝えるニュースを見ていると、おびただしい数の民間人が犠牲になっていることは想像に難くない。

ナチスのユダヤ人迫害を逃れて米国に移住した元米国務長官で地政学の重鎮であるキッシンジャー博士の言葉を借りれば、まさに「人間は悲劇の不可避性とともに生きていかなくてはならない」という現実を我々は目撃している。

そんな残虐行為に対して欧米諸国は前例のないほどの厳しい経済制裁をロシアに浴びせた。国際銀行間通信協会(SWIFT)はロシアの銀行7行を決済ネットワークから排除したためロシア経済は早晩危機に陥る。デフォルト(債務不履行)の可能性もあり、ハイパーインフレが国民生活を襲うだろう。

プーチン大統領の独裁体制の庇護で巨万の富を築いてきた「オリガルヒ」(新興財閥)はすでに国外で脱出しているという。こういう連中の逃げ足ははやい。

それなら間もなく停戦に向かうだろうという観測が市場に広がって株価が上がった。

だが現実にはロシア軍の攻撃が止むどころか激化し、プーチン大統領のウクライナ全土制圧への意欲をさらに掻き立てているようにみえる。ロシア国防相は19日、ウクライナ西部の軍事施設を破壊するのに最新鋭の極超音速ミサイル「キンジャール」を使用したと発表した。

理由はいくつか考えられる。ひとつは最新の世論調査で過半数(58%)のロシア国民が彼の行動を支持していること。そして、第3次世界大戦を恐れる西側が武器と資金を送り込むだけで、実際の戦場にはウクライナが取り残されていることだ。

さらに言えば、プーチンは、エネルギー資源や穀物をロシアに依存しているEU諸国が制裁に腰が引けていることを知っている。中間選挙を控えたバイデン米政権が戦術核使用も辞さないロシアと本気で事を構えたくないことも承知だ。

バイデン大統領が声を荒げているのとは裏腹に西側は腰が引けているとみているのだ。

ロシア軍がウクライナの首都キエフに迫った10日、両国の外相会談がトルコの仲介で行なわれたが、停戦交渉に進展はなかった。それはそうだろう。北極熊と野ウサギのように力の差があまりにも大きい2者の争いの仲裁は極めて難しい。

平和実現のために弱者は妥協を強いられ、強者の国際法違反はうやむやになることも多いのが現実だ。これまでのクリミア、シリア、チェチェン、ジョージア、モルドバ、アフガニスタンなどへのロシア侵攻を見ればわかる。

1年前から計画し電撃勝利を狙ったといわれる冷徹な戦略家プーチンにとっては、ウクライナの強い抵抗やゼレンスキー大統領の英雄扱いは確かに誤算だっただろう。ロシアの名声は地に落ち、ロシア経済が危機を陥るのは間違いない状況だ。

しかし、これが独裁者プーチンの終わりの始まりだと判断するのは時期尚早だと首都キエフのニュースサイト「ウクライナの新しい声(New Voice of Ukraine)」編集長のベロニカ・メルコゼロバは言う。

「プーチンはウクライナを独立国だとは思っていない。だから欧州の自由な国として存続させるくらいなら破壊したいと思っています」

その言葉が事実であれば、戦争は始まったばかりだ。

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プーチン露大統領考

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旧ソ連の諜報機関KGBの工作員だったロシアのプーチン大統領は冷徹かつ天才的な地政学的戦略家で、各国首脳と会う前に必ず相手のことを徹底的に調査して周到な準備をする。

例えば、2018年にロシア・ソチの別荘でメルケル独首相と会談した際にはわざわざ大型の愛犬を「出席」させた。少女時代に犬に噛まれた経験があったメルケルが犬を苦手としていることを知っていたからだ。相手の弱みを突いて機先を制したのである。

2月初めにモスクワで行なわれた仏ロ首脳会談でも面白い場面があった。5メートルはあろうかという長テーブルの端にマクロン大統領を座らせ、自分は反対側に座ってウクライナ危機について協議したのだ。新型コロナ対策が理由だというが、そんなはずがない。3日後には友好国カザフスタンの大統領と近距離で会談し、北京では中国の習近平主席と肩を並べて談笑していた。プーチン流のいやがらせである。

ところが、そんな狡猾なプーチン大統領にしては今回のウクライナ侵攻はどうにも荒っぽい。少し前ロシア軍がいかにも撤退しているような動画を公開したが、じつはウクライナ国境のロシア軍は昨年の10万人から20万人へ増強していることは西側の偵察衛星から丸見えだ。

欧米諸国、とくに米国のバイデン大統領を「口だけ番長」だとなめきっているのである。己の力を過信して戦略家も判断力が鈍ってしまったのだろうか。

「プーチンはロシア語を喋る人はすべて彼を支持していると思っている。だがそれは大間違いだ」と、米国の駐ウクライナ大使だったウィリアム・テーラーは指摘している。

その通りだ。プーチンはウクライナ国民の心情を理解していない。2014年のロシア軍によるクリミア半島併合を目の当たりにしたウクライナの人々の大半は使用言語に関係なくプーチン大統領を嫌っている。

欧米の分断を狙った露骨なプーチン流の脅しは、逆に当初足並みが乱れていたNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)の結束を強める結果となっている。臆病なウクライナのゼレンスキー大統領さえも欧米からの軍事援助で強気の姿勢に転じている。ロシアにとっては手痛い誤算だろう。

それでも筋金入りの国家主義者プーチンは侵攻した。そうなれば、米当局の推計では、約5万の民間人が死亡また負傷し、500万人以上が難民になる。欧米各国はただちにロシアの主要銀行のドル取引停止し、さらなる金融引き締めやハイテク製品の輸出規制などに踏み切るだろう。原油価格がさらに高騰し世界経済が混乱する可能性もある。常識的に考えれば、現状でのウクライナ侵攻からロシアが得るものは少ない。

バイデン大統領の発言にも違和感を覚えた。18日の演説では「彼(プーチン大統領)はウクライナ侵攻を決断したと確信している。・・・ロシア軍が数日以内にウクライナを攻撃し、首都キエフを標的にしている」などと、まるで外交交渉を諦めたような話しぶりだった。

これではロシア大統領をますます軍事侵攻に駆り立てているようなものだ。地政学の巨人ヘンリーキッシンジャーによれば、相手の面子や立場もわきまえて相手とともに戦争を回避するのが現実主義外交である。

複数の米当局者がプーチン大統領の最終的な意図は不明だとしているが、事実ではない。ロシア大統領府の公式ウェブサイトに昨年7月掲載された論文から彼の歴史観と国家観がはっきりと読み取れる。著者は他ならぬプーチン氏自身だからだ。

「ロシアとウクライナの人々の歴史的一体性」と題された論文の要点を一言でいえば、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは歴史的に共通の文化や言語、宗教をもつ「大ロシア、小ロシア、白ロシア」という不可分の兄弟国だという主張だ。

しかし1991年にソ連邦が崩壊後、ウクライナ、ベラルーシをはじめ14カ国が独立。2000年代にはかつてロシアの一部だったバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)や、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアなどが次々とEU(欧州連合)に加盟してした。NATO(北大西洋条約機構)の加盟国も当初の12カ国から30カ国に拡大している。

地図をみれば一目瞭然だが、ウクライナはロシアとNATOの数少ない緩衝地帯で、同国のNATO加盟はプーチンにとっては重大な地政学的危機なのである。

じつは本音では欧米もウクライナの加盟には乗り気ではない。いっそのことバイデンがプーチンにNATOの東方拡大もウクライナのNATO加盟は当面ありませんよ、と密かに外交ルートを通して耳打ちしたらどうか。それでプーチン大統領も振り上げた拳を下ろしやすくなるだろう。

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あの男の再起

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人種差別を撤廃して黒人にも選挙権をというアメリカの公民権運動を主導し、1968年に凶弾に倒れた故マーチン・ルーサー・キング牧師。そのノーベル平和賞も受賞したキング牧師を讃える祝日の17日、各地で民主主義の危機を訴えるイベントやデモ行進が行なわれた。

半世紀以上前に彼が命を賭して守ろうとした民主制の礎である公平な選挙権が今、復権を狙うトランプ前大統領とその一派の悪巧みによって危機に瀕しているからだ。

「今そこにあるのは民主主義の緊急事態です」

米政治学者リチャード・ハセン教授は月刊誌「ザ・アトランティック」とのインタビューでそう述べ、危機感を露わにした。

もっと恐ろしい言葉はトランプの副補佐官だったフィオナ・ヒルの口から飛び出した。熱狂的トランプ支持者による昨年1月の連邦議会議事堂襲撃は民主的選挙プロセスを覆すための「ドレス・リハーサル(本番前の舞台稽古)」だったというのだ。

ただし次はさらなる流血の襲撃というのではなく、もっと卑劣で陰湿かつ戦略的な「投票抑圧」だという。

その言葉通り、前回の大統領選挙は「不正選挙」だったと根拠のない主張を続けるトランプに同調する共和党は、郵便投票の制限、身元確認の厳格化、投票所の削減、投票時間の短縮など、ありとあらゆる手段を使ってライバル陣営の投票を阻もうとしている。

トランプと共和党による政権奪還を狙った狡猾な「クーデター」が再び始まっていると言っても過言ではない。

米ブレナン司法センターによると、全米50州のうち43州で260本以上の法案が提出され、少なくとも19州で投票規制強化法が成立しているという。ほとんどが知事や州議会多数派が共和党の州だ。

例えば、南部ジョージア州では、郵便投票申請書が自動的に有権者に配布される制度が廃止、写真付き公的身分証(ID)の提示が義務化された。IDを所持していない黒人やマイノリティの民主党支持者を投票が排除する狙いだ。テキサス州では車の中からでも投票できる「ドライブスルー」投票も禁止された。

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新型コロナ大流行で多くの州が郵便投票などで投票がしやすくなるように規則を変更した。それが民主党に追い風となりトランプ敗北に繋がったと共和党はみているのだ。

対抗する民主党のバイデン大統領ももちろん黙ってはいない。「投票権は民主主義の出発点だ」として不公平な投票抑圧を厳しく批判している。しかしバイデン政権は共和党の企みを阻む決定的な手段を持っていない。

司法省は複数の州を提訴したが、保守派の判事が多数を占める最高裁で却下される可能性が高い。それならと民主党は連邦議会で各州の動きを封じる包括的な投票権法案を提出したが上院での成立は絶望的だ。重要法反可決には最低60票が必要なのだが民主党の現有勢力は50議席しかないからだ。

「共和党の愛国者たちの勢いは止められない。民主党の社会主義者たちを落選させる!」

11月8日に実施される中間選挙を目指してアリゾナ州で今年初めての大規模集会を開いたトランプはそう怪気炎を上げた。聴衆の数は約1万人。トランプ熱は日本で想像する以上にまだ熱いのだ。莫大な金額の選挙資金も集まっている

歴史を振り返ると、アメリカでは大統領就任から最初の中間選挙で与党がほとんど敗北している。バイデン大統領の支持率低迷と強まる投票抑圧を考えると、今年は民主党が負ける確立は非常に高い。共和党圧勝ということも考えられる。

 そうなれば、復讐に燃えるトランプが次期共和党大統領候補に選ばれることは現時点で確実視されている。そして大統領再選となれば、2024年に敗北するのは他ならぬアメリカの民主主義である。

 あなたの再出馬を阻むものは何かと昨年夏に保守派ケーブルテレビ番組で質問された75歳のトランプは赤茶けた顔に笑みを浮かべながら次のように答えていた。

 「医者からの悪い知らせだけだ」

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ロシア帝国復活の兆し

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台湾問題や人権弾圧などで火花を散らす米中関係や新型コロナ変異種の感染拡大に世界の注目が集まる中、したたかに権力を拡大しているかつての超大国のリーダーがいる。

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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領である。

昨年夏の国民投票で78%が賛成した憲法改正によって2036年まで現職に留まることが可能になった"帝王"プーチン(69)は、同年12月には大統領経験者とその家族を生涯にわたって刑事訴追から免責する法案にも署名した。これで「終身大統領」としてやりたい放題できることになったわけだ。

「(ロシアの外交政策は)あらゆる方角に国を拡大させることだ」

そんなアレクセイ皇帝時代の外務大臣オルディーン・ナシチョキンの言葉どおり、2014年に黒海北岸のクリミアを併合(ロシアからみれば奪還)したプーチンはさらにウクライナの国境付近に10万人もの兵力を集結させている。

来年早々にも17万5000人規模の軍事侵攻を計画しているとの米メディアの報道もあり、緊張が高まる一方だ。なにしろプーチンは目的達成の為には武力行使に躊躇がない。

直近の狙いは北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいというウクライナの望みを打ち砕くことだろう。だが、戦略家プーチンの野望はもっと大きい。かつてのソビエト連邦の復活なのである。

危機感を抱いたバイデン大統領は日本時間8日未明の米露首脳会談でロシアがウクライナに侵攻すれば「米国は同盟国と共に強力な措置で対応する」と警告を発した。これに対してプーチンは「国境で軍事力を増強しているのはNATOの方だ」と切り返したという。

なぜプーチンはそんなに強気でいられるのか。じつはその背景には国家保安委員会(KGB)の工作員から「皇帝」になった彼の揺るぎない国家観があるのだ。

プーチンは冷徹な国家主義者なのだ。彼の国家観のルーツはふたつの社会主義国の崩壊を経験したことにある。ひとつは、KGB工作員として1989年に東ドイツに駐在していた時に民主化運動によって政権が瓦解するのを目の当たりにしたこと。もうひとつは、ソ連に帰国後の1991年に誇り高き祖国が無様に崩壊してしまったことだ。反対勢力を打ち負かさなければ国家は崩壊すると彼は肝に銘じた。政治的対立に敗れた者は抹殺されると学んだのだ。

生き残るためには手段を選ばない。国内では新興財閥を傘下に収め、メディアを統制し、反対勢力を容赦なく弾圧した。海外では、クリミア併合でロシア国民の愛国心に火をつけ、2015年9月にはロシア史上初めて中東シリアへの直接軍事介入に踏み切って崩壊寸前に陥っていたアサド政権を救っている。

プーチンにはお気に入りのフレーズがある。それは「われわれに必要なのは偉大なる変革ではない。偉大なるロシアだ」だ。ロシアの経済力はいまや韓国程度の規模しかない。人口も日本とさして変らない。しかし侮ってはいけない。依然として米国を凌ぐ数の核兵器を保有する軍事大国であり、世界3位の石油産出量を誇るエネルギー大国だ。従来の同盟国であるインドとの軍事・エネルギー関係も強化している。

プーチンは情報操作や隠蔽の名人で、99%のロシア人より理性的だといわれている。新たなパワーポリティックスの時代に突入した今、米中対立だけでなく筋金入りの国家主義者が君臨するロシアの動向にも注意を払う必要がある。

思い返せば、プーチンと交流があり、惜しまれながら12月2日に政界を引退したアンゲラ・メルケル独大統領は見事にプーチンの姿を次のように言い当てていた。

「プーチンは別の世界に住んでいる」

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