蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。
現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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習主席の尽きぬ欲望

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身長180センチ、体重110キロの習近平国家主席は中国共産党史上で最重量級の指導者だ。だが国際舞台での存在感は今やそれ以上に大きく重くなっている。

3月10日、北京の人民公会堂で行なわれた全国人民代表大会で前例のない国家主席3期目続投を決めた習近平は、党首と軍のトップの地位と共に14億人の人口を擁する大国の権力を一手に収めた。

脇を固める「チャイナ・セブン」と呼ばれる7人の幹部もイエスマンばかりだ。

強権的なゼロ・コロナ政策は国民生活を混乱させ経済を疲弊させたが、権謀術数渦巻く国内での権力闘争を制した習近平は自信を深め、軸足はいまや外交にシフトしている。その要諦はどうやら伝統的「孫子の兵法」にある巧みな計略のようだ。

ご存じのように「孫子の兵法」とは春秋時代(紀元前770年〜前221年)の武将で軍事思想家だった孫武が書き綴った戦争の戦い方の指南書ある。しかし、戦乱の世を生き抜いた孫武が記したのは国家の大事である戦争をいかに避け、理不尽に命が失われないように策略を巡らす「不戦の哲学」だった。

彼の兵法では、真正面からぶつかって戦うのは下策、計略を使って戦わずして勝つことが最上とされる。ベトナム戦争やイラク戦争に突入して泥沼にハマった米国や、ウクライナ侵攻で苦戦しているロシアの戦い方は下の下なのだ。

だから習近平はウクライナ侵攻には反対だ。ウクライナは中国の友好国で、経済関係も飛躍的に拡大させてきた。中国初のご自慢の空母「遼寧」もウクライナから買ったものである。

とはいえ互いの独裁思考で気が合う朋友であるロシアのプーチン大統領が敗北しては困る。反米勢力の重要な一角が崩れてしまうからだ。戦争が続く限り習近平がロシアへの援助を止めることはないだろう。

絶対的権力者となった習近平の積極外交のひとつが、ウクライナ戦争勃発から1年目の3月24日に発表した12項目の「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題された文書だ。

いよいよ停戦に向けた仲介役を買って出るのかと思いきや、内容はロシア寄りで、とても和平提案とはいえない代物だった。じつは真の目的は「戦争屋」の米国と違って中国は平和志向だというイメージをロシア制裁に参加していない多数の非西側諸国に印象づけることだったのだ。

2013年に国家主席に就任以来、習近平の政治理念は「中国の夢」(中華民族の強国復権)である。彼の目論見は2035年までに政治的、経済的、軍事的にアメリカを凌ぐ大国になることだ。そのため軍備やハイテク技術を強化するだけでなく、「人類運命共同体」をスローガンに新興国を中心に各国と連携を強めている。

中国とロシアが主導する地域組織である上海協力機構(SCO)で中央アジア諸国を囲い込むと同時に、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)陣営の結束と拡大も呼びかけている。

それだけではない。中東諸国にも急接近中だ。中国の仲介でイランとサウジアラビアが7年ぶりに外交関係の正常化に合意したという3月24日の発表には驚かされた。長く敵対関係にある両国の和解はこれまで欧米がなし得なかった快挙だからだ。中東における中国の影響力の拡大を示す出来事だろう。

年内にイランと湾岸協力会議(GCC)諸国6カ国のサミットを計画しているという。習近平が目指しているのは、米国率いる民主主義陣営に対抗する巨大なアジア・ユーラシア経済圏の実現だ。

2035年までには台湾を軍事侵攻ではなく政治的経済的に絡め取って福建省と台北を高速道路と高速鉄道で結ぶ壮大な野望ももっている。

兵法三十六計のひとつに「暗渡陳倉(あんとちんそう)」の計がある。敵の目を別の方に惹きつけて、密かに目的地に行くという意味だ。ウクライナ戦争ばかりに目を奪われ、世界の大局的な動きを見失わないようにしたい。

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ノルドストリームの怪

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事実は小説より奇なりという。それにしてもなんとも不可思議な話だ。

ウクライナ戦争の最中の昨年9月、バルト海の海底をロシアからドイツまで走る天然ガスパイプラインが何者かによって爆破されるという大事件が起きた。しかし、その後賢明の捜査が行なわれたにも拘わらず、半年近く経った今も誰の仕業か分からないという。

ところが「あれはアメリカ政府の仕業だ」と仰天ニュースが今月始め流れた。暴露記事をブログで公開したのはアメリカのシーモア・ハーシュ記者だ。

ハーシュ記者といえば私の世代のジャーナリストにはお馴染みの人物である。かつてベトナム戦争時の米兵によるソンミ村虐殺事件など数多くのスクープを物にしてピュリッツァー賞も受賞した大ベテラン調査報道記者である。御年84歳でまだ現役だ。

この報道が事実なら、ロシアや同盟国ドイツの資産にアメリカが「テロ行為」を行なったことになるから深刻だ。バイデン政権がそんな危ない橋を渡るだろうか。

米政府はもちろん「完全なでっちあげだ」として否定した。一方、ロシア側は激怒して真相の解明を要求している。そりゃそうだろう。事件発生直後はマスコミも専門家もウクライナ戦争で悪役のロシアの仕業に違いないと疑ったからだ。先入観は恐ろしい。

よく考えてみれば、ロシアにとって莫大な利益をもたらすノルドストリームというパイプラインを破壊してもなんの得もない。

私もさっそく記事を読んでみた。まるで冷戦時代のスパイ小説を思わせるような詳細な内容で興味をそそられた。

昨年6月、北大西洋条約機構(NATO)は加盟を申請しているスウェーデンとフィンランドとともにバルト海で大規模な軍事演習を行なった。その際にフロリダで養成された米海軍の深海ダイバーたちが爆発物を仕掛け、米国が疑われないようにその3ヶ月後に遠隔操作でパイプラインを破壊したというのだ。特殊部隊ではないというところがポイント。アメリカでは海軍が単独で行動した場合議会への報告が不要である。

命令を下したのはもちろんバイデン大統領だという。ホワイトハウス、国防総省、中央情報局(CIA)が関与し、ノルウェー政府と軍が協力した。

ロシアが大軍をウクライナ国境に終結させる中、バイデンはロシアのプーチン大統領がパイプラインを使って天然ガスを「兵器化」することを恐れていたという。欧州諸国のロシア依存が高まる一方で米国との同盟に亀裂が入るからだ。

計画は2021年末から昨年初めにかけてサリバン国家安全保障補佐官を中心に、ホワイトハウスに隣接する古びたアイゼンハワー行政ビルの一室で秘密裏に練られたという。

海軍は潜水艦によるパイプライン攻撃を、空軍は時差爆弾の投下を提案したが、「米国だと知られずパイプラインを爆破する方法がある」というCIAの案が採用された。

まるで米小説家トム・クランシーが書いていた米ソ対立の冷戦時代に逆戻りしたようではないか。(ちなみにクランシーのベストセラー『レッドオクトーバーを追え』のモデルになったソ連の巨大戦略原潜の内部を初めて取材した西側テレビジャーナリストは私だった。)

ただ、気にかかることがある。それはハーシュの情報元が「この極秘作戦を直接知る匿名の人物」だけだということだ。それに記事の内容を精査すると時系列などいくつかの矛盾点がある。信憑性が低い。なんらかの情報操作に乗せられたか、あるいは彼自身が功を焦ったのだろうか。

では、パイプラインを破壊したのがロシアでもアメリカでもないとすれば、いったい誰の仕業なのか。合理的に考えれば、ウクライナかもしれない。ロシアの資金源にダメージをあたえ、ロシアが天然ガスを武器に欧州諸国の分断を図ることも阻止できる。

米国やNATOから強力な武器支援を受けている今のウクライナなら海底での爆破工作も可能かもしれない。

もちろんこれは単なる推測だ。裏付ける証拠はない。事件の真相はまだ謎のままだ。古代アテネの三大詩人のひとりアイスキュロスはこんな言葉を残している。

「戦争の最初の犠牲者は真実である」

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移り行くダボス会議のあるべき姿

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■お知らせ■
2023年1月17日、編著として参加した書籍「2023年 野蛮の時代 - 米中激突第2幕後の世界 -」が創成社より出版されました。中国・共産党大会とアメリカ・中間選挙後の世界を展望した1冊で、欧州情勢をヨーロッパ在住の執筆陣がウクライナ侵攻の影響など分析しています。
プーチンにより野蛮化する世界、ウクライナとロシアは今後どうなっていくのか。そして、バイデンや習近平の目指す世界とは。4部構成、全19章からなる読み応えのある1冊になっています。

今回、書籍の発売を記念してトレトレさんでプレゼントキャンペーンを行っていただいています。みなさん、どしどしご応募ください。

ご応募は下記の画像をクリックして専用ページよりご応募ください。

▼ご応募はこちら▼

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世界の政財界のリーダーや集まることで知られる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称ダボス会議が1月16日から20日までの会期でスイス・アルプスのリゾート地ダボスで開催された。

マスコミも注目する華やかなイベントだ。しかし、今年は創設者のドイツ経済学者クラウス・シュワブ(84)は頭を抱えているに違いない。

「国際協調で世界をよくする」という高尚な目的とは裏腹に、ウクライナ戦争を巡る深刻な米ロ対決が暗い影を落としているし、善かれと思って推進してきたグローバリズムが世界各国で深刻な経済格差を生み出し、四方八方から攻撃の的になっているからだ。

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主要先進7カ国(G7)首脳のうち、今回ダボスで講演したのはドイツのショルツ首相のみ。同氏はドイツ製戦車をウクライナに供与することを承認するかどうかで注目されている。

バルト海、北欧、東欧などウクライナに地理的に近い同盟国と欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の代表者は多数出席したが、かつて積極的に参加していたロシア財界の大物や政治家、学者の姿は当然のごとながら皆無だった。

その代わりといってはなんだが、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシは、ダボス会議が始まった当日に合同軍事演習を開始。ロシア軍がベラルーシ経由で新たな大規模攻勢をかけるのではとウクライナや西側諸国を不安に陥れている。

もう一方の米国はどうか。閣僚のヘインズ国家情報長官やウォルシュ労働長官、タイ通商代表部(USTR)代表は顔をみせたものの、「米国勢はどこにいる?」と参加者から不満の声が上がったほどホワイトハウスからは誰も出席しなかった。

18日、スイスのチューリヒで中国の劉鶴副首相と初の対面会談をしたイエレン財務長官もダボスに寄ることなくアフリカへ向かった。

米ロ首脳不在のダボスは、グローバリゼーションという経済の相互依存関係をいくら深めても世界の平和は担保されないという現実を突きつけたといえるだろう。

そのうえ近年、ダボス会議に対する評判はあまりよろしくない。地球規模の環境問題や経済的不平等を議論するといいながら、実態は現実離れした「金持ちクラブ」で、商談の場にもなっているというのがその理由だ。

とりわけスウェーデンの若き環境活動家グレタ・トゥンベリは手厳しい。ダボス会議に参加している政財界のリーダーこそが「地球の破壊」に拍車をかけていると非難している。

それはそうだろう。気候変動や世界の貧困に懸念を表明する一方で、毎年高額の出資や参加費を支払う企業トップらは地球温暖化の元凶である二酸化炭素を大量に吐き出すプライベートジェット1000機以上でやって来て高級ホテルに滞在し、億万長者が主催する晩餐会や大企業のカクテルパーティで盛り上がっているのだから。

会期中、周辺の空港を利用するプライベートジェットが増えたためCO2排出量が4倍に増えたとオランダの環境シンクタンクCEデルフトが分析している。

2020年のダボス会議で、ジャーナリストで歴史家のルトガ-・ブレグマンはこの集まりを「アルプス山脈にはびこる偽善」と揶揄した。

それでも、グローバルな対話と意見交換の場を提供してきた同会議は一定の役割を果たしてきたと主宰者のシュワブは言う。

今年53周年を迎えたダボス会議はもともと欧州経済の活性化を目指したビジネスリーダーを中心とした集まりだった。やがて政治指導者も招かれるようになり、官民が連携してグローバルな諸問題について議論する場に変貌していったのだ。

その間、歴史的な舞台にもなった。1988年には対立が激化したギリシャとトルコの両首相がダボスで会談して戦争が瀬戸際で回避された。89年には韓国と北朝鮮が初の閣僚級会合をダボスで開催している。90年には東西ドイツの首相が両国の統一について会談する場も提供した。

さらに言えば、米同時多発テロが起きた2011年には米国と米市民との連帯を示すため会場がニューヨークに移設されたこともあった。

 新型コロナウィルス大流行とウクライナ戦争を受けた今年のテーマは「分断された世界における協力」だった。

だが、実際には協力よりも分断が目立った。会議にビデオで参加したウクライナのゼレンスキー大統領は持ち前の演技力で武器供給の加速や国際社会の一致団結した支持を訴えて拍手喝采を浴びた。しかし集まった財界人の間ではウクライナ戦争はすでに最大の関心事ではなかったようだ。

「ウクライナに対して出来ることはすべてやったという雰囲気が漂っていた」と、アムネスティ・インターナショナル事務局長のアニエス・カラマールは米TIME誌の取材で語っている。やはり実利優先か。

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地の利は人の和に如かず

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前回の王者フランスと世界最高峰のプレーヤーと称されるリオネル・メッシ選手率いるアルゼンチンが激突した今年のワールドカップ(W杯)カタール大会決勝は稀に見る名勝負だった。

私も深夜3時過ぎまでテレビにかじり付いてアルゼンチンの勝利に歓喜したひとりだ。サッカーはなぜか人々の血を沸き立たせて、ナショナリズムが剥き出しになるゲームである。

 調べてみたら、諸説あるサッカーの起源の中にいかにもぴったりなイングランド説というのがあった。8世紀頃、サクソン人(英国人)がスカンジナビアから攻め込んできたデーン人を打ち負かし、切り取った敵の将軍の首を蹴飛ばして勝利を祝ったという説である。

想像しただけでも血生臭く残酷な話だが、当時の男たちの荒々しい勝利の雄叫びが聞こえてくるようで心が躍る。伝説はこうでなくてはいけない。そういえばサッカーボールの大きさはちょうど人間の頭ぐらいではないか。それと比べれば、2006年のベルリン・ワールドカップ(W杯)決勝戦で起きたフランス代表主将ジネディーヌ・ジダン選手の頭突きなど可愛いものである。

じつは2006年のベルリン大会では、お祭り騒ぎに終始した日本のメディアが報じなかった重要な出来事があった。それは主催国ドイツでの愛国心の復権である。ナチスの残虐行為という重い歴史を背負ったドイツでは、愛国心はそれまで「汚い言葉」とされてきた。極右の軍国主義を想起させたからだ。

しかし2006年W杯では老若男女が祖国の国旗を誇らしげに振りながらドイツ中を練り歩くことができた。その光景を欧米のメディアは「ドイツが第二次世界大戦での敗戦から半世紀以上かけてようやく"普通の国"に戻った」と伝えていた。

イタリアに敗れたドイツチームは準決勝で姿を消したが、ドイツ国民はW杯開催を契機に名実ともに国の誇りを取り戻したというわけだ。それは1936年にヒトラーがナチスのプロパガンダとしてベルリン・オリンピックを開催したのとは違い、国民が歴史の重圧から開放された瞬間でもあった。

羨ましいかぎりである。なぜなら同じ敗戦国である我が国では愛国心はまだ「汚い言葉」のままだからだ。現地であれほど「ニッポン!ニッポン!」と絶叫し、日の丸を振り、君が代を口ずさんでいた日本人が、ひとたび国に戻れば国旗や国歌にソッポを向く。そのくせ北朝鮮にミサイルを発射された途端に,政府もメディアも国民も慌てふためいて国防を語り、先制攻撃もやむなしなんて物騒な議論まで噴出する。

北朝鮮の度重なるミサイル発射やウクライナ戦争、中国の台湾侵攻リスクなどを背景に、永田町では国防を巡って増税の議論が喧しい。しかし岸田政権の対応は軸の曲がったコマのようにふらふらしていてじつに心許ない。

過去の克服と国際協調にゆれたドイツは、冷戦の終焉とともに一国主義から多国間主義にシフトし、非人道的行為を阻止するためには同盟国としての責任を果たすという選択をした。その決断の背景には政策を支持する国民と、ようやく取り戻し始めた祖国に対する誇りと愛国心があった。

日本はどうか。公開された最新の世界価値観調査によれば、「国のために戦いますか」という問いに「はい」と答えた日本人はわずか13.2%と世界79カ国中最低だ。ちなみに米国は59.6%、英国は64.5%、ロシアは68.2%、デンマークは74.6%。いちばん高かったベトナムは96.4%だった。

敗戦後、徹底した反戦教育がなされ日本国憲法が他国の憲法にない戦争放棄条項を有しているからだろうか。それとも考えることさえ諦めているのだろうか。日本は「はい」が一番少ないだけでなく、「わからない」という回答が38.1%と世界でもっとも多かった。

平和願望が強く、しばしば世界一幸せな国と呼ばれるデンマークで「はい」が7割強と高いことに驚かれた方がいるかもしれない。その理由は、ナチスドイツの侵略など度重なる領土争奪戦で多くの犠牲を払った同国では「国土や国家を守るのは自国民しかない」という国民の共通意識が育まれたからだ。それがお互いを助け合うという社会福祉政策の精神的支柱にもなっているのである。

目先の増税議論も結構だが、デンマークのように国民が自国に誇りを持ち平和を守れる政治を実現する長期的ビジョンがいま最も重要なのではないか。

「愛国心とは一時的な熱狂的感情の発露ではなく、人生を通した穏やかで安定した献身である」と、米国の政治家アドレー・スティーブンソンは語っていた。保守主義の神髄だろう。

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トランプ、共和党内の刺客

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流石狡猾なドナルド・トランプ前米大統領である。またも見事にマスコミを煙に巻いた。

今月行なわれた中間選挙の激戦区に彼が無理矢理送り込んだ「刺客」候補が軒並み惨敗して批判の矢面に立たされたトランプは、「重大な発表をする」と意味深な事前告知でメディアを惹きつけ、共和党や家族の反対を押し切って、15日にフロリダの大邸宅でド派手な2024年大統領選出馬セレモニーを敢行した。

するとメディアの関心は一気に中間選挙の結果から次期大統領選でトランプはどうなるという話題に移ってしまった。してやったりと薄ら笑いを浮かべるトランプの顔が目に浮かぶ。

「マスコミについて俺が学んだのは、連中はいつもニュースに飢えていて、それもセンセーショナルな話しほどよいということだ」と、トランプは自伝で述べている。

ところが、虚言、暴言、妄言で大統領退任後も共和党内で猛威を振るっている前大統領の前に思わぬ強力なライバルが現れた。かつて「ミニトランプ」と呼ばれたフロリダ州知事のロン・デサンティス(44)である。

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中間選挙で民主党候補を「地滑り的」な大差で破り再選され、他州で共和党候補が苦戦する中、一夜にして激戦州で「レッドウェーブ(赤い波。赤は共和党のシンボルカラー)を起こしたのだ。今や次期大統領選で共和党の「脱トランプ」候補の本命として脚光を浴びている。

保守系メディア界の大物でルパート・マードック率いる経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ),タブロイド紙ニューヨーク・ポスト、そしてFOXニュースもこぞって「共和党の未来」だとデサンティスを称賛。WSJに至っては社説で「トランプは共和党最大の敗者」だと名指しで前大統領を厳しく批判した。

トランプにとっては旧友からの手痛い仕打ちだ。マードック傘下のメディアは共和党の支持基盤や党幹部に大きな影響力を持っている。昨年1月、過激な連邦議会議事堂襲撃事件をトランプが煽るまでは前大統領を後押ししていた。

デサンティスは、派手な身振り手振りや強権的な政治姿勢だけを見れば確かに「ミニトランプ」だが、傍若無人なトランプと違って頭が切れ、経歴は超エリートだ。スポーツ万能で、アメリカの二大名門大学イェールとハーバード法科大学院で学び、大学院生時代には海軍エリート部隊「シールズ」に所属してイラク戦争も経験している。舌鋒鋭く行動力もある若手保守派そのものだ。

共和党右派やいずれトランプを排除したいと思っている共和党支持者にとっては、トランプ抜きで「トランピズム(右派保守思想)」を実現してくれそうな期待の候補だろう。

しかも彼にはハリウッドスターを彷彿とさせる美人の夫人ケイシーさんがついている。8日にフロリダ州タンパで行なわれた祝賀パーティでは、イエローとゴールドのゴージャスなロングドレス姿で3人の子供たちと壇上に上がり、満面の笑顔で夫の勝利を祝っていた。

ケイシーさんはサウスカロライナ州のチャースルトン大学で経済学を専攻し、卒業後はフロリダ州のテレビ局WJXTのキャスターを務めていた。デサンティスとはゴルフ練習場で出会ったという。下院議員だった夫の政治活動を支え、デサンティス人気の一翼を担っている。今年9月、大型ハリケーンがフロリダ州を直撃した際には被災者救済基金の責任者として4500万ドル(約63億円)の救援金を集めた。

しかしながら、デサンティスの人気はバブルに終わる可能性もある。国政選挙ではまったくの未知数だからだ。大統領選への態度は明言していないが、今回の選挙戦でざっと見積もって2億ドル(約280億円)の政治資金を集めている。

彼が出馬表明すれば、トランプの怒りを恐れて遠慮している共和党の政治経験豊富な面々も名乗りをあげてくるだろう。マイク・ペンス前副大統領、マイク・ポンペオ前国務長官、ニッキー・ヘイリー前国連大使などが考えられる。

2019年にニューヨークからフロリダ州の自宅兼リゾートに住民登録を移したトランプの存在も不気味だ。2018年のテレビ選挙CMでデサンティス幼い息子に「トランプ自伝」読み聞かせる姿を恥ずかしげもなく見せて前大統領に媚びをへつらっていた。ところが今は袂を分かっている。

人一倍負けん気の強いトランプが黙っているはずがない。「あいつは忠誠心がない!平凡な共和党知事だ!」と自身のソーシャル・メディアでこき下ろした。これからさらにデサンティス潰しの悪手を打ってくるだろう。

トランプは黒いマフィア人脈からふたつの掟を学んでいる。ひとつは、やられたら容赦なくやりかえせ。もうひとつは、ボスを裏切った奴は絶対に許さないだ。

トランプの逆襲を侮るとデサンティスの大統領出馬は幻想に終わる。

トランプの悪巧みについては拙書『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイドスキル』(プレジデント社)をぜひお読みいただきたい。

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