蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

就任式から透ける情景

2025/01/24

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落ちるところまで落ちたものだ。

日本時間21日午前2時から眠い目をこすりながらドナルド・トランプの2度目の大統領就任式と一連の祝賀セレモニーそして就任演説までCNNの生放送で観た後の率直な感想だ。

かつてアメリカ大統領の就任式といえばそれなりに伝統的な重々しさがあり格調高い雰囲気があったが、トランプは違った。すべてを軽薄な政治ショーにしてしまった。

記録的な寒波のため就任式は屋外からワシントンの連邦議会議事堂内の円形大広間に急遽変更された。奇しくも4年前バイデンの大統領就任を阻止しようとトランプに扇動された暴徒たちが乱入し、警察官5人が犠牲になった因縁の場所である。

巨大な円形ドーム下に設えられたステージ立ったトランプは神妙に右手を挙げて型通り宣誓を暗唱したが。民主党議員たちは目を伏せ、共和党議員らは上機嫌でその瞬間を満喫していた。トランプは宣誓中に聖書に左手を置くことさえ忘れていた。メラニア夫人の帽子の鍔(つば)が邪魔でキスできなかったらしいなんてことまでニュースになった。あほらしい。

この宣誓の文言はアメリカ建国の父と呼ばれるトマス・ジェファーソン、ジョージ・ワシントン、ベンジャミン・フランクリンなどを含む55人の代表者たちがフィラデルフィアで憲法制定会議を開催した際に大統領就任の要件として書き入れたものだ。

「私は合衆国大統領の職務を忠実に遂行し、全力を尽くして合衆国憲法を維持、保護、擁護することを厳粛に誓う(または確約する)」のわずか35語(英語)には大統領は国家元首だが決して憲法を超越した存在であってはならないという建国の父たちの先見の明がしっかりと刻み込まれている。

ところが7700万人の有権者の後押しで史上最年長の大統領としてホワイトハウスに返り咲いた78歳のドナルド・トランプは法律など端から眼中にない。自らが法よりも偉大な「王」になったという妄想を抱いて2度目の就任式に臨んだに違いない。

なぜなら唯我独尊のトランプは今や上下両院で過半数を占める共和党をカネとマフィアまがいの脅しで支配している。そのうえ1期目在任中にお気に入りの判事3名を最高裁判事に指名し、9人のうち6人が保守強硬派という自らに有利な不均衡まで作り出した。そのため保守政治に沿った判決が立て続けに下され、宗教対立や人種差別など分裂国家アメリカの現実が露わになっている。

自己顕示欲の塊のトランプの辞書には「セックス」や「脅し」という言葉はあっても、弱者に対する「共感」とか「慈悲」はない。ワシントン国立大聖堂での礼拝で主教が移民や性的マイノリティに慈悲を求めると,不機嫌をもろに出してあきれ顔をみせた。

そのくせ、就任演説では選挙戦中に自身に起きた暗殺未遂事件に触れて「私はアメリカを再び偉大にするために神によって救われた」と自分を祭り上げることだけは忘れないのがトランプだ。

そんなメッセージが厳しい経済状況に置かれた中西部や南部の高卒以下の白人ブルーカラーや移民流入に危機感をいだくキリスト教原理主義者たちのハートに突き刺さることを知っているからである。常識はないが悪知恵だけは良く働く。

第2次トランプ政権にとって最優先事項は移民対策だ。不法移民の大量国外追放を公約の目玉として政権奪還に成功したトランプはとにかく強いリーダーを演出したいのだ。

南部国境の非常事態を宣言し、軍隊を送り込んで不法入国を即時阻止すると宣言。移民に寛容な政策を行う「聖域都市」のひとつシカゴで大規模な不法移民取締りを始める計画だと米ウォールストリートジャーナルが伝えた。他のターゲットはボストン、マイアミ、ニューヨークなどだという。

不法移民取締り強化だけでなく、移民希望者の合法的入国制度も直ちに廃止し市民権の出生地主義制度も撤廃する方針だ。

だが、これらの政策に対して多くの反対者が裁判所に異議申し立てをするのは必至だ。米国内の不法移民1500万人を実際に強制送還するには10年余りで150兆円の費用が掛かるという試算もある。容易なことではない。

対外的には、バイデン政権の政策を大きく転換させて地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」から離脱する大統領令に署名。世界保健機構(WTO)からも脱退する文書にも署名した。

就任初日に大統領令に署名すると豪語していた中国やカナダやメキシコに対する関税発動は様子見なのか先送りされた。だがトランプのやり口はいわゆる「狂人理論」だ。こちらが何を仕出かすかわからないほど狂っていると見せかけて相手から譲歩を引き出す手法である。まだ油断は禁物だ。

もう一点注意したいのは、これまでも指摘してきたが、トランプは孤立主義ではないということだ。その証拠に就任演説では「アメリカは富を増やし、領土を拡大し、・・・新たな美しい地平線に我々の国旗を掲げていく」と発言している。

彼の世界観は「収奪的」なのだ。他国をアメリカの属国だと見下している。だから諸外国の産業をアメリカに移すことを強要する。自由貿易ではなく高い関税の壁でアメリカ市場を守ろうとする。

「カナダはアメリカの51番目の州」「デンマーク領グリーンランドはアメリカに渡せ」とか「パナマ運河は軍事力を使っても取りもどす」という発言はまさにこれから始まる危険なトランプ流デール(駆け引き)を予感させる。

とはいえ大統領令で「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に名称変更するというのはあまりに子供じみている。

これに対して、メキシコのシェインバウム女性大統領は、「アメリカ・メヒカーナ(メキシコ)」と表記された17世紀の米大陸の地図を示して、「それなら北米全体をメキシカン・アメリカにしたら」と逆提案したのはなかなかエスプリが効いていた。混乱の中でも一国のリーダーはこうあって欲しい。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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