蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

それでも人気のトランプ

2024/09/19

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長く米国の政治を取材してきた私は、近年の米大統領選のテレビ討論会は放送局が視聴率を稼げるエンターテインメント的要素があっても、かつてのケネディ対ニクソン(1960年)のような11月の投票結果を左右するほどの影響力は無くなったと思っていた。

しかし、去る9月10日にフィラデルフィア国立憲法センターで行われたドナルド・トランプとカマラ・ハリスの直接対決を目の当たりにして、これは大きなターニングポイントになるかもしれないと感じるようになった。ハリスが勝てば米国史上初の女性で黒人の大統領が誕生するからだ。

下馬評では接戦が予想されていた。だが、開始直前に黒のパンツスーツで身を固めた身長160センチ足らずの小柄なハリスが身長190センチ・体重110キロの巨漢トランプに堂々と歩み寄って握手を要求した瞬間から流れが決まった。

虚を突かれたトランプは少なからず狼狽したように見えた。傲慢で支配欲が人一倍強いトランプにとってハリスの先制攻撃は屈辱的な瞬間だったに違いない。

105分に及んだ討論会では、動揺を隠せないトランプは終始わめき散らし、ハリスを「マルクス主義者」「我が国史上最悪の副大統領」などと罵った。だがハリスはときおり笑みを浮かべながら前大統領を幾度も劣勢に追い込んでいった。

CNNが視聴者を対象に行った即時世論調査では63%対37%という大差でハリスの勝利。ファクトチェック担当記者によると、トランプは討論中に移民による犯罪、インフレ、後期妊娠中絶などについて30回以上もの虚偽発言をしたという。

「最初から最後まで、カマラ・ハリスはアメリカ史上最も成功した大統領討論会のパフォーマンスを披露した」と、歴史家のマイケル・ベルロスはザ・ニューヨーカー誌の取材で副大統領を絶賛している。
さらに、ハリスに予期せぬ強い味方が現れた。グラミー賞14回受賞を誇る人気歌手のテイラー・スウィフトが討論会直後にインスタグラムで「彼女は着実な手腕と才能を備えたリーダーだ」とハリス支持を表明、副大統領への投票を促したのだ。スウィフトには2億8300万人のフォロワーがいる。ハリスにとってはこれ以上ないほどうまくいった夜となった。

しかし、討論会で勝利したからといって選挙で勝てるとは限らない。2016年のトランプも2004年のジョージ・W・ブッシュ大統領も選挙前の討論会では敗者と判定されたが、ホワイトハウスを勝ち取っている。

それにしてもトランプはなぜあれほど無様に苦戦を余儀なくされたのか。

じつはその裏には用意周到にハリス陣営がトランプに仕掛けた「罠」があった。敏腕検察官だったハリスは、自分がトランプをうまく刺激すれば彼が常軌を逸した発言で自滅するだろうと読んでいたのである。

例えば、ハリスは全米の観衆に向かって「トランプ集会に一度行ってみたらいいわよ」という異例の呼びかけをした。「ハンニバル・レクターや風車が癌を引き起こすなんて妄想に・・・参加者は退屈して早々と会場を去っているから」とトランプをからかったのだ。この発言にトランプはぶち切れ。支離滅裂の反論を繰り返したが、ハリスは平然と笑みを浮かべていた。

ハンニバル・レクターはトマス・ハリスの小説に登場する架空の人物でヒトの死肉を異常に好む連続殺人鬼だ。トランプが聴衆の恐怖を煽ろうしたのか実話と勘違いしたのか不明だが、「彼は素晴らしい男だ」と公の場でレクターをやたら称賛し続けている。

またハリスが移民問題で誘い水を向けると、トランプはハリスが「刑務所にいる不法移民に性転換手術をさせたがっている」と意味不明な発言をしたかと思えば、オハイオ州でハイチ移民が「犬を食べている。猫を食べている。連中が食べているのは住民のペットだ!」というソーシャルメディアのフェイク記事をあたかも事実のように叫ぶ始末。まんまとハリスが仕掛けた罠にハマっていった。

苛立ったトランプは自身のソーシャルメディアで「次のテレビ討論会には応じない」と怒りを露わにしたが後の祭り。全米で推計6700万人が討論会を視聴した。

だが、それでもトランプを過小評価することは危険だ。トランプは米歴史上初めて2度も弾劾され、レイプ事件の責任を問われ、88件の刑事訴追を受け(そのうち34件で有罪判決)、軍兵士の尊い犠牲を侮辱してきたが、選挙まであと50日ほどになった今でも激戦州で接戦を繰り広げている。つまりトランプ支持者の間では彼の破天荒な行動、虚言、暴言、妄言、政治的統率力の無さなどはすでの織り込み済みなのである。それだけではない。

政治学者のバーバラ・ウォルター博士は著書『アメリカは内戦に向かうのか』の中で、アメリカが完全な民主主義でも完全な専制政治でもないアノクラシーという極めて不安定な状態にあると指摘。トランプが再選されれば暴力的な対立に歯止めが効かなくなるリスクが高まると警鐘を鳴らしている。9月15日にはトランプがフロリダの邸宅に近いゴルフ場でプレー中にライフルを持って茂みに隠れていた男をシークレットサービスが見つけて発砲する事件が起きた。容疑者は拘束されトランプは無事だった。トランプ暗殺未遂は7月のペンシルベニアの事件に続いて2回目だ。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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