蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

げに恐ろしきはトランプなり

2023/12/18

来年の最大のリスクは何だろうか。私はアメリカ大統領選で傍若無人なドナルド・トランプ前大統領が再選だと思う。

このままだと、81歳のバイデン大統領と77歳のトランプのだれも望まない老老対決になりどちらが勝っても世界情勢は不安定なるが、もしトランプ再選となれば世界に激震が走るだろう。

虚言、暴言、妄言は数限りなく、ルールに基づく国際秩序など眼中にない男が世界最強のアメリカ大統領に返り咲いた世界を想像していただきたい。反グローバリズムの嵐の中で、国連も北大西洋条約機構(NATO)も気候変動も無視される

「アメリカ・ファースト」という単純なスローガンの下、産業政策では化石燃料や従来型の重工業、防衛産業を重視され。露骨なイスラエル支持で中東にさらなる混乱を招き、米中対立を激化するだろう。

ウクライナ支援はストップ。アメリカの武器支援なしに戦えないウクライナはロシアのプーチン大統領が突きつける停戦条件、つまりクリミアと東部・南部の併合承認とウクライナの中立化・非武装化、を受け入れて、戦争はロシアの勝利に終わるだろう。

私はアメリカのニュース週刊誌『TIME』の特派員の頃から金満の悪徳不動産業者だったトランプを追いかけてきた。『ドナルド・トランプ最強のダークサイドスキル』という暴露本も書いた。彼を一言で表せば“rogue”(ならず者)だ。祖父も父親もそうとう悪質だった。

それでも大統領1期目は政治・外交に無知なトランプは保守派の専門家や軍幹部の助言に従うことが多かった。しかし権力の味を占めた2期目となれば「俺は王だ!」と叫んで歯止めが利かなくなるだろう。

トランプは議会乱入事件をはじめ4つの刑事裁判で合わせて91の罪状で起訴されている。しかしトランプは損得勘定はできても善悪の区別がつかない。有罪になっても、大統領に再選されれば自分で自分を恩赦するだろう。

投票日は来年の11月5日だから、それまでに何が起きるかわからない。しかしトランプが共和党の大統領候補に選ばれることはまず間違いないだろう。

そこで今回は、私が取材してきたトランプのダークサイドを少しだけご紹介しておきたい。

トランプは道徳より金儲けが伝統の家庭で育った。祖父のフリードリヒは一攫千金を狙って16歳でドイツから渡米。ゴールドラッシュで集まった荒くれ男たちから掘っても金などない土地の採掘料をだまし取ったうえ、自分で開業した飲食店で売春婦を斡旋してがっぽり稼いだ。

その後を継いだトランプの父親フレッドはニューヨークで不動産会社を設立。イタリア系マフィアと関係を深めて詐欺まがいの取引でブルックリン最大の不動産業者になり上がった。息子ドナルドも父の人種差別主義とマフィアコネクションを引き継いで「不動産王」と呼ばれるようになった。

トランプは美食も芸術も全く興味がない。あるのは金儲けだけだ。南部フロリダ州にトランプご自慢の自宅兼リゾート「マール・ア・ラーゴ」がある。ニュースでよく登場するからご存じだろう。トランプが中国の習近平主席や日本の安倍首相をもてなした場所でもある。

しかしこの豪華別荘を手に入れるためにトランプが使った手はいかにもワルらしくえげつなかった。

もともとの所有者はマージョリー・メリウェザー・ポストというアメリカで初めてシリアルを発売した食品会社の相続人だった。彼女の死後、1800万ドルで売り出されたことを知ったトランプはそれよりも桁外れに安い金額を提示。断ったら前の浜辺に「世にもおぞましい建物を建てて海をみえなくしてやる」と遺族を脅した。遺族はなくなく半値以下の800万ドルで手放した。トランプの後ろにはマフィアの弁護士がついていたからだ。

トランプが黒い組織の人脈から学んだ掟はふたつだ。ひとつは、やられたら容赦なくやり返せ。もうひとつは、ボスを裏切ったやつは絶対に許さないである。それが大統領になってもトランプの仕事のルールになっている。脅しと資金力で共和党はすっかりトランプに乗っ取られてしまった。

儲かるとわかると、トランプは節操がない。教育分野にも触手を伸ばしたことがある。「誰でも大金持ちになれる」の売り文句で華々しく「トランプ大学」の開校を発表したのだ。トランプの話を信じて5000人以上の受講者が集まった。

ところが実際には大学と呼べるニューヨーク州教育機関の基準をまったく満たしておらず、素人を手玉にとって法外な授業料を巻き上げる詐欺ビジネスだった。後に受講者から訴えられたトランプはしぶしぶ和解金を支払っている。トランプの辞書では和解は敗北ではないらしい。

トランプ大学の教科書にはこう書かれていた。「成功した人間は、お返しをしなければいけない、と私は信じている。・・・そうしなければ決して満たされる人生を送ることは出来ないのだ」

こんな罪悪感の欠片もなく平気で嘘をつけるほら吹き男を分断国家アメリカは再び大統領に選ぶのだろうか。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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