蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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非武装中立地帯から眺める未来

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北朝鮮ミサイル危機が深刻化する中、朝鮮半島を分断する軍事境界線の非武装中立地帯(DMZ)を久々に訪れた。晴れた日には肉眼でも北側の風景がはっきりと見える。60年以上にわたる南北分断の板門店。近くにはソウルまでわずか50キロ程の所で発見された第3地下トンネルもある。1970年代に北朝鮮が奇襲攻撃のために掘ったものだ。

現在4本のトンネルが確認されているが、一番大きくて知られているのは全長1,635メートル、幅2メートル、高さ2メートルの第3トンネル。北朝鮮の完全武装した兵士3万人が1時間以内に移動できる規模だ。当時の北朝鮮の南進欲の強さが感じられるトンネルである。入口の棚に置かれたヘルメットを被って長いスロープを降りていくと、湿気と埃で息苦しくなるような薄暗いトンネルが北に向かって続いていた。途中でコンクリートの壁があり、その向こうが北朝鮮だ。

じつは、ツアーに参加すればこのトンネルには誰でも入れる。「命がけの非武装地帯潜入」とか大げさに体験談を書いたブログなどが散見されるが、実際には板門店も第3トンネルも人気ナンバーワンの観光スポットなのだ。多数の観光客が記念写真を撮り、嬉々として土産物を物色している。時々刻々とミサイル危機を伝えるニュースとは対照的な光景である。このギャップをどう理解すればいいのか。

「たぶん日本と韓国で感じる危機感を足して2で割ったぐらいが適当でしょう」そう話してくれたのは韓国有力紙『東亜日報』元編集局長シン・キュソン氏。つまり日本ではメディアが過剰な危機感を煽っている一方で韓国の人々はこうした状況に慣れ過ぎているという意味だ。

 とはいえ今回は傍若無人で"天性の嘘つき"のトランプと得体の知れない金正恩という予測不可能な二人のリーダーが角を突き合わせている。世界的に緊張感が高まるのは無理もない。威嚇の応酬は人類の滅亡を暗示するスタンリー・キューブリック監督の核戦争映画『博士の異常な愛情』(1964年)のようだという声さえ米国内で出始めているという

 しかしその裏で融和策シナリオが米国で検討されていることを知る人は少ない。北朝鮮の核弾頭小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発阻止はもはや手遅れだから、米国は北朝鮮を核保有国と認めた上で両国の関係を正常化して危機を回避するというオプションだ。にわかに信じがたいかもしれないが、ありえない選択肢ではない。

元々は1970年代にヘンリー・キッシンジャー米国家安全保障担当補佐官が二つの対立する勢力による韓国と北朝鮮の「相互承認」を提案したのが始まりだった。一方がソ連と中国、もう一方が米国・日本である。もしこの提案に沿って米国が北朝鮮との関係を正常化していれば北が核開発をすることはなかっただろう。だが当時の政治的状況から提案は見送られ、北朝鮮は国家の存亡を賭けて核兵器開発に邁進するようになったのである。その結果が今の北朝鮮ミサイル危機だ。

金正恩政権もトランプ大統領も今のところは強硬な姿勢を崩していないが、国家の滅亡に繋がる核戦争を始める"度胸"は双方ともないだろう。実際、トランプは金正恩との直接対話の可能性を否定していないし、それは北朝鮮が切望していることでもある。彼らも、そして我々も恐怖感から状況判断を誤ってはならない。

第3次世界大戦がどのように行われるかは私にはわからない。だが、第4次世界大戦が起こるとすれば、その時に人類が用いる武器は石とこん棒だろう」と警句を物理学者アンシュタインが残している。

核戦争が起こればほとんどの人類が死滅しあらゆる文明が消滅するからだ。残るのは原始的な生活のみである。

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トランプとプーチンの蜜月

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 トランプ米大統領の外交音痴もここまで来たかと思わず椅子から転げ落ちそうになった。7月初めドイツ・ハンブルグで行われた20カ国・地域(G-20)首脳会議で注目を集めたトランプとロシアのプーチン大統領との初顔合わせのことである。

両者の間にはシリア、ウクライナ、北朝鮮問題や米大統領選挙介入疑惑といった重要かつ喫緊の課題が山積している。当初は30分程度と考えてられていた会談は2時間15分にも及んだ。いったい何が話されたのか興味津々。

しばらくしてさらに重大なことが明るみになった。なんと報道された首脳会談後にふたりだけでこっそりと1時間も話し合っていたというのだ。それだけではない。同席したのはロシア側の通訳だけだったという。つまり米国側にはなんの記録も残らなかったことになる。トランプはよっぽどプーチン以外には聞かれたくない話をしたのだろう。

怪しげな不動産取引ならともかく、首脳会談という重要の外交交渉の場では前例のない事態だ。秘密会談のニュースが流れた後、ホワイトハウスはそのような会談が行われたことを認めたが、トランプ本人は例によってフェイクニュース(根拠のない作り話)で「吐き気をもよおす」と言って否定している。彼にとっては都合の悪い話はすべてフェイクニュースなのだ。

会談の内容は公開されていないが、ロシアによる米大統領選挙介入疑惑に関して米国民には知られたくない話し合いが行われたのは間違いないだろう。しかしそれは外交では相手に弱みを握られたことに他ならない。馬鹿につける薬はないとはよく言ったものだ。

正式の首脳会談でもじゅうぶん驚きはあった。

日本メディアの報道は総じて「シリアに安全地帯設置で合意、対北朝鮮では相違も」という無難な伝え方だったが、米国での評価は「大統領は決意を示した」から「ロシアの罠に落ちた」まで大きく分かれた。おそらく後者が現実に近いだろう。なぜなら元工作員で外交交渉は百戦錬磨のプーチン氏が自分が欲しいと思っていた3つのものをトランプ氏からすべて手に入れたからである。その3つとは尊敬、同志愛、無批判だ。

つまりロシアは中東で主導権を握り、ウクライナ軍事侵攻やロシア国内での人権弾圧に対する米国の批判を封じこめたわけである。

しかしそれ以上に世界を驚かせたことがある。「プーチンと私は選挙介入などの悪事を監視するため強固なサイバーセキュリティ組織結成することを話し合った」というトランプ大統領お得意のツィートである。

これにはさすがに身内である共和党の議員からも批判が相次いだ。米大統領選挙介入疑惑でサイバー攻撃の張本人と名指しされている敵性国家ロシアとサイバーセキュリティで協力するなど「狐に鶏の番」をさせるようなものである。何度も言うが馬鹿につける薬はない。

世の中はいよいよ米国抜きの時代に突入した感がある。モスクワの土産物店ではプーチン大統領が赤ちゃんを抱いている絵が売られているそうだ。よく見ると赤ちゃんの顔はトランプ大統領だという。今や世界にとっても米国大統領はその程度の存在でしかない。

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ポピュリズムと法治国家

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7万人を救うためにテロリストと一般人164人を殺してもいいのか。

そんな究極の選択を視聴者に迫る衝撃のドラマ『裁判劇テロ』が先日日本で初めてスカパーAXNミステリーチャンネルで公開された。私はその3時間生放送の司会兼パネリストを務めたが、テレビの前の視聴者がリアルタイムで裁判員として参加し被告の有罪、無罪を決める番組だっただけに予想を超える大反響。テロ対策のジレンマが浮き彫りになったかたちだ。

原作は著名なドイツ人刑事弁護士で作家のフェルディナント・フォン・シーラッハの最新作『テロ』(2015年。)

物語は、ドイツ上空で乗客164人を乗せた旅客機がハイジャックされたところから始まる。テロリストはその旅客機で7万人の観客で溢れかえったサッカースタジアムに突入しようとしているのだ。まさに9・11米国同時多発テロを想起させる状況である。

7万人を救うために164人を犠牲にしていいのかという選択に迫られたエリート空軍少佐コッホは独断でミサイルを発射して旅客機を撃墜してしまう。 法廷に被告として立たされた彼は英雄か、はたまた犯罪者か。

結末は有罪と無罪の2つのバージョンが用意されている。

背景にはドイツで大議論となった航空安全法がある。2001年の米国同時多発テロ後、ドイツではハイジャックされた航空機が武器として使用される恐れがある場合には連邦軍が撃墜してもよいという航空安全法が2005年に施行された。

しかし翌年の2006年に連邦憲法裁判所は航空安全法は一部違憲だとの判断を下し、現在は停止状態にある。ハイジャック機の撃墜によって乗客の生命を奪うことは「人間の尊厳」「生命の権利」を侵害する行為だというのはその理由だった。

検察側の主張は主に以下の4点。
1)7万人と164人の命を天秤にかけることは出来ない。
2)スタジアムにただちに避難命令を出していれば7万人の観客が避難できる時間があり、誰一人命を危険に晒さずに済んだ。
3)ブラックボックス解析によれば、旅客機が撃墜される寸前に乗員乗客がコックピットに突入しようとしていた。つまりテロリストを制圧した可能性があった。

結論は、モラルや良心の問題に確実なことはない。だから個々のケースを憲法に照らして判断することが法治国家の本質である。ゆえに被告は有罪だというわけだ。

弁護側の主張は、
1)有罪判決は私たちの敵であるテロリストを守り、私たちの命を守らない。
2)より小さな悪を優先するという考え方は英米の法系統にねずいている。
3)超法規的緊急措置が必要だった。
4)戦争には犠牲がつきものだ。だから無罪。

どちらも説得力のある議論で判断はとても難しい。あなたならどうするとドラマは迫ってくる。以前に10か国以上で舞台劇として公演された際の観客の審判は圧倒的に無罪が多かったそうだ。今回の番組後の視聴者投票の結果も無罪が有罪の2倍ほどだった。

しかし私個人として有罪に一票入れたい。なぜなら民主主義の法治国家がテロに対応する手段は法しかないからだ。義憤に燃えて私たち自身が決めたことをないがしろにしてしまえば残るのは弱肉強食の無法地帯である。そうなれば私たちもテロリストと同じ穴の狢だ。

被告が164人を殺害したという事実を消しさることはできないのだ。

米国建国の父のひとりベンジャミン・フランクリンは以下のような言葉を残している。「ひと時の安全のために自由を手放すものは、自由も安全も失うことになる」(1759年)

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トランプ、先の読めない次のカード

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旧約聖書から由来した諺に「ヒョウの斑点模様は変わらない(The leopard cannot change its spots)」というのがある。人間の性格はちょっとやそっとでは変わらないという意味で、日本でいえば「三つ子の魂百まで」といったところだろか。

米国政治でもその斑点がはっきりしてきた。

嘘と脅しとハッタリで不動産ビジネスから大統領の座まで上り詰めた男、トランプ米大統領弾劾への歯車がいよいよ動き始めたからだ。就任後わずか100日余りで新大統領は最大の危機に直面している。

 もっとも驚くにはあたらない。1月の大統領就任式前からすでに良識ある人々はどうしたらこの誇大妄想に取りつかれた男を辞めさせられるかという議論をしていたからである。これまで一度も発動されたことのない憲法修正25条第4節を持ち出して「大統領が義務を遂行できなくなった」としてクビにする案や物騒な暗殺なんてことも半ば冗談で囁かれた。

あれから半年弱。ようやくトランプを大統領に選んだ共和党議員も国民もこの性悪男の本性に気がついてきたようだ。5月16日ギャラップの最新世論調査では、トランプの支持率は最低の38%。さらに下降線を辿ることは間違いないとみて中間選挙を来年に控えた共和党議員も離れなじめた。

マーケットの反応は明快だった。為替はドル安・円高に振れ、トランプの税制改革、インフラ投資、規制緩和に期待していた株式市場は急落。そもそも財政の裏打ちのないトランポノミクスに期待するほうが間違っているのである。

 トランプ大統領の醜聞、暴言、失態を数え始めたらきりがない。そんな中で致命傷となりそうなのがジェームズ・コミーFBI(連邦捜査局)長官解任に至った捜査妨害とロシアに機密情報を漏らしたことだ。

 司法妨害も国家機密漏洩も弾劾に値する重罪である。しかもどちらもトランプ陣営と敵性国家ロシアとのただならぬ深い関係を示唆しているからことは深刻なのだ。

 表向きは虚勢を張り続けているトランプだが、内心はビクビクしているに違いない。その証拠に、側近だったフリン補佐官のロシアコネクションを捜査していたコミー長官に捜査中止を要請し、「お前は俺のことは捜査してないよな」と3回も確認している。コミー長官を電撃解任したのも自分に火の粉が飛んでこないようにするためだったのだろう。

 そんな中、就任以来トランプとは犬猿の仲のワシントンポスト紙がトランプの機密漏洩をすっぱ抜いた。この衝撃は大きかった。イスラム過激派組織ISにかかわる最高機密を漏らした相手がほかながるロシアのラブロフ外相らだったからだ。「俺のところにはこんな情報があるんだぜ」と自慢したかったのだろう。いかにもトランプらしいが、諜報活動さらには大統領の職責の重要性をまったく理解していないことを白昼のもとに晒したことになった。日本の弱腰マスコミと違って、権力と対峙する米ジャーナリズムの真骨頂だ。

そこでついに米司法省はトランプ・ロシア疑惑の捜査の指揮を執る特別検察官(特別顧問)に元FBI長官のロバート・モラー氏を任命したわけである。モラーは、コミー前長官の前任として12年間FBI長官を務め、民主共和双方から高い倫理観を持つ人格者として信頼されている。トランプとは対照的な人物だ。

トランプには明日といわず今日にも辞めてもらいたいのだが、捜査の結論が出て議会が弾劾のプロセスを始めるのは何か月も先になるだろう。何しろ独立特別検察官はまず機密性の高いオフィス探しやスタッフを集めるところからスタートしなければならないからだ。政治的綱引きも活発になる。大統領弾劾には下院の過半数と上院の3分の2の同意が必要だ。また、捜査の過程で想定外の紆余曲折があるかもしれない。

厄介なのは、トランプが大統領になる以前の不動産ビジネスで、嘘とハッタリと脅しと責任を他人に擦り付けることで幾多の危機を乗り越えてきたことだ。その中にはロシアからの巨額の資金援助も含まれている。そう簡単にはあきらめないだろう。なにしろトランプ成功の法則は「執念深くあれ」「頬を打たれたら戦車で打ち返せ」だから質が悪い。

為政者が窮地に陥るとよく使う手段はマスコミの目を他の出来事に向けることだ。今のトランプなら5月下旬からの中東方面・サミットなどへの初外遊でひと騒ぎ起こす、あるいは国内でテロの危機が迫っていると脅すといった手があるかもしれない。北朝鮮にちょっかいを出すのだけは止めてもらいたい。(終)

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UBERトラブル

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"asshole culture(尻の穴カルチャー)"とは恐れ入った。トランプ大統領や安倍政権の話ではない。今や世界およそ40か国150都市にまでネットワークを広げ世界最大の「タクシー」会社となったウーバーのことである。

ウーバーは2009年8月にシリコンバレーのIT企業に勤めるトラヴィス・カラニック(当時32歳)とギャレット・キャンプ(当時30歳)のふたりがサンフランシスコで始めたサービスだ。起業の動機は街でタクシーがまったくつかまらなかったからだという。

彼らが思いついたのは高級リムジンを利用することだった。米国ではリムジンサービス(日本だいうと黒塗りハイヤー)は個人事業主が多く、お得意客を数人もって仕事をしている。そのため日常業務では「空き時間」が多い。その時間をスマートフォンのアプリ上で一般客に仲介したのである。

客は高級車をタクシー料金で使え、ドライバーは収入が増えるのだからまさにウィン・ウィンのビジネスモデルというわけだ。さらには一般人の所有車をタクシーの代用とする「ライドシェア」(日本では自家用車による運送サービス、いわゆる白タクとして禁止されている)も始めた。

これが大当たりして全米から海外へと瞬く間に広がったのだ。非上場で売り上げは非公開。業界通によれば、創業からわずか5年で企業価値は5兆円にまで急成長したという。

ところが先日デンマークの首都コペンハーゲンを訪れたら、この革新的配車サービスが4月28日で撤退というニュースが飛び込んできた。これまでニューヨークへ取材に出かけた際には必ずと言っていいほど私はウーバーを利用してきた。なにしろどこに居てもスマホでスピーディに高級車を呼べ、料金が一般のタクシーより割安だからだ。そんな便利なサービスがなぜ業務停止に追い込まれたのか。

さっそく調べてみると、世界のタクシー業界に革命を起こすサービスだと思われていたウーバーがじつはとんでもないトラブル続きだということが判明した。

デンマークでウーバーがスタートしたのは2年半前。当初は近代的で便利と思われたが、「福祉国家の破壊」「脱税容疑」を指摘するタクシー業界や全政党からの反発によってウーバーの営業を実質的に禁止できる新タクシー法が圧倒的賛成多数で成立。ついに完全撤退となったわけだ。

それだけではない。ウーバーに対する反発は世界中で広がっているではないか。違法な白タク行為に対するタクシー業界の抗議デモはパリ、ロンドン、マドリードなど欧州各地で起き、ワシントン、ジャカルタ、リオデジャネイロなどへも拡大していた。

フランスでは15年の6月に事業停止命令に従わなかったウーバー重役が逮捕されているし、ドイツやイタリアでもすでに違法操業として禁止されている。

そのうえ、障害者差別、秘密ソフトを使った規制回避や不正料金、欠陥自動運転車の事故、知的財産窃盗、ドライバーによる強姦、社内セクハラなどとんでもない同社の不正や疑惑が次々と明るみになっている。ウーバーの意味は俗語で「超スゲー」だが実際は「サイテー」と言わざるを得ない。一部の投資家も逃げ出し始めているという噂さえあるくらいだ。

主な原因はどうも同社の悪しきコーポレートカルチャーにあるらしい。創業者カラニックの性格といってもいいかもしれな。一言でいえば極めてアグレッシブ。儲けるためには裏切りでもなんでもあり。そして男尊女卑。ウーバーで働いた奴は採用するなというのが今やIT業界では常識になっているという。というわけで同社の企業文化は"asshole culture"(尻の穴カルチャー)なのだそうだ。

さすが批判の嵐に耐えかね、昨年秋に小売り大手ターゲットのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)ジェフ・ジョーンズ氏を社長に迎えたが、1年足らずで辞任。「私が信じてきたリーダーシップとウーバーで目にしたこととは相反する」というのが理由だった。

とにかく儲かれば他のことはどうでもいいという企業姿勢はリーマンショックという世界的金融危機を引き起こした金融業界を彷彿とさせる。こんなIT企業は少なくとも世界一幸せな国デンマークには似つかわしくない。

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