蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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トランプ再選へのロードマップ

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新型コロナウイルス感染と白人警官が黒人男性を暴行死させた事件で全米に広がる抗議デモ。日本のマスコミの報道をみていると、このダブルパンチでトランプ大統領の再選に赤信号が点灯したかのようにみえる。

確かに最新の世論調査では民主党候補バイデン前副大統領が現職のトランプを53%対43%と大幅にリード。さらに差を広げる勢いだ。勝ち馬に乗ろうと資金も集まってきている。共和党内も諦めムードが漂うなんてまことしやかな記事まで出てきた。

だが、拙書『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイドスキル』をお読みいただいた方なら分かるように、トランプはうんざりするほどのセクハラ告発、ロシア疑惑、それに弾劾裁判など数々の政治的危機を大嘘とマフィア顔負けの脅しでくぐり抜けてきた男である。まったくめげていない。

今回もまた奇策に打って出た。6月1日のことである。ホワイトハウス周辺の騒乱で催涙弾の刺激臭がまだ漂う中、ホワイトハウスからマスクもせずに現れたトランプはすぐ近くのセント・ジョンズ教会へ徒歩で向かった。

同教会は1816年以来歴代の大統領が訪れているため「大統領の教会」と呼ばれている由緒正しき聖堂である。神妙な顔つきで教会の正面に立ったトランプは、待ち受けたカメラマンに向かって右手に持った分厚い聖書を自慢げに高く掲げてみせた。

こういうのをマスコミ用語で「フォト・オップ(photo op)」という。なんてことはない。写真撮影のためだけのパフォーマンスである。信仰心などどこ吹く風で日曜日はゴルフ三昧のトランプのことだから、聖書を開いて心に響く一節を読むことも教会に入ることさえしなかった。牧師はカンカンに怒ったが、トランプは気にしない。メディアを通じて「俺は信仰心あふれるお前たちの大統領だ」という無言のメッセージをバイブルベルトの支持者たちに発信できればよかったからだ。

バイブルベルトとはアメリカ南東部一帯のキリスト教保守派が多く住む地域のこと。とりわけ国民の4分の1のおよそ8000万人を占めるエヴァンジェリカル(福音派)はトランプの岩盤支持者たちである。狂信的な彼らの多くはトランプを「神に選ばれし者」だと信じているから驚きだ。それほどでもない信者もトランプは自分たちとの公約、つまり反同性愛、反中絶、反進化論反共産主義、反イスラム、反フェミニズム、家庭重視、を守ってくれる頼りになる大統領だと思っている。

「この大統領はどこまで下劣になれるのか!」民主党幹部のシューマー上院院内総務は憤慨したが、すでに後の祭り。バイブルを掲げたトランプの姿は生中継で全米に流れた。さっそくテキサス州のファースト・バプティスト教会指導者のロバート・ジェフレス牧師は「教会の前で聖書を掲げたのは適切だった。私は幸せだ」とトランプを絶賛。非営利団体「信仰と自由の連合」(会員180万人)のラルフ・リード会長も大統領の行為を褒め称えた。まさにトランプの思惑通りの結果だ。

そんな芝居じみた大統領の宣伝写真撮影のために、平和的抗議活動をしようとホワイトハウス周辺に集まった老若男女に治安当局は容赦なく催涙ガスやゴム弾を打ち込み強制排除した。これもトランプ流の演出だ。教会訪問に先だって行なわれた演説でトランプは「自分は法と秩序の大統領だ」「軍を投入して暴動と略奪と暴行と無差別な財産の破壊を止めさせる」と息巻いていた。抗議活動が激しくなればなるほど強行発言が不安な国民の共感を呼ぶと見越したのだ。

抗議活動の取り締まりについてモーニング・コンサルトが行なった調査では、アメリカ国民の過半数が警察支援のため軍隊を動員することに賛成だという結果がでた。共和党支持者に至っては8割近くが賛成だった。人種差別と警察暴力は反知性主義宗教国アメリカの根深い原罪なのである。良識など木の葉1枚の重さもない。国民がどれだけコロナで死んでも全て中国のせいにすればいい。そうトランプは確信している。全米でアメリカ人の中国嫌いが加速しているのを知っているからだ。

米国の大統領選挙は一般投票数で負けても、各州を代表するわずか270人の選挙人を獲得すれば当選できる。なんとも納得しがたいシステムだ。2016年の選挙ではクリントン候補が一般投票で280万票以上もトランプを上回ったが、ちゃっかり304人の選挙人を確保したトランプが大統領に選ばれている。今回も同じ戦略で勝てるとトランプは確信している。

つまり、狂信的なキリスト教原理主義者を味方につけ、人種差別を煽り、繁栄から取り残された白人労働者の支持を固めて米国社会を分断するのだ。万が一負けたときには、不正行為があったと騒ぎ立てて裁判で選挙結果を無効にするかひっくり返す作戦。終身雇用の最高裁判事9人のうち5人は保守系で、そのうち2人はトランプに指名されている。コロナ感染がさらに深刻化すれば、非常事態宣言を発令して大統領選延期を訴えるかもしれない。自分の責任なのに。

コロナウイルスによる死者が10万人を突破してもジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で死亡しても、トランプが毎日のようにチェックしているラスムッセン調査での彼の支持率は40%台を保っている。株価も急速に回復してきた。米大統領選の先行きを予想するのはまだ時期尚早なのだ。

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現代版パンデミック後の世界

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「病に侵された人々は救いを求めて神殿につめかけ、神にすがった。だが病苦に打ち負かされ、もうそのような場所には寄りつかなくなった」

これは古代ギリシャの歴史家トゥキデイデスが『戦史』の中で疫病が蔓延したアテナイ(現在のアテネ)の惨状を描いた一節だ。まさに神も仏もあるものかという酷い状況だったのだろう。

宿敵スパルタの攻撃を受けたアテナイは、当初、優れた政治家ペリクレスの指揮の下で戦いを優位に進めていた。ところが疫病が蔓延したため多くの市民だけでなくペリクレスも罹患して死亡してしまった。その後は、戦争好きで無能な政治家に煽られて政治が混乱し、ギリシャ文明が衰退してしまった。疫病の正体は発疹(はっしん)チフスか天然痘だったようだ。 

愚かな政治家のせいで国家が危うくなるのは、2000年経った今も変わらないが、パンデミックには文明の様相や社会を大きく変える力がある。14世紀のヨーロッパでは、5000万人を死に至らしめた黒死病(ペスト)は、封建制度を崩壊させ、宗教改革、ルネッサンスへと歴史を動かした。イタリア・ルネサンスが命を賛美したのは、恐ろしい疫病死と隣り合わせの時代だったからだ。

第一次世界大戦中にはスペイン風邪(新型インフルエンザ)の大流行によって両軍の若い兵士たちが次々と倒れ、終戦が早まったという歴史もある。疫病は発生からおよそ2年で終息したが、世界人口の3分の1の5億人が感染し4000万人~5000万人が死亡するという大惨事だったのだから世の中が変わらないわけがない。

では、今回の新型コロナ流行は私たちの世界をどう変容させるのだろうか。

まず、人間関係と働き方の再発見がある。新型コロナウイルスは人間関係に強烈なダメージを与えている。私たちの口はマスクに覆われ、友人との会食もままならず、心の中はストレスと孤独感が充満している。感染によって愛する人の死に目にも会えない。そんな環境では、ちょっとしたことで他人に攻撃的になりやすい。経済的ダメージによる社会不安もこれから本格化するだろう。

しかしその一方で、インターネットを利用した在宅勤務が一気に広がり、家族と共に過ごす時間が増え、ネットでの人々の私生活の繋がりが深まり、仕事優先の生き方に疑問を抱く人も増えた。ツイッター社はコロナ危機が終息しても従業員の在宅勤務を無期限で認める方針をすでに明らかにしている。

汎用AIが実用化される2030年頃には国民全員に一定の所得が保障されるベーシックインカム制度が導入され、働かない人がいる社会、つまり脱労働社会が実現しているかもしれない。芸術や哲学、スポーツが盛んだった古代ギリシャを思い浮かべれば分かりやすい。 奴隷のかわりにAIとかロボットが働いてくれるわけだ。そのとき人間はAIに仕事を奪われたと考えるか、労働から解放されたと考えるのだろうか。

ロックダウン(都市封鎖による活動制限)によって人間の行動が厳しく規制されたため世界の空気はクリーンに澄み渡り、あの汚かったガンジス川の流れでさえ清流を思わせるほど透明度が高まった。そんな光景を目の当たりにしてた私たちは地球環境にとって人間が最悪のウイルスであることに気づかされた。

こうした劇的な変化の中で、資本主義の歪みに気づき、愛や友情の大切さを再発見して地球レベルの「共通善」を求めるようになるかもしれない。

また、コロナ禍は政治指導者の決断力、行動力、人間力がいかに私たちの未来に重要かを思い知らせてくれた。その代表格はドイツのメルケル首相だろう。自らのコロナ感染を克服して、科学者としての知見とリーダーとしての使命感に裏付けられたコロナ対策を打ち出した。支持率は2月の53%から79%まで急上昇している。ニュージーランドの若きアーダーン首相もコロナ対策で卓越した政治的判断と豊かな人間性が相まって、国民の支持率は84%に達した。

彼女らに共通していたのは、新型コロナ感染を重大な危機だといち早く判断し、科学と共感力によって効果的なコロナ対策を推進したことだ。対照的だったのは、自分の再選しか考えず失政を繰り返すアメリカのトランプ大統領と周囲の官僚に振り回されて決断力と共感力の欠如を露呈した日本の安倍首相だ。

英経済誌ザ・エコノミストが3月11日のWHOのパンデミック発表からおよそ1ヶ月間で世界の主な10カ国の指導者の支持率がどう変化したかを調査したところ、下落したのはブラジルの独裁者ボルソナーロ大統領と安倍首相のふたりだけだった。情けない。

東日本大震災直後、アメリカの著名な歴史家ジョン・ダワーは次のように指摘していた。

「個人の人生でもそうですが、国や社会の歴史においても、突然の事故や災害で、何がいちばん重要なことなのか気づく瞬間があります。すべてを新しい方法で、創造的な方法で、考え直すことができるスペースが生まれるのです。しかし、もたもたしているとそのスペースは閉じてしまいます」

アフター・コロナの時代は、私たちの社会システムや生き方を根本的に見直すことができる貴重な瞬間なのだ。

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新型コロナ対策がトランプ再選を揺るがす

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「俺は正直者だ」

そう言い放って米国大統領に当選した自己中のほら吹き男ドナルド・トランプが思わぬ伏兵に再選の道を阻まれている。新型コロナウイルス感染だ。

そんなもの「ある日、奇跡が起きたように消えるから心配ない」「政府は事態を完全に掌握している」と当初うそぶいていたトランプだったが、3月に入って感染が全米で深刻化すると「大変なことになるとずっと前から思っていた。パンデミックだ。誰よりも前から俺はパンデミックになると感じていた。・・・20万人の死者がでるぞ」とお得意の手の平返し。

それならなぜもっと早く対策をとらなかったのかと記者から突っ込まれても「お前らこそフェイクニュースだ」と記者を名指しで罵倒した。拙書『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイド・スキル』(プレジデント社)をお読みいただければわかるが、トランプは無知だが直感的に自分が有利になるように話を変えるワル知恵の持ち主だ。

就任以来3年間でなんと1万6千回以上もデマを連発してきた。その目的はたたひとつ、再選である。これまで幾多の悪事を働いてきたトランプにとって逮捕・起訴を逃れる道は再選しかないからだ。

ところが米国の感染者数・死者数が世界最大となった今、トランプ陣営は露骨な"absolute authority, no responsibility"(絶対権力と無責任)戦略に切り替えている。

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3月13日、大統領公邸のレジデンスとウエストウイングに囲まれた美しい庭園ローズガーデンに現れたトランプはついにこう言い放った。

「俺にはいっさい責任がない!」

日頃から大統領の支離滅裂、大言壮語、嘘八百に慣れっこのはずの記者団もこれにはあ然。老舗の米月刊誌ザ・アトランティックは「この言葉がたぶん彼の大統領としての墓碑銘になるだろう」と痛烈に皮肉った。つまりコロナ禍によってトランプ再選の望みは絶たれたというわけだ。

医療現場の崩壊状態を指摘されると、トランプは「遅れた制度を前政権から引き継いだせいだ」と前任のオバマ大統領に責任をなすりつけた。科学研究予算や疾病予防管理センター(CDC)の予算を大幅に削減したのは自らの政権だったくせに!

4月の記者会見では、コロナ蔓延の責任は発生源の中国と世界保健機関(WHO)にあるとしてWHOへの拠出金停止を発表。さらには、全米での感染拡大はニューヨークやカリフォルニアなどの民主党州知事の不手際だとし、大統領には各州の知事たちに行動制限(ロックダウン)解除を命令する「全面的権限がある」と吠えた。もちろん憲法は大統領にそんな権限を認めていない。だがこれがトランプ流の脅しなのだ。

最近の世論調査によると、トランプが再選されると考える米国民はついに過半数を割り、オバマ前大統領とサンダース上院議員の支持を得たジョー・バイデン民主党候補が肉薄している。コロナ感染によって医療保険制度改革に有権者の関心が集まっているのもバイデンに追い風だ。

4月18日、逆風のトランプはついに市民の怒りを扇動する奇策に出た。「(封鎖された)都市を解放せよ!憲法修正第二条(武器保有権)を守れ!」と連続ツイートしたのだ。たちまち米国各地でロックダウンに対する抗議デモが発生。その中には顔を隠し武装した軍服姿の参加者もいたという。暴走するトランプ政権との終わりを感じさせる展開だ。

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コロナとユートピア

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人類にとって未知の敵、新型コロナウイルスの恐怖が世界を覆っている。3月下旬になっても感染者数や死者数が世界各地で増加し続けており、大多数の人々は自分が感染しないことを願いながら息を潜めて嵐の去るのを待っている状況だ。

だが、皮肉なことに、悪玉ウイルスのお陰で私たちの生活はより良い未来に向けて加速しているかもしれない。例えば、日本では在宅勤務やフレックスタイム労働が一気に広がり、家族が一緒に過ごす時間が飛躍的に伸びた。一時的にせよいわゆる「働き方改革」が飛躍的に進んだ格好だ。

また、経済・社会活動が制限されたことによって大気汚染が急激に改善し、とくに中国やイタリアでは二酸化窒素の排出量が大幅に減少している。その結果、専門家の推定によると世界で5歳未満の子ども1400人から4000人と70歳以上の高齢者5万1700人から7万3000人の命が救われているという。

もちろん多くの方が亡くなった大惨事を歓迎するつもりは毛頭無い。深刻な事態は続いており、まだ終息にはほど遠い。だが、今回のウイルス禍がこれからの政治・社会のあり方について考える機会を私たちに与えてくれたことは間違いないだろう。

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3月19日のボリス・ジョンソン首相の発言に私はその事を感じた。議会でベーシック・インカム(BI)導入の可能性を問われた首相は「それは考慮すべきアイデアのひとつだ」と答えた。コロナウイルス感染拡大を受けた景気対策として国が無条件で国民に一定額を支給し、最低限の所得を保障する制度を検討することを示唆したのだ。

BIは、基礎年金、雇用保険、生活保護などの既存の複雑な生活保障を廃止するかわりに、個人の口座に国から一定の金額が年齢、性別、収入などに関係なく無条件に毎月非課税で振り込まれるシンプルな制度だ。例えば、毎月1人あたり7万円だとすると、子供2人の夫婦には24万円が毎月給付される。充分とは言えない額だろうが、これなら路頭に迷う心配がない。つまりBIは貧困に対処する制度だ。

そんなことをしたら誰も働かなくなるのではという批判の声があるが、米国、カナダ、フィンランド、インド、イタリアなどで行なわれた実証実験によれば、BIが導入されても人々はより良い生活を求めて就労し税金を払うという結果がでている。この制度のメリットは、失業の不安なく自由な働き方を選べる、行政手続きの簡素化、労働市場の効率性向上などだ。

財源は行政コストの大幅な減少と税制改革で賄うことができる。例えば累進課税で現在最高45%となっている所得税率を一律45%にしてはどうか。すでに高い税率を支払っている高所得層にとってはほとんど影響がない一方で、低所得者層にとってはBIによる収入が増税分を上回るからお得感がある。何よりも安定収入が保証されているのだから将来に対する不安が激減する。BI導入で仕事が無くなる役人は反対するだろうが。

人々が将来の生活に不安なく自分の能力をフルに発揮できる仕事を求められるようになれば今よりクリエイティブな発想が生まれるかもしれない。

じつは、BIを必要とする21世紀的な問題がある。それはAI(人工知能)の発達でロボットに仕事を奪われた後の人々の生活である。仕事が完全になくならないとしても、一部の「頭脳労働層」以外の中間・低所得層の人々は低賃金に甘んじなければならなくなる可能性が高い。恐ろしい話だがこれはすでに夢物語ではない。シリコンバレーの名だたる起業家たちがBI導入に賛成しているのもそのためだ。そんなディストピアをユートピアに逆転できるのがBIというわけだ。

もちろん大変革は一朝一夕には実現しない。段階を踏む必要があるだろう。だが確実に近づいているAI社会の到来や、いつ襲ってくるかもしれない大災害や新型ウイルス汚染の事を考えると、不毛な政治批判を続けるよりはBIのほうが一考に値するのではないか。

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歴史は繰り返す、伝染症の恐怖

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新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない。中国の実験室から流出したとか、人工の生物兵器ではという陰謀論さえ飛び交っている。ソーシャルネットワークで多数の人々が繋がる現代では、不安が高まると怪しげな情報が拡散・共有されやすくなると情報学の専門家が指摘しているが、まさにその現象が起きているのだ。

一部の香港メディアによれば、今回のウィルスは湖北省武漢にある疾病予防管理センターの実験室から流出した可能性が高いと中国の教授が論文で発表したという。現在、その教授とは連絡が取れず、該当論文はサイトから削除されたと。しかし香港メディアはセンセーショナルな記事を好み、実際のところ真相は不明だ。

恐怖が広がるのも無理はない。振り返れば、記録に残る人類史上最悪の人的被害を引き起こしたのも感染症だったからだ。今では"忘れられた記憶"となっているが、1918年から19年にかけて欧州を中心に世界各地を襲った新型インフルエンザ(通称スペイン風邪)である。

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スペインかぜウイルス

世界人口のなんと3割にあたる5億人に感染し、第一次世界大戦の死者の4倍以上の4000万人~5000万人、日本だけでも関東大震災の犠牲者の5倍近くの45万人、の命を奪っている。もちろん世界経済も大打撃を受けた。

現在ではインフルエンザに関する予防・対処情報が世間で広く知られ、ワクチンやタミフルなどの抗インフルエンザ薬が開発されているからスペイン風邪のような大流行は起きないだろう。だがその一方で、年間13億人超が飛行機や他の交通機関で世界を飛び回っている大移動時代の今は新たな感染症が瞬く間に世界中に拡散してパンデミックを引き起こすリスクが増大している。

今回は感染源となった中国だけでなく日本政府の対応の遅さや酷さに内外から非難が集まっている。オリンピック招致演説で福島原発から漏れ続ける汚染水を「アンダー・コントロール(制御下にある)」と平然と言ってのけた安倍首相の危機感欠如による初動ミスの結果だろう。

危機に直面すると政治家はすぐに「想定外」という言葉を使いたがるが、鵜呑みにしてはいけない。コロナウィルスの感染被害は2002年に中国広東省で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年にサウジアラビアで見つかったMERS(中東呼吸器症候群)で経験済みだ。

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SARS

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MERS

日本での感染拡大がなかっただけのことである。私たちが日常的にかかる風邪の2割弱はコロナウィルスによるものだ。ただ、今回の「新型」コロナウィルスは過去に報告されたものと遺伝子構造が異なるためとても厄介なのだ。

1990年代半ば、『アウトブレイク』という映画が公開された。アフリカからペット用に密輸されたサルが原因で致死率100%の殺人ウィルスがアメリカで爆発的に拡散し、人々が目や耳から出血して次々と死に至る背筋が寒くなるサスペンスだ。殺人ウィルスのモデルとなったのは実際に存在するエボラウィルス(致死率50~90%)。

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エボラウイルス

エボラが史上最悪の猛威を振るったのは2014年、ギニアをはじめとする西アフリカ6カ国で、約2万9千人が感染し、死者数は1万1千人を超えた。医療従事者の間でも感染が起きたため支援団体がボランティアを撤退させたというほど深刻だった。

いたずらに恐怖を煽るのはもちろん好ましくない。だが政府やメディアから適切な最新情報を提供されなければ「正しく恐れましょう」なんてメッセージはなんの意味もない。ウィルスは自分で増殖できない代わりに他の細胞に入り込んで生存・増殖し変異を繰り返す。そのため抗ウィルス薬がすぐに開発されにくい。今のところ我々にできることは人混みを避け、手洗い・うがいをしながら終息を辛抱強く待つだけである。

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