蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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米国リベラルと保守の周期

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「私への信任投票だ」

トランプ大統領が自らそう豪語していた米議会中間選挙は、大方の予想通り与党・共和党が下院の支配を失い8年ぶりの上下院「ねじれ」という結果になった。負けず嫌いのトランプ氏は敗北を認めないが、米国はこの先いったい何処へ向かうのか。

その答えとして、私はある米歴史家の知見に注目したい。長年に渡って米国政治を鋭く分析し、二度のピュリツァー賞受賞に輝いた故アーサー・M・シュレジンジャー、Jr.博士の米国政治周期説だ。

博士によれば、米国政治は振り子が振れるようにリベラルと保守が交代する30年周期がある。公共の利益を追求する20年と、理想主義に疲れ果て自己利益を優先する弛緩した10年がセットになって繰り返されてきたというのだ。

20世紀最初の20年間は革新運動と第一次世界大戦の時期だった。T・ルーズベルト大統領は公共の利益を強調し、ウィルソン大統領は「民主主義のための闘いを」を標榜した。だが、そんな理想主義に飽きた米国民は博打好きの共和党候補ハーディングを大統領に選択。それからおよそ10年後のフーバー大統領時代に大恐慌に突入している。

その後、再び情熱と理想主義の20年間が復活。F・ルーズベルト大統領、第二次世界大戦、トルーマン大統領の時代である。だが、不況や戦争に疲れ情熱を失った人々は1950年代には内向きの10年に逆戻り。ケネディ、ジョンソン大統領の時代(1060年代~70年代)にも理想主義と改革の機運が高まったが、1980年代に疲弊した国民が選んだのはレーガン、ブッシュ政権の物質主義、快楽主義だった。見事な30年周期である。

今世紀に入って、情報技術の進歩がこのサイクルを早めたと博士はいう。国際協調を唱えたオバマ大統領の理想主義に熱狂した人々は8年間の道徳的忍耐に疲れ、自国優先主義のトランプ大統領を選択した。自称「ナショナリスト」のトランプ氏の内政・外交は今後さらに過激なものになっていくだろう。手始めに、自身のロシア癒着疑惑捜査を阻止するため司法長官を更迭した。さらに気に入らない側近を排除していくだろう。

7790億ドルまで悪化した財政赤字はさらに膨らむ。対立するはずの民主党も人気取りのため債務増大を容認しているからだ。外交では、中国、ロシア、イランとの対決姿勢がさらに鮮明になる。周期説からみれば、中間選挙はトランプ大統領の信任投票ではなく、米国民が再び建国の父たちの理想主義に目覚めるまでの苦痛に満ちた通過点にすぎない。

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トルコの風が吹けば桶屋が儲かる

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サウジ王家を厳しく批判していたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の不可解な失踪が中東のパワーバランスまで揺るがす事態にまで発展している。まるでスパイ映画のような展開だから目が離せない。

 10月2日、カショギ氏はフィアンセのトルコ人女性と結婚に必要な書類を受け取るためトルコの首都イスタンブールにあるサウジ総領事館を訪れた。だがその後の足取りが忽然と消えてしまった。同氏はすでに総領事館から出たとサウジ当局は主張していたが、その痕跡がなく殺害されたのではという疑惑が急浮上したのである。

まず米メディアなどが、トルコ当局者の話しとして、カショギ氏は館内に入ってすぐに殴打され、薬物を投与されわずか7分で殺害されたと伝えた。遺体はサウジ内務省の法医学者によってバラバラに切断されたという。

その様子は同氏がつけていた腕時計型端末「アップルウォッチ」経由で建物の外で待っていたフィアンセのスマートフォンに記録されていたことから判明したというが、その話は疑わしい。データ転送距離が遠すぎるからだ。おそらくトルコ政府の盗聴を隠すための作り話だろう。

犯行を指令したのは誰か。疑いの目はすぐに昨年6月に父サルマン国王の後継者に選ばれたサウジのに向けられた。トルコ側が特定した15人の容疑者のうち複数がムハンマド皇太子と繋がりがあったからだ。

サウジ当局は皇太子の関与を否定していたが、深刻な国際問題に発展しため、一転カショギ氏の「死亡」を認めた。サウジ国営テレビによれば、面会中に口論になり死亡したとし、皇太子の側近であるアフメド・アシリ少将を情報機関ナンバー2の地位から解任したという。だがどうみても皇太子が知らずに殺害が行われたとは考え難い。国際世論を敵に回した皇太子の威信は失墜した。

もうひとり評判を落とした人物がいる。米国のトランプ大統領だ。事件発覚から終始サウジ皇太子を擁護する発言を繰り返し、人権無視と長きにわたるサウジ王家との個人的ビジネス上の癒着に内外から批判が集中したからだ。

今回もっとも得をしたのはトルコのエルドアン大統領である。殺害の証拠となる音声記録を武器に敵対するサウジに圧力をかけ、その一方で米国に対してはクーデター容疑で2年間拘束してきた米国人牧師を突然釈放してトランプ大統領に貸しをつくった。これで中東地域でのトルコの影響力が強まったことは間違いない。

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トランプ氏 大統領の資質

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こんなにまで酷いのか!今月売り出されたトランプ政権内幕本『FEAR(恐怖 ホワイトハウスのトランプ』を読見終えてあらためて愕然とした。ホワイトハウスの混乱ぶりは政権発足時から断片的に伝えられてきたが、その全体像をこれほど生々しく描かれたことはなかったからだ。発売初日に90万部を突破したというから並大抵の注目度ではない。

著者は、カール・バーンスタイン記者とともに、70年代のウォーターゲート事件の調査報道でニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポスト紙編集主幹のボブ・ウッドワード氏。ピュリッツァー賞に2度輝いている著名ジャーナリストである。

内容は、ツイッターなどで衝動的な言動と嘘八百を並べ立てるトランプ大統領と、それを必至で制御しようとする政権幹部とのせめぎ合いだ。現場を直接知る人物たちに何百時間も取材を重ね、ほとんどすべてのインタビューは録音されているというから、そんじょそこらの暴露本とは信憑性が違う。

本書から浮かび上がったトランプ氏の姿は想像以上に酷い。不動産取引の損得勘定以外に政治経済はもちろん軍事・外交も素人丸出し。だが専門家の言葉には耳を貸さない。学ぼうという意志もない。根拠のない持論を信じている。証拠があっても自分の非は絶対認めない。国民の利益より自分の利益とイメージを最優先。人権意識や道徳観は無い。儲からない貿易は悪。イラン・中国・北朝鮮は敵。反移民、反イスラム。相手に「恐怖」を与えることこそが最強の力だと信じている。

こんな人物が世界最強国家のリーダーに選ばれたてしまったのだから、周辺の閣僚や補佐官たちはたまったものではない。トランプ氏が世界貿易機関(WTO)や北米自由貿易協定(NAFTA)から離脱しようとしたとき、マティス国防長官を含む複数の政権幹部が必至で引き留めたという。大統領が米韓自由貿易協定を反故にしようとした際には、執務室のデスク上に置かれた必要書類を幹部がこっそり持ち去ったという。大統領自身はそのことに気づかなかったというからお粗末な話だが。

そんなトランプ氏にも恐怖を感じる人物がいるという。2016年大統領選へのロシア介入疑惑とトランプ氏の関係や同氏の司法妨害を捜査している元FBI長官ロバート・ムラー特別検察官だ。最近のCNN世論調査によれば、国民はトランプ大統領よりムラー検察官を圧倒的に支持しているという結果が出ている。捜査結果が出れば、トランプ大統領が窮地に追い込まれることは間違いない。

その先に待っているのは弾劾手続き。しかし、こちらは11月の中間選挙で民主党が大勝し世論がトランプ氏に愛想を尽かさない限り一筋縄ではいくまい。国会議員が選ぶ日本の総理大臣とは違い、国民から選ばれた米大統領には強大な権力が付与されているからだ。

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世界の火薬庫の導火線

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世間の注目はもっぱら米中貿易戦争に集まっているが、これまでの米中関係の歴史を振り返れば、程なく収束するだろう。なぜなら両国には対ソ連略、アフガニスタン紛争、ベトナムのカンボジア侵攻などで秘密裏に協力してきた長き歴史があるからだ。

自国の諜報機関に不信感を露わにし、目前の中間選挙に勝つためにはなりふり構わないトランプ大統領が暴走することも考えられるが、決定的な米中衝突は起きないだろう。
なぜならトランプ氏の「アメリカファースト」政策が米国の弱体化に繋がることを中国政府は百も承知だからだ。追加関税措置が長引けば、中国本土で活動する米企業はダメージを受け、サプライチェーンも崩壊しかねない。

習近平主席の長期戦略はゆっくりと米国の影響力をそぎ落とし、自国の勢力圏を拡大して世界一の強国になることだ。軍事力が米国の3分の1しかない今はまだその時ではない。

じつは国際情勢で今いちばん危ないのは米国とイランの関係だ。米トランプ政権が本気でイランの政権転覆を画策している可能性があるからだ。

「世界の火薬庫」と呼ばれる中東での有事は、かつての石油ショックを観ればわかるように、遠く離れた私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼす。

5月にトランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄して以来、両国の関係は最悪状態。トランプ氏が先月、イランのロウハニ大統領に対して「二度とアメリカを脅迫するな。
さもなければ、史上まれに見るような結果に苦しむことになる」とツイッターで過激な脅し文句を発信すると、イランのザリフ外相がすぐさま「(そっちこそ)用心するがいい」と反撃。
イランの最高指導者ハメネイ師も米国との交渉を拒否すると明言している。事態は悪化の一途だ。

そもそもアメリカとイランはなぜ仲が悪いのか。その答えを知るには1950年代まで溯る必要がある。イランの石油は長く欧米企業に支配されていた。しかし、1951年の民主的選挙によってモサデク政権が誕生すると石油産業の国有化を宣言。
慌てた米英は53年にクーデターを仕掛け、パーレビ国王を担いで親米政権を樹立した。政権転覆を裏で主導したのは米中央情報局(CIA)だった。

だが結果は裏目に出た。宗教軽視のパーレビ国王に保守派が反発し、民主主義が蹂躙されたリベラル派は失望したからだ。それが1979年のイスラム革命を誘発し、米国を「大悪魔」と痛罵したホメイニ師を最高指導者とするイスラム原理主義政権が誕生した。
イランと国交を断絶した米国で2001年9月に同時多発テロが起きると、ブッシュ大統領がイランを「悪の枢軸」と名指しで批判。イランでは反米感情が一気に燃え上がった。

その後、1995年にオバマ米大統領が粘り強い交渉の末、米・英、仏、独、露、中の6カ国とイランの間でイラン核開発抑止合意を成立させ、事態は沈静化に向かったかに見えた。だが今年に入ってトランプ大統領が突然この合意を破棄。

CIA内部に「イラン作戦センター」が設立されたとの報道もある。果して米国は同じ過ちを繰り返すのか。11月の中間選挙の直前に「史上最強の制裁」としてトランプ政権はイラン産石油輸入停止を各国に要請する。
中東の火薬庫の導火線に火がつく可能性は確実に高まっている。

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二人の訝しい大統領

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先日、フィンランドの首都ヘルシンキで何が目的なのかはっきりしないまま米露首脳会談が開かれたが、そこで対面した米国のトランプ米大統領とロシアのプーチン大統領にはじつは共通点が多いと米国で有名な雑誌ザ・ニューヨーカーが分析していた。

トランプもプーチンも権力が大好きだが政治そのものには興味がない。自らの正当性が脅かされることを常に恐れており、発言や行動の責任を問われることを嫌う。権力を維持するためには平気で嘘をつくし、質問されると巧妙にはぐらかす、というのだ。

しかし、ヘルシンキでの首脳会談では両者の違いも明らかになった。プーチン周到さとトランプの浅はかさだ。

旧ソ連の諜報機関KGBの工作員だったプーチン氏は各国の首脳と会う前に必ず相手のことを徹底的に調査し、周到な準備をする。ロシア・ソチの別荘でドイツのメルケル首相と会談した際にはわざわざ愛犬を同席させたくらいだ。少女時代に犬に噛まれたメルケル氏は犬が苦手なことを知っていて機先を制したのだ。今回もトランプ氏の弱点を徹底的に調べ上げたに違いない。

一方、自分は誰よりも交渉に長けていると慢心しているトランプ大統領。外交は門外漢にもかかわらず準備らしい準備もせず、「俺にまかせろ」と居丈高にヘルシンキ入りした。

これでは会談前から勝者は決まっていた。自信に満ちたプーチン氏は一切の妥協をせず、無知なトランプ氏を煽てて米国とEU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)の同盟国との間に楔を打ち込んだ。そして、ワールドカップで使われたサッカーボールとともに米大統領がいちばん欲しい「ロシアは米国の内政に一度も干渉していない」という発言を土産に提供している。

なにしろ2016年の米大統領選へのロシア介入疑惑や大統領の司法妨害を調査しているムラー特別検察官が多数のロシア軍情報将校を起訴した直後である。トランプ氏にとっては力強い援護だったに違いない。

よほど嬉しかったのだろう。人権侵害を繰り返しクリミアに軍事侵攻した敵性国家ロシアを批判するどころか、会談後の記者会見では自国の諜報機関よりもプーチン大統領を信用しているとの爆弾発言をした。これにはすぐさま米議会やメディアから猛烈な批判の声が上がった。「独裁者の前でこれほどみっともない真似をして、自分を貶めた大統領は今までいなかった」と、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員は怒りを露わにしている。「ヘルシンキ首脳会談は悲劇的な過ちだった」とも。

これがロシアを味方につけ中国に圧力をかけるためのキッシンジャー元国務長官ばりの地政学的高等戦術ならば大したものだが、トランプにそんな知恵はない。

その証拠に、なんとわずか一日後に発言を撤回してしまった。あれはただの「言い間違い」だったと。そんな子供だましの釈明を誰が信じるものか。正気の沙汰とは思えない。

その発言や行動が世界情勢に大きな影響与える両首脳は、通訳だけを交えた密室での2時間近くの会談でいったい何を話したのか。はたまた、ロシア政府はトランプ大統領のどんな弱みを握っているのか。それを今いちばん知りたい。

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