蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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近未来の人々のくらしは?

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 仕事も蓄えもなく生きる術を失った者はたいてい盗みに走る。罰を重くしたところで盗みは減らない。それならばすべての人々に最低限必要な定収を与えればよいのではないか。英国の思想家トマス・モアは1516年に発表した『ユートピア』の中でそう書いた。人々が自由平等そして平和に暮らす理想郷を描いた作品だ。

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 そのユートピア思想が五世紀の時を経て現代に蘇りつつある。資本主義の暴走とテクノロジーの進歩があいまって、世界中で金持ちはさらに金持ちになり、貧乏人はさらに貧しくなる所得格差が世界的に危機的レベルまで広がっているからだ。

 富裕層上位1%が国民総所得の3割以上を占めているのは許せないという怒りが爆発したのが数年前に世界的なニュースのもなった「ウォール街を占拠せよ」デモ。ご記憶の方もおおいだろう。しかし、米国は平等を愛する一方で金儲けに血眼になるというダブルスタンダードのお国柄である。

無一文でも努力すれば大金持ちになれるというのがアメリカン・ドリーム。格差などあって当たり前なのだ。それに、富裕層のほとんどは自助努力で社会に貢献し金持ちになった人々。大切なのは1%の金持ちを批判することではなく、残り99%の人々の所得水準を上げて将来に対する不安を減らす政策をとることだろう。

 そこで注目を浴びているのがベーシック・インカムだ。基礎年金、雇用保険、生活保護などの既存の複雑な生活保障を廃止するかわりに、個人の口座に国から一定の金額が年齢、性別、収入などに関係なく無条件に毎月非課税で振り込まれるシンプルな制度だ。

例えば、毎月成人1人につき10万円、子供1人につき7万円だとすると、子供2人の夫婦には34万円が毎月給付されることになるのである。これなら路頭に迷う心配がない。

 そんなことをしたら誰も働かなくなるのではという批判の声があるが、様々な調査結果によれば、ベーシック・インカムが導入されても人々はより良い生活を求めて就労し税金を払うという。この制度のメリットは、失業の不安なく自由な働き方を選べる、行政手続きの簡素化、労働市場の効率性向上、透明性向上などだ。

 今年6月にスイスで行われた国民投票でベーシック・インカム導入は否決されたが、国民投票を実施するまでに関心が高まっていることに注目したい。フィンランド、オランダ、カナダなどではすでに実証実験を含む研究が進んでいる。

 導入までの主なハードルは3つある。それは財源、労働意欲、経済競争力の問題だ。

 ひとつ目の財源は、行政コストの大幅な減少と税制改革で賄うことができる。例えば累進課税で現在最高45%となっている所得税率を一律45%にしてはどうか。

すでに高い税率を支払っている高所得層にとってはほとんど影響がない一方で、低所得者層にとってはベーシック・インカムによる収入が増税分を上回るからお得感がある。何よりも安定収入が保証されているのだから将来に対する不安が激減する。仕事が無くなる役人は反対するだろうが。

 2つ目の労働意識の問題とは、働かなくても最低限のお金を貰えるようになると人々が働かなくなってしまうのではという危惧だ。そういう人も少しはいるだろうが、ほとんどの人はより豊かな生活を求めて働き続け納税するだろう。

1974年~79年の5年間カナダのマニトバ州ドーファンで行われた実証実験では、全体の就労時間は以前より多少短くなったがそれは金銭的な束縛から解放された人々が子育てや勉学に集中するようになったからだという。貧困は目に見えて減少したそうだ。

政権交代によって実験が中止されたのは残念としか言いようがない。スイス政府が国民投票前に行ったアンケート調査でも仕事を辞めると答えたのは全体のわずか8%だった。

 3つ目の経済的競争力が失われるかどうかだが、人々が将来の生活に不安なく自分の能力をフルに発揮できる仕事を求められるようになれば今よりクリエイティブな発想が生まれ実現されるかもしれない。

 じつはもうひとつ21世紀的な問題がある。それはロボットに仕事を奪われた後の人々の生活である。恐ろしい話だがこれはすでに夢物語ではない。シリコンバレーの名だたる起業家たちがベーシック・インカム導入に賛成しているのも頷ける。

 もちろんこうした大変革は一朝一夕には実現しない。段階を踏む必要があるだろう。すでに米国、英国を含むいくつかの国では就労を条件に給付を受けることが出来る制度が導入されている。「給付型税額控除」と呼ばれるもので、いわば部分的ベーシック・インカムだ。不毛な金持ち批判を続けるよりはこちらのほうが一考に値するだろう。

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《関連書籍》

ユートピア (中公文庫)

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トランプ=セールスマン!?

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 このところ威勢がよくて人権や民主主義を軽んじる政治家がリーダーとして人気を博している。

 武力行使を躊躇しないロシアのプーチン大統領、抵抗する者はすべて粛清する中国の習近平主席、悪人は皆殺しだというフィリピンの「ダーティハリー」ドゥテルテ大統領などだ。

 

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 そしてもう一人がその仲間に加わった。過激な発言と嘘八百にもかかわらずアメリカ大統領にまで上り詰めたドナルド・トランプ氏である。

 10年ほど前にレバノンの著名な政治学者テレーズ・デルペシュは21世紀が『野蛮の世紀』になると予言していたが、まさにそんな様相だ。

 しばらく前の世界経済のリスクといえば1)英国のEU離脱、2)米国の利上げ、3)中国経済の減速の3つだった。しかし今では、中国リスクは残るものの、英国のEU離脱のショックは沈静化しFRBの利上げ恐怖症も減少して緊急のリスクではなくなっている。

 替わって登場した大きな不安定要因がトランプ・リスクだ。

 1か月ほど前、日米の政治に精通しているアメリカ人の某氏と食事をした。その際に彼は、「ヒラリーは犯罪者で巨悪、それに比べてトランプは小さな悪だから、トランプが勝つ」と言っていた。まさかと思っていたらその通りになった。

 いったいトランプ氏とはどんな人物か。

 慌ててニューヨークのトランプタワーで会談した安倍首相は「信頼できる指導者だと確信した」と持ち上げたが、これは浅はかなリップサービス。1時間程度話しただけでそんなことが分かるはずがない。現職のオバマ大統領の顔をつぶすような形で一国の首相がトランプ氏と会って50万円以上もするゴルフクラブをプレゼントして満面の笑みを浮かべているなど破廉恥の極みである。それをまた日本のマスコミが役所から配られた写真をデカデカと掲載して持ち上げた。

 一方、トランプ氏は彼がいちばん足りないモノをちゃっかりと手に入れている。それは「信頼できる男」という外国首相のお墨付きだ。

 さすがシェークスピアの国イギリスのBBCはトランプの本性を見事に見抜き、ひと言で表現している。そのひと言とは「セールスマン」だ。セールスマンはお客の関心を引き、契約を取るためなら手段を選ばない。嘘も平気でつくというわけだ。

 こういう政治を英語で"post-truth politics"という。日本語に訳すのは難しいが、嘘がまかり通る政治のことである。

 2008年の大統領選報道でピュリツァー賞を受賞したフロリダ州の地方紙

 『タンパベイ・タイムス』の調査評価によれば、トランプ発言のじつに70%が嘘。政治家と嘘つきは同義語だが、ここまでくるとあっぱれとしか言いようがない。それでもトランプ氏が当選できたのは感情が事実を凌駕した結果であり、責任の一端はメディア、とくにソーシャルメディアの氾濫があるとニューヨーク・タイムス紙は分析している。ちなみにヒラリー・クリントンの「ウソ率」は28%。

 だから私たちもトランプを甘くみてはいけない。

 日本のメディアは大統領になった後のトランプはアドバイザーが変われば大丈夫という論調だが、それは楽観的すぎる。今のところ、アドバイザーの顔ぶれをみると、白人至上主義者、性差別主義者、イスラム排斥主義者、金満ゴールドマンサックス、身内など最悪。

 なにしろトランプ成功の法則は:1.会話はプロレスだと割り切れ、2.頬を打たれたら戦車で撃ち返せ、3.相手が喜ぶツボを押せ、4.手を切るなら早い方がいい(『ドナルド・トランプ 奇跡を起こす10倍思考』(経済界新書)だから。

 

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《関連書籍》

ドナルド・トランプ 奇跡を起こす10倍思考 (経済界新書)

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スティグリッツが語る欧州の未来

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英国の国民投票によるEU離脱決定に続いて、ハンガリーがEUのルールを破ってセルビアとの国境にフェンスを建設し難民を追い返している。ハンガリーのシャルト・ペトロ外相の言葉を借りれば「ハンガリーには他国の失敗による負担を追う義務はない」というわけだ。

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これに対してルクセンブルクのジャン・アセエルボーン外相がハンガリーをEUから追い出すべきだと激しく批判。するとぺトロ外相はタックスヘイブンで儲けているルクセンブルグに四の五の言われる筋合いはないとやり返している。

急速に進むグローバル化の中で競争力を維持するためにヨーロッパ合衆国を造ろうという壮大なヨーロッパの夢だったが、今や難民問題をきっかけに加盟国の間に修復不可能とも思える亀裂が拡大しているのだ。

いったいこれからEUはどこに向かうのか。その答えを探しあぐねていたところに一冊の本が届いた。ジョセフ・スティグリッツの『ユーロから始まる世界経済の大崩壊』(徳間書店)である。なんとも恐ろしいタイトルだが、これは出版社が売るための策略。 原題はただの『ザ・ユーロ』である。

ジョセフ・スティグリッツといえばノーベル経済学賞を始めてとして幾多の賞を総なめにし、政府や国際機関のアドバイザーも務める経済学者。しかし日本のメディアによく出ている物知り顔のエセ経済学者たちと違って、常に額に汗して働く人たちの視点から社会の格差を鋭く分析している。人種差別や社会的不公正への怒りが根底にあるのだ。2008年の世界金融危機を予測した数少ない研究者のひとりでもある。

今年3月には来日して安倍総理からいわゆる"アベノミクス"(それにしてもよくこんなあやふやな名前をマスコミは何の躊躇もなく喧伝したものだ)について意見を求められたが、上から目線で経済に疎い安倍総理にはまったく理解できなかっただろう。

それはともかく、同書を読んでみると共通通貨ユーロによってヨーロッパの未来がいかに脅かされているかが手に取るように分かる。頭の中のもやもやした霧がすっと晴れたようだった。

彼のユーロに対する評価は厳しい。「ユーロを一言で表現するなら、欠陥経済学と欠陥イデオロギーのごった煮だ」と一刀両断である。その結果、不平等を拡大し格差を悪化させたというわけだ。

さらに、今のようにユーロ存続にこだわり過ぎるとヨーロッパ統合という本来の目的が実現不可能になるとの警鐘も鳴らしている。「きわめて重要な欧州プロジェクトをユーロと引き換えに犠牲にしてはならない」というのだ。

詳しくは同書をお読みいただきたいが、彼が提案する代替案は異なる国々がそれぞれ独自のユーロを持つ「柔軟なユーロ」制度の構築。各国別のユーロは価値が変動するが、変動の範囲はユーロ圏の諸政策によって左右されるというスキームである。そうした柔軟な対応ができなければ共通通貨はヨーロッパの未来に大きな脅威となり、EU崩壊へと繋がりかねない。それは世界経済にとっても大きな衝撃となるだろう。そう考えると同書の日本語タイトルもあながち的外れではないようだ。

 

ジョセフ・ユージン・スティグリッツ(Joseph Eugene Stiglitz)1943年2月9日 生まれ。アメリカの経済学者、コロンビア大学教授。1979年にジョン・ベーツ・クラーク賞、2001年にノーベル経済学賞を受賞。

主な著書:

スティグリッツ 入門経済学』(1999年)

世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(2002年)

人間が幸福になる経済とは何か――世界が90年代の失敗から学んだこと』(2003年)

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』(2006年)

世界の99%を貧困にする経済』(2012年) 等

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《関連書籍》

ユーロから始まる世界経済の大崩壊

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世界はクセのあるリーダー達が動かしている

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このところ威勢がよくて民主主義を軽んじる政治家がリーダーとして人気を博している。武力行使を躊躇しないロシアのプーチン大統領、抵抗する者はすべて粛清する中国の習近平主席、悪人は皆殺しだというフィリピンの「ダーティハリー」ドゥテルテ大統領、そして人権無視の過激な発言で米共和党大統領候補にまで上り詰めた不動産王ドナルド・トランプ氏。

まあ、彼らと比べたら見劣りはするが日本の安倍首相も野党の体たらくのお陰もあって戦車に乗ってイケイケ状態である。民進党の新代表に選ばれた蓮舫議員とはテレビ朝日で同じ報道番組のキャスターを担当し機敏で頭脳明晰な女性であることは知っているが、政党党首としてはいかにも線が細く寛容さに欠ける。しかも、お仲間で民主党政権崩壊の「戦犯」である野田佳彦前首相を幹事長に選ぶようでは自信の無さを露呈しており、とても安倍総理とまともに戦えまい。安倍首相にしてみれば高みの見物だろう。

とはいえ大統領や首相になると歴史に自分の名前を刻みたいという欲望を抑えきれなくなる。任期切れが近づくとなおさらのことだ。中東和平に失敗したオバマ大統領の歴史的キューバ訪問や「核なき世界」演説などその典型である。その裏で新型核兵器の開発に巨額の予算をつけているのだから政治家の舌は何枚あるのか訊いてみたい。

安倍首相も例外ではない。「バイ・マイ・アベノミクス」とか「全力で拉致問題の解決にあたる」とか威勢はよかったが、経済はゼロ成長だし拉致問題でも解決の糸口すら見えない。拉致被害者家族連絡会元副代表の蓮池透さんからは『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』と題された著書で酷評される始末である。

念願の憲法改正はまだまだ長い道のりである。となると残るは北方領土だ。というわけでこのところやたらと北方領土返還に執念を見せている。数えてみれば第二次安倍政権に入ってプーチン大統領とは頻繁に会談しているのだ。

今年は日ソ共同宣言からちょうど60周年目にあたる。両国の戦争状態は1956年の宣言で実質的に終わっているのだが、いまだに平和条約が結ばれていない。領土問題が進展していないからだ。その難問を解決しロシアと平和条約を締結すれば、まちがいなく歴史的偉業ということになる。安倍首相の鼻がピノキオのように高くなる瞬間になるだろう。

とりあえずの注目は、年末の首相とプーチン大統領の山口県長門市での会談だろう。長門市は言わずと知れた安倍首相の地元。フグが旬だから決めたわけではない。西側諸国がロシアのウクライナ侵攻問題で対ロ制裁中だから目立たない非公式会談に仕立てているのだ。ロシアと日本が仲良くなることを米国が喜ぶわけがない。だから12月15日という日程も絶妙なのだ。米国では11月8日に新大統領が実質的に決まり来年の1月20日の就任式までは政権の移行期間になるため外交にはあまり目が向かない。「抜け駆け」するには絶好のタイミングなのだ。

ロシア側も人口減少で失速しているシベリヤ・極東開発や経済協力と引き換えの北方領土返還には乗り気だという話がある。しかしどこまで本気なのかは分からない。なにしろ70年かかっても一ミリも進んでいない問題である。

一儲けも二儲けも出来るかもしれない日本の経済界は官邸の熱気とは対照的に冷ややかな見方をしている。強権で知られ策略家であるプーチン氏が領土で妥協するとは考えにくく、経済協力だけを吸い取られて終わりの可能性があるからだ。その通りだろう。安倍総理は功を急ぐあまり墓穴を掘ってはいけない。何しろプーチンは寝技が得意の遅刻常習犯。ローマ法王を1時間近く待たせた男である。

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大いに盛り上がったオリンピックの闇

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「より速く、より高く、より強く」

この有名なオリンピック標語にはフェアプレー精神が含まれている。しかし勝つためには手段を選ばないのが現実のスポーツ界の姿だ。それが如実に表れるのがドーピング(運動能力を高める薬物使用)まみれとなった国際スポーツの祭典オリンピックである。

リオデジャネイロ五輪では開催直前にロシアによる"国家ぐるみのドーピング隠し"が暴露され大混乱となった。それにも関わらず密かに薬物に依存した選手がどの程度いたのか。私はかなりの数だと推測する。

ドーピングは利用する選手側と検査官のイタチごっこである。検査技術が進歩すれば、その一歩先を行くように選手側は次から次へと新しいテクニックを使って検査の裏をかいてきた。

例えば、ステロイド服用者は、その痕跡を隠すために別のドラッグを服用している。マスキング・エージェント(遮蔽物質)と呼ばれるものだ。一般的には薬草から生成されたエフェドリンを使う。エフェドリンはビタミン剤にも含まれているので検出されても言い逃れができるからだ。

「血液ドーピング」という裏技も開発された。選手からあらかじめ採取した血液を競技会の2,3日前に同選手に輸血すると増加した赤血球が筋肉に多量の酸素を送り込んで運動能力を高めるというものだ。とんでもないことを思いつくものである。現在血液ドーピングは違反とされているが、近年ではヒト成長ホルモンというのも登場している。決定的な検出方法はまだないそうだ。

だがその程度で驚いていてはいけない。禁止薬物を服用する女子選手の中には、競技当日に友人からもらった尿をカテーテルという細い管をつかって自分の膀胱に注入して尿検査を潜り抜ける者もいるというから開いた口が塞がらない。

しかし何故それほどまでして勝ちたいのだろうか。その答えは明白だ。有り余る栄光とカネである。選手だけではない。国際オリンピック委員会(IOC),各競技連盟、医師、コーチ、テレビ局、スポンサー企業すべてが共犯者なのだ。

場当たり的な倫理観を振りかざしたマスコミや評論家が「フェアーでクリーンな大会にしなければならない」といくら説いたところで屁のツッパリにもならない。なぜならスポーツの商業化はとどまるところを知らず巨額のマネーが動いているからだ。

今やオリンピック収入の9割以上は企業後援とテレビ放映権。人々の注目を集める金メダリストたちの経済的報酬は巨額になっている。選手にとってもスポンサー企業、メディアにとっても、常に人々が熱狂するヒーローが必要なのだ。その手っ取り早い手段がドーピングというわけである。

1989年、米短距離選手ダイアン・ウイリアムズは米司法委員会でコーチから筋肉増強のためにステロイドの服用を強制されたと証言している。女性アスリートの身に副作用でひげが生え、クリトリスが肥大化し、声が太くなったという生々しい証言だった。

驚いたことにドーピングの歴史は紀元前3世紀まで遡る。古代ギリシャですでに選手が運動能力を高めるために様々な刺激薬を使用していたという記述があるのだ。それ以降1999年に世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が設立されるまでの約2000年間(!)、多かれ少なかれ運動能力向上薬は大した罰も社会的非難も受けることもなく使われてきたのである。

薬物を使用した選手を袋叩きにして責任を押し付けてもドーピング問題は解決しない。国際スポーツの界の構造的な薬物汚染にメスを入れる必要があるのだ。

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