蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

ICE射殺事件の真相

2026/01/22

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起こるべくして起きた事件か、はたまた起こる必要がなかった悲劇なのか。

1月7日、米ミネソタ州ミネアポリスで起きたICE(移民・税関執行局)の捜査官による女性射殺事件は、アメリカ政治の深い亀裂と無法ぶりを象徴する出来事となった。

殺害されたのは、アメリカ市民で3児の母のルネー・グッドさん、37歳。その日の朝、彼女は6歳の息子を学校に送ってからICEの無登録移民取締りに反対するデモ現場で法務監視員(legal observer)として活動していた。法務監視員とはデモ参加者や警察・法執行機関の行動を中立の立場で記録・監視する役割を担う民間人のことだ。

路上駐車中、近づいてきたICE捜査官が車のドアを無理に開けようとしたため不安を感じたグッドさんはゆっくり発進した。その瞬間、前に立っていた別の捜査官が車の窓越しに至近距離から彼女の頭部に数発の銃弾を発砲し死亡させた。

白昼しかも衆目の中で起きたこの事件では、居合わせた人々が様々な角度・場所から携帯電話で撮影した動画が提供されメディアで公開された。さらに、発砲したジョナサン・ロス捜査官自身が携帯で直前の様子を撮影した47秒の動画も地元メディアが入手している。

その動画では、ロス捜査官が携帯で撮影し続けたまま腰から銃を抜き、グッドさんに向けて発砲している。発砲の数秒前には彼女が「私は怒っていない」と捜査官に話しかけている様子や、発砲後男性の声で「クソ女(bitch)」と言っているのが聞こえる。

メディアによって綿密に再構成されたこれらの映像や音声によって、事件直後にトランプ政権当局者が語った嘘がみごとに暴かれている。

にも拘らず、事件直後トランプ大統領はグッドさんが捜査官を轢こうとしたと非難し、捜査官は負傷し入院したと主張した。だが動画には殺害後、捜査官が立ったまま銃をホルスターにしまい悠然と路上を歩いている姿が映っている。

国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官に至っては、動機を含め公的な証拠もないにも拘わらず、今回の事件は「車を武器にした…国内テロ」だと決めつけた。その後の捜査は州当局との共同捜査からFBI(連邦捜査局)の単独捜査に切り替えられた。あきらかな隠蔽工作としか思えない。ミネアポリス連邦検事局の検察官6人はICE側に偏った捜査を拒否して辞任している。

ICEの取締り手法が暴力的で違法性が高いことはすでに広く知られている。武装し、覆面で顔を隠し、身元を明かさず、デモ参加者に暴行を加え、令状も持たずに人々を路上で拉致して拘留施設に収容しているからだ。それをトランプ政権は容認している。

なぜなら、この事件の根底にはICEのトランプ政権が民主党主導の州や都市を脅かすためにICEと国境警備隊を乱用していることがあるからだ。そもそも、ミネソタ州に大規模な連邦捜査官(1,500人の強制送還担当官を含む)を派遣する必要などなかった。

合法・非合法を問わず移民を排斥したいトランプ政権が、ミネソタ州で発覚したソマリア系移民が絡んだ福祉関連詐欺をきっかけに移民を悪者に仕立てたいだけのだ。トランプはソマリア系移民を「ゴミ(garbage)」と蔑んでいる。

今回の事件はミネアポリスだけでなく、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、シカゴ、オレゴン州ポートランド、メンフィス、ノースカロライナ州シャーロット、ニューオリンズなど民主党支持の都市を標的としたトランプ政権による移民弾圧の結果として起きた悲劇だ。ロサンゼルスでは海兵隊まで動員した。

奇しくも、今回の事件現場は、2020年にミネアポリスの白人警察官が黒人男性ジョージ・フロイドさんを拘束中に窒息死させた場所から数キロしか離れていない。当時も抗議デモが瞬く間に拡大し、「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」という大規模な抗議活動が全米から世界にまで広がった。

トランプ大統領が「略奪が始まれれば、銃撃も始まる」と脅しめいた過激なツイートを投稿したため国内外から強い批判を浴びた。大多数の法執行機関が誤りを認め。それが政権交代の後押しをする大きな転機となった。

しかし第2次トランプ政権ではフロイド事件後のように法執行機関が誤りを認めるとは考えにくい。アメリカ合衆国の強大な力である軍事力、富、そして権力の座が、米史上初めて2度弾劾訴追され、刑事訴訟の被告人であり、民事訴訟で性的暴行と名誉棄損が確定したにも拘わらず再選されたトランプに掌握されているからだ。議会の共和党も最高裁判所の保守派も、そんな傍若無人な大統領を制止することを放棄してしまっている。

米経済学者でクリントン政権の元労働長官だったロバート・ライシュ博士は英紙「ザ・ガーディアン」への寄稿で警鐘を鳴らしている。

「トランプは臆病な共和党員と従順な最高裁判所の多数派に支えられ、米国大統領という地位を米国史上最も強力で、それでいて説明責任のない国家権力に変貌させた。しかし無制限の権力が正義をもたらすことはない。生み出すのは、不安定、混乱、戦争だ。トランプの露骨な無法行為は、今後何年にもわたって米国と世界、また、「文明」そのものに暗い影を落とし続けるだろう」

アメリカ国民は今回の事件をどう受けとめ、11月の中間選挙でどんな選択をするのだろうか。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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