蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

米とベネズエラ

2025/12/19

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南米北部、カリブ海に面する緑豊かな国ベネズエラ。首都カラカスから見渡す山々の光景は息を呑むほど美しい。市中心部には高層ビルが立ち並び、ユネスコ世界遺産に登録されたベネズエラ中央大学は20世紀前半のモダニズム建築の傑作とされている。

その「小さなベネチア」と呼ばれる人口2850万の国に、傍若無人なトランプ米大統領が「最大の艦隊」を編成してベネズエラ封鎖を開始している。

表向きの理由はベネズエラが米国向けコカインなど麻薬輸送・出荷ルートのひとつだということだが、真の狙いは反米ニコラス・マドゥロ政権の打倒と同国の豊かな石油資源の支配だ。軍事行動によって「強いアメリカ」を見せつけ国内の支持率低下を食い止めたいという思いもあるに違いない。

マドゥロ大統領を国際的制裁対象となる麻薬テロリストに指定し、5000万ドル(約74億円)の懸賞金までかけている。

それだけではない。9月からカリブ海と東太平洋で麻薬密売人を乗せたとされる小型船23隻を攻撃。乗船していた少なくとも95人を殺害している。民主党や人権団体は政権による戦争犯罪だと一斉に非難の声を上げた。

だが、トランプはそんなことは気にもとめず、11月末にはベネズエラの空域の「全面閉鎖」を発表。ベネズエラ周辺に空母打撃群や強襲揚陸艦を含む十数隻の艦艇を展開し、約1万5000人規模の兵力を集結させている。トランプお得意のドラマチックな演出である。

12月に入って、劇的な動きがあった。米海軍と沿岸警備隊員によるベネズエラ沖での石油タンカー急襲である。拿捕した石油満載のタンカーのオイルをどうするのかと報道陣に訊かれたトランプは自慢げにこう答えていた。

“We will keep it”(我々が保管する)。

さらに、「最大の艦隊」を編成し制裁対象の石油タンカーの完全封鎖を命じた。

マドゥラ政権はこの封鎖措置を「全く理不尽」だと非難し、「我が国の財産」を奪うために計画されたものだと主張した。

かつてのモンロー主義を彷彿とさせる展開だ。独立から半世紀後、米国はルイジアナをフランスから買収、南のフロリダ半島もスペインから買収すると、南に広がる中南米の支配を視野に入れ始めた。1823年、第5代ジェームズ・モンロー米大統領は1823年、欧州列強によるアメリカ大陸への干渉を拒否し、米大陸の安全は米国が守るというモンロー主義を宣言した。

トランプはそれをさらに一歩踏み込んで西半球全域に米国の権力を行使しようという野望を抱いている。

歴史を振り返れば、中南米が反米大陸になった背景に必ず米国の影があった。例えば、1973年に民主的選挙で選ばれた政権がクーデターで倒され、長期の軍事独裁が始まったが、クーデターを裏で画策したのは米諜報機関CIAと資金を提供した大手米企業だった。

米政府は、中南米で進歩的な政権や反米に繋がる政権が誕生するたびに露骨に介入し、経済制裁や反政府ゲリラ組織を使って内戦を起こしたり、海兵隊を突入させて力ずくで親米政権を打ち立ててきた。

冷戦時代には、反共産主義であれば軍事政権でも支持し、米国に都合の悪い政権はクーデターを起こして民主主義を潰した。中南米の人々には米国がテロの黒幕に見えたとしても不思議はない。

米西戦争ではキューバを半植民地化しグアンタナモ基地(拷問で有名)を手に入れた。コロンビアにも軍事的圧力をかけてパナマを独立させ、運河の恒久的支配権を獲得している。グレナダ侵攻、パナマ侵攻、ニカラグア反政府ゲリラ支援、キューバ経済制裁など、米国は中南米を自国の勢力圏とみなしてきたのだ。

現在、世界の注目を集めている石油大国ベネズエラは、紆余曲折はありながら1998年頃まで米国に追従する政権が続き、米国流の新自由主義経済政策によって「王様と物乞いの国」と揶揄されるほど貧富の差が絶望的にまで広がった。

そこに登場したのが反米・「21世紀の社会主義」を掲げて1998年の大統領選で勝利した元軍人ウゴ・チャベスだった。彼は国家収入の7割を占める石油収入を貧しい人々の生活支援に向け、貧困層のための教育や就業機会、無料診療制度などを整備。大衆から熱狂的支持を得た。2013年、58歳の若さで病死したが晩年でも60%前後という高支持率を維持していた。

後を継いだのは、彼の腹心で反米・親ロ・親中のマドゥロ大統領だった。しかしマドゥロ政権は独裁色を強め、経済破綻、選挙不正疑惑、政治的弾圧、国際的孤立などに対する国民の失望から現在の支持率は2割以下と低迷している。

反米のマドゥロ政権を打倒してベネズエラを民主主義体制に移行することが出来ればトランプ政権にとって大きな政治的勝利となることは間違いない。だが失敗すれば権力闘争や治安が悪化し、反米感情の再燃というリスクを伴う諸刃の剣だ。地政学的には、中国やロシアに政治的経済的に入り込む隙を与えることになる。

奇しくも、反チャベス・反マドゥロの民主化運動を20年以上率いて、首都カラカスの隠れ家に潜伏していた著名な野党指導者マリア・コリーナ・マチャドが12月11日ノルウェーの首都オスロで突然姿を見せた。オスロでは彼女の娘が母親に代わってノーベル平和賞を受賞したばかりだ。

彼女が帰国し暫定政権を樹立すれば、トランプは「民主主義擁護の勝利」として外交的成果を誇示できるが、そう上手くはいくまい。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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