蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

ガザ停戦はトランプの功績となり得るのか?

2025/10/20

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パレスチナ自治区ガザでのイスラエル・ハマス戦争の停戦が始まったことをあたかも自分が戦争を集結させたかのように誇示したトランプ米大統領はイスラエルでの熱烈な歓迎にご満悦だった。

確かにガザ停戦への進展はトランプにとって「画期的」勝利にみえる。イスラエルとイスラム組織ハマスとの和平案第一段階の合意を受けて、ガザでハマスに拘束され生存していた最後の人質20人が解放されたことは、2年間続いた凄惨な戦闘の大きな節目だ。見返りにイスラエルは終身刑の受刑者250人を含む1900人以上のパレスチナ人を釈放した。

だが、楽観は禁物だ。宿命の地カナン(パレスチナ)を舞台に繰り返されてきた長く深い対立の歴史と流血の抗争は、宗教対立や民族紛争、大国の思惑、難民問題などが今も複雑に絡み合っている。再び戦闘が勃発する可能性はある。

トランプ政権のガザ紛争終結のための包括的計画によれば、イスラエル軍は完全撤退しない一方でハマスは武装解除し将来のガザ統治に一切関与しないことが求められている。パレスチナ国家についての言及は一切ない。イスラエルはガザ地区を占領・併合しないとあるが、狡猾な戦略家のネタニヤフ首相が約束を守るかどうか疑わしい。ハマスは武装解除に応じていない。

北朝鮮の非核化やウクライナ戦争即時停戦で手柄を立ててノーベル平和賞を手に入れようとして失敗に終わったトランプが、今度は拙速に中東で成果を上げて歴史に自分の名を刻もうとしている姿はいかにも危うい。

歓喜に沸くイスラエルの人々の姿をCNNの放送で見ながら、私は「インティファーダ」の始まりを思い出していた。インティファーダという聞きなれないアラビア語が国際政治で注目されるようになったのは1987年末のことだった。

1967年の「六日戦争」でアラブ諸国に大勝利したイスラエルはシナイ半島(エジプト領)、ガザ地区、ヨルダン川西岸(ヨルダン領)、東エルサレム、ゴラン高原(シリア領)など多くの領土を占領した。

しかし、ガザ地区では占領当局に対する抵抗運動が燃え上がり、その怒りはたちまち西岸に広がって占領地全体を巻き込む蜂起に発展した。民衆のインティファーダ(一斉蜂起)の始まりだ。

イスラエル軍による容赦ない鎮圧の様子はたちまちテレビニュースを通して全世界に知られるところとなった。重装備のイスラエル軍に石を投げたりタイヤを燃やして立ち向かうパレスチナ人の姿はまるで聖書に出てくる巨人ゴリアテと勇敢な少年ダビデようだった。パレスチナの大人たちが逮捕されると、子供たち、そして女性たちが抵抗を続けた。最初の一年だけでもパレスチナ人2万人が逮捕され、300人が死亡。少なくとも3500人以上が負傷した。それが世界の良心を揺さぶり、共感が広がった。

ガザ地区の人口の大半は難民であり、淡路島より狭い地域に当時90万人がひしめき合っていた。にもかかわらず1967年以降、強引にユダヤ人の入植活動が進められ、パレスチナ人は住居や生活の糧を奪われていった。

自然発生的に始まったインティファーダを率いたのはイスラム原理主義者組織だった。そのひとつが「ハマス」である。ハマスはムスリム同胞団から1980年代に分派したグループの名称で、アラビア語のイスラム抵抗運動の頭文字をとったものだ。

現在、米国や日本、英国、欧州連合(EU)など9カ国がハマスをテロ組織と認定しているが、ハマスはイスラム教の「喜捨(ザガート)」の教えに基づいた社会福祉団体としての顔ももっていた。幼稚園、小中高一貫学校、大学などの運営、病院や診療所などの医療サービス、難民キャンプや貧困家庭への食糧配布、母子家庭への現金支給や地域社会のインフラ整備などだ。

2006年の選挙でパレスチナ自治政府の議会多数を獲得。イスラエルや国際社会からの封鎖で政府の機能が麻痺する中、ハマスの支援が生活の命綱となっていた家庭も多く、一定の支持を集めていた。

しかし現在では、イスラエルへの抵抗や社会福祉活動はある程度評価されているものの、武力行使による民間人の被害や国際的孤立、強権的姿勢、言論の自由の制限などに批判の声が高まっている。かつて世界で共感を呼んだ石を投げる市民たちの抗議は、今や武装組織による戦争行為に変質してしまったからだ。

今回の戦争のきっかけは2年前の10月、ハマスが「イスラエルの抑圧への報復」としてイスラエルに対して大規模な奇襲攻撃を仕掛けたことだった。約1200人が死亡。さらに240人以上が人質としてガザに連れ去られた。

その後のイスラエルの報復攻撃苛はそれに輪をかけて苛烈さを極めた。ガザ保健省によると、6万7千人以上が死亡、約17万人が負傷。死者の半数が女性と子供だ。まさに無差別殲滅作戦である。ガザの現在の状況は人口の約90%(約190万人)が家を失い、47万人が飢餓状態だという。

13日、鳴り物入りでエジプトで開催された「和平実現に向けた国際会議」は中身が乏しく、イスラエルは欠席、ハマスは招待すらされず、トランプの自慢話ばかりだった。恒久的停戦実現への道のりは長い。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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