蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

トランプの綻び

2025/07/23

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少女らへの性的虐待や人身売買などの罪で起訴され、拘留中の2019年に自殺したとされる富豪ジェフリー・エプスタイン事件に対するトランプ大統領の手のひら返しの対応に彼の岩盤支持層に亀裂が走っている。

トランプ政権にとって思わぬ危機に発展するかもしれない。

トランプはホワイトハウスに返り咲けばエプスタイン事件の真相や政府の隠蔽工作を暴きエプスタインが保管していたとされる「顧客リスト」も明らかにすると約束していた。熱狂的トランプ派は政財界に広い人脈を持っていたエプスタインは口封じのために殺されたという陰謀論を信じている。

トランプ自身がそんな陰謀論を煽って支持者を増やし、支持者たちはひたすら歴代政府の闇が暴露されることを期待してきたからだ。

ところが2期目のトランプ政権が発足してから半年以上が過ぎた今になって、連邦捜査局(FBI)と司法省は他殺の証拠も「顧客リスト」もなかったと発表。 

このトランプの手のひら返しに、陰謀説を信じてきたMAGA派は激怒している。

そもそもエプスタインが「顧客リスト」をつくっていたという説を後押ししたのはトランプの側近たち、とくにパム・ボンディ司法長官だった。彼女は2月にFOXニュースのインタビューで「エプスタインの顧客リストは私のデスクの上にあるわよ」と話したため、瞬く間に右派のインフルエンサーたちによって拡散されたからである。それが一転「存在しない」となったのだから共和党内からさえも批判の声が上がっている。

さらには、トランプの元側近で仲違いしたテスラCEOのイーロン・マスクが、証拠を示さずに「顧客リスト」にはトランプの名前もあると主張。それが第3の政党を立ち上げた理由の一つだとソーシャルメディアに投稿したから収集がつかなくなった。その後この投稿を削除したが時すでに遅し。

「誰も気に留めない人物に時間とエネルギーを無駄にするな!」とトランプは火消しに躍起だが、エプスタインが死亡してから6年、彼の犯罪とトランプ大統領との関係は疑惑の中にある。

私が以前特派員を務めていたTIME誌はトランプとエプステインの関係を以下のように時系列で整理している。

1992年のNBCの資料映像(1992年)にはトランプとエプスタインがトランプの邸宅マール・ア・ラーゴで踊る少女たちを指さしながら見ている様子が映っており、背景にはエプスタインの右腕であるギレーヌ・マクスウェルの姿があった。 

 彼女は2022年にエプスタインと共謀して児童性的人身売買を行った罪ですでに懲役20年の有罪判決を受けている。

2002年、ニューヨーカー誌のインタビューで、トランプはエプスタインとは15年におよぶ知り合いで彼との関係は1980年代後半にまで遡るとし、「彼は素晴らしい人物だ」と語っている。

ニューヨーク・マガジンは2002年、エプステイン氏のプロフィール記事を掲載し、トランプの以下のような電話インタビュー発言も掲載している。「ジェフとは15年来の知り合いだ。素晴らしい男だ。・・・一緒にいてとても楽しい。私と同じくらい美しい女性が好きだともいわれている。しかも、その多くは若い女性だ。ジェフリーが社交を楽しんでいることは間違いない」

2019年、ニューヨークタイムズ紙はトランプが1992年に自身とエプスタインのために28人の女性を集めて「カレンダー・ガール」パーティを開いたと報じた。

いずれもエプスタインとトランプがいかに親密な関係にあったかを示している。

ボンディ司法長官が今年初めに公開した文書には、エプスタインの個人所有の航空機の飛行記録にトランプとその家族(当時の妻マーラ・メイプルズを含む)が1990年代半ばに複数回搭乗していたことも記されていた。

2022年にエプステイン著として出版された本「ブラックブックス(the Secret Black Books)」にはトランプ、ビル・クリントン元大統領、アンドリュー王子など彼が関わった著名人が多数登場している。ただ、全員が必ずしもエプスタインの違法行為と関連しているわけではないようだ。

エプスタイン元被告は20人以上の女性被害者から告発されており、そのひとりバージニア・ジュフリーさんは英アンドリュー王子から虐待を受けたと訴えていた。彼女は2019年に17歳の時にエプスタインに売られ、アンドリュー王子を含む元被告の友人らとの性行為を強要されたという。彼女は今年4月、西オーストラリア州パースの自宅で死亡が確認された。警察は彼女の死に不審な点はないとしている。

エリザベス女王の三男であるアンドルー王子は一貫してこの疑惑を否定していたが、2022年、ジュフリーさんが和解金を受け取ることで訴えを取り下げている。

2008年にエプスタインが初めて有罪判決を受けて以来、トランプは彼と急速に距離を置くようになった。トランプ・オーガニゼーションの弁護士アラン・ガーデンは2017年、POLITICOの取材に対し、トランプとエプステインの間には何の関係もなく、彼(エプステイン)の行為についても(トランプは)全く知らなかった」と述べている。だがそんな見え透いた嘘は誰も信じない。

じつは、エプスタインを巡るスキャンダルはトランプ支持者たちを失望させているひとつの理由にすぎない。他国への軍事的介入を否定していた大統領の突然のイラン空爆は彼らにとっては裏切り行為だ。日本円で590億円もするジェット機をカタールに「贈呈」させたことも不信感を募らせている。

親トランプ派のポッドキャスターの中にはトランプの関税政策や移民税関捜査局(ICE)の犯罪歴のない移民労働者に対する強制捜査を批判する者も出てきた。

二枚舌のトランプは果たしてこの危機を乗り越えられるのか。興味津々だ。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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