蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

大統領と恩赦

2025/11/25

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2017年1月に就任して以来、世間を騒がし続けているトランプ米大統領が、2期目に入ってさらに傍若無人ぶりを露わにしていることがある。恩赦のばらまきだ。

最初の任期中に238件の恩赦と減刑を与えたトランプは、2期目に入って1年も経たないうちに、すでに2000件を上回る恩赦と減刑をしている。しかもその対象者は彼の支持者や側近など物議を醸す人物ばかりだ。

最近では11月10日に数十人に恩赦を与えたが、通常の恩赦審査プロセスをまったく無視して、2020年の大統領選の結果を覆そうとして起訴された側近たちばかりだった。第1次政権でトランプの顧問弁護士を務めたルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長や、保守強硬派のマーク・メドウズ元主席補佐官などである。

弁護士資格を停止されているジュリアーニは、「恩赦を求めたことは一度もないが、大統領の決定に深く感謝している」と代理人を通じてコメントしている。財政難にも直面しており、トランプへの忠誠心が強まっているに違いない。

ホワイトハウスのレヴィット報道官は「選挙結果に異議を唱えて起訴されるのは共産主義のベネズエラでは起きても、アメリカでは起こりえない。大統領はバイデン政権の共産主義的手法を完全に終わらせようとしている」と見当はずれな声明を発表して失笑を買った。

今年1月の大統領就任初日にトランプは、2021年の連邦議会議事堂襲撃事件で有罪とされた約1600人に恩赦を与えて物議を醸した。その中には極右の「プラウドボーイズ」や「オースキーパー」のメンバーで暴力行為や扇動で長期刑を受けた人物も含まれていたからだ。

恩赦の概念は古代文明にまで遡る。古代ギリシャやローマでは戦争終結や宗教儀式の際に罪人を赦す慣習があった。中世ヨーロッパでは、国王の権威と慈悲の象徴的な行為として恩赦を与えることが一般的になった。

アメリカでは1789年に憲法第2条で大統領に恩赦権が与えられた。その目的は主に反乱や反逆の鎮静化と司法の柔軟性の確保だった。

例えば、初代大統領ワシントンは、蒸留酒への課税に反発した農民たちの暴動(ウィスキー反乱)鎮圧後、参加者を恩赦して国民融和を図った。

柔軟性の確保とは、法律が概ね公正であっても特定の状況において不公正な場合もあるのでその是正措置として恩赦が許容されるという考え方だ。カーター大統領が1977年、ベトナム戦争徴兵忌避者を一括恩赦したのがいい例だろう。「国民的和解」の象徴的決断だった。

しかし、現代の恩赦は「慈悲」から「政治的ツール」に変質している。そのため近年は退任間際の大量恩赦や側近や身内の救済が目立つようになった。

フォード大統領は1974年、「国の癒し」を理由にニクソン元大統領に全面恩赦を与えた。ところが「権力者同士の取引」だとして激しい批判を浴びた。

クリントン大統領に至っては、退任直前の2001年、国外逃亡していた億万長者マーク・リッチを恩赦し、政治献金がらみの大スキャンダルに発展。近年ではバイデン大統領が自身の政権の司法省による訴追から息子ハンターを免除したケースもある。

だが、トランプの悪質な恩赦のやり口はその規模と社会的反響で他者を圧倒している。

今年6月、トランプは家庭内暴力で有罪になった俳優メル・ギブソンへの銃所有権の回復を勧告することを拒否した恩赦局長のリズ・オイヤーを解任。後任にトランプに忠誠を誓うエド・マーティン任命した。恩赦局長の解任まで至ったのは極めて異例だ。

地元紙によれば、その人事がきっかけでカネ儲けに余念のないトランプによる一種の「恩赦経済」が際立つようになったという。

恩赦を求める人々が「大統領の側近へのアクセスを謳う弁護士やロビイストを雇うために大金を使っているというのだ。トランプ大統領の恩赦の対象となった2000人を超える人物のほとんどはすでに有罪判決を受けている。しかし大統領に「優しく」すれば陪審員の判決が覆される可能性もあるのだ。わかりやすく言えば、恩赦はトランプへの寄付と忠誠心の報酬になっている。

トランプは3月、詐欺罪で有罪判決を受けた起業家トレバー・ミルトンを恩赦にした。同氏は「一流の人々から強く推薦された人物だった」とトランプは説明しているが、ミルトンはトランプの選挙運動に多額の資金を提供していた人物だ。

トランプ恩赦の対象には富豪やビジネス界そしてエンタメ界の有名人が多い。代表的なのは、暗号資産取引所バイナンス創業者のチャンポン・ジャオだろう。反マネーロンダリング法違反で2023年に有罪を認め、禁固4カ月の判決を受けた。恩赦後には金融事業の制限が解除されている。トランプ政権との裏の結びつきの匂いがプンプンする。

リアリティ番組でエンタメ界の著名人のトッド・クリスリー&ジュリー・クリスリー夫妻は銀行から約43億円を搾取した詐欺罪で2022年に長期実刑判決を受けたが、今年の完全恩赦で刑務所から解放されている。

トランプの「大量恩赦は司法界や法執行機関を愚弄し、アメリカの民主主義を汚した。特に議事堂襲撃事件の加害者への恩赦は暴力的過激派を正当化し、将来の政治暴力を助長する恐れがある」とニューズウィーク誌は警鐘を鳴らしているが、自己顕示欲の塊のトランプには馬耳東風のようだ。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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