若林栄四 ニューヨークからの便り

若林栄四(わかばやし・えいし)

1966年東京銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。シンガポール支店、本店為替資金部及びニューヨーク支店次長を経て勧角証券(アメリカ)執行副社長を歴任。現在、ニューヨークを拠点として、ファイナンシャル・コンサルタントとして活躍する傍ら、日本では株式会社ワカヤバシ エフエックス アソシエイツ(本邦法人)の代表取締役を務める。著書:、『大円高時代』(ダイヤモンド社)、『ドルの復活 円の失速』(ダイヤモンド社)、『勝つドル 負ける円』(フォレスト出版/大竹愼一氏との共著)『黄金の相場額 2005~2010』(講談社)、文庫版『黄金の相場額』(講談社+α文庫)、『「10年大局観」で読む2019年までの黄金の投資戦略』(日本実業出版社/2009年2月)など。

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これから更なるトランプショックが起きる

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2016年11月トランプ当選というショックで金融市場は大荒れとなっている。

これだけの大逆転というのは米国大統領選挙史上でもほとんどないくらいの珍事であった。11月8日の選挙当日の朝トランプ陣営は沈痛な表情で、誰も笑顔がなく、彼らももちろん勝利するとは考えていなかった。したがって勝った後の戦略の準備も全然ない。来年1月20日の就任式までたった63日しか残されていない。

大忙しであるが、もともとトランプが大風呂敷を広げていたので、彼の選挙公約のどこまでが実現するのかということも誰もわかっていない。もちろんトランプも含めて誰も知らないのである。おそらく彼にとっては大統領になることには大いに興味があったが、大統領の仕事であるガバン(統治)することには興味がないだろう。うまくいかなければ、一年ぐらいで辞職してしまうこともありうる。厄介な人が大統領になるものである。

さて金融市場は当初予想とは一転、明るいムードが支配し始めているが本当にそうだろうか。大統領が変わって相場が劇的に変わるという話はあまり聞いたことがない。一般論としては大統領の如何に拘わらず、景気や相場は独自のサイクルで上下動を繰り返すものである。大統領が変われば世の中が変わるというのはまずないのである。

筆者は、むしろこんな人が大統領になったら米国は大変なことになるだろうと思っているが、要は相場がムードを支配するので、相場が駄目になってくれば、やはりトランプではだめかということになるのだろう。トランプが駄目になるから相場が駄目になるのではなく、相場が駄目になるから、トランプでは駄目ということである。

その相場がどうかと言うと、米国株式市場は筆者の計算ではほとんどこれ以上上昇の余地はないように見えている。

やっぱりトランプでは駄目かという日が割と近いだろう。

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水を差すのは米国株

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さすがのFRBも今度は年貢の納め時で、12月のFOMCでは金利を上げることになりそうだ。

世の中の動きが少し変わり始めている。

おそらく2008年第4四半期というのはリーマンショック2008年9月の後遺症で、ゴールドが底値、日経平均が底値、米国金利がゼロ金利導入となった激動の時間帯であった。その2008年第4四半期からの31四半期目が今年の7-9月期であった。

ゴールドは7月6日に1375ドルの天井、米国長期金利も7月に1.30%、日経平均は6月24日に14,864円の安値と、31四半期目で底天井を付け、この10月に入ってからその動きが加速し始めている。

これで本格的に米国金利上昇、ゴールド暴落、日経平均暴騰となればめでたいのだが、そうは簡単にいかないのが今のデフレである。

確かに31四半期目でとりあえずの天底を見たのだが、今度は米国株(2009年3月底)からの31四半期目がこの10-12月期である。となるとこの相場はこの10-12月期に天井を付けていよいよ大崩壊が始まるようなタイミング入っている。

そうなると、米国長期金利もそれほどは上昇しないし、ゴールドの調整も普通の調整でしかあり得ない、日経平均にして米国株下落の中でそれほど大きく上昇するとも思えない。10月の出だしは元気に出たが、その動きを打ち消すような動きが早晩米国株で出てくる。やっぱりデフレだということになるのである。

つまり今進行中の大デフレトレンドというのはその31四半期程度のマイナーな日柄でひっくりかえるような柔なものではないのである。何せ40年のスケールで進行中のトレンドである。

31四半期の日柄で天底を見ると一般的には36四半期までそのトレンドが継続することが多いが、今回のケースはせいぜい1四半期程度の調整でしかないこととなろう。長くても来年1-2月までの調整である。

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ドナルド・ジョン・トランプという恐怖

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ヒラリー・クリントンが先週のウォール・ストリートのファンドレイザー(選挙資金集めのパーティー)でトランプ支持者のことを"the basket of deplorables"(嘆かわしい人たち)と呼んだことが問題になっている。

クリントンはそれに続いてこの人たちの半分はracist(人種差別主義者)、sexist(性差別論者)、xenophobia (外国人排斥者)、obamaphobia(オバマ大統領排斥者)だと口をきわめて非難している。

このファンドレイザーでは献金してくれる身内の人たちの集まりなのでどうしても気が緩み失言が多くなる。

共和党支持者から猛烈な抗議の声が上がり、さっそく"I am deplorable"と大書したTシャツを着て街を歩くトランプ支持者がテレビで報道されている。

クリントンも言いすぎた-候補者をけなすのは良いが選挙民を侮辱するのはまずい-と反省、その後謝罪を余儀なくされた。

一部選挙プロの間では、これがクリントン苦戦(あるいは敗北)の決定打となるのではないかとコメントする人もいる。

2008年にはオバマ候補がやはりサンフランシスコのDonor (献金者)の集まりで、ラストベルト(錆びついた工場群が並ぶペンシルバニアあたりの不況の町)の人々(主に白人)について"cling to guns or religion or antipathy to people who aren't like them"(銃規制に反対―狩猟と称して銃にしがみつく、また仲間内の教会の集まりに熱心で、自分たちと違う人種に反感を持つ―黒人排斥の集団)とコメントして大問題になり、謝罪に追い込まれている。

仲間内ではどうしても油断してしまうのである。

2012年の選挙ではロムニー候補がフロリダのDonorの集まりで、"47%の人々は政府に依存して生活している。彼らは犠牲者だと自分たちのことを思っている。(主に黒人貧困層を示唆した発言)私の仕事はこれらの人々について心配しないことだ。(政府援助を切り捨てるとの暗示)"の発言を隠しテープで取られ、それが公開されて一気に彼の敗北を決定づけたこともある。

こうしてファンドレイザーは、候補者の鬼門となる可能性があるが、選挙資金を集めるためにはこれをやらざるを得ない。

トランプは選挙戦の初めは他人の金に頼らないと言っていたが、選挙戦が本格化して、やはりファンドレイザーに頼り始めている。プレスは完全にシャットアウトである。

仲間内だけではなく公開の席上でありながら、ありとあらゆる暴言をまき散らすトランプが、報道陣をシャットアウトした席上でどんなにひどいことを言っているのか、想像しただけでも寒気がする。

そんな奴が決勝戦まで残る今回の米国大統領選挙の怖さは今まで、初めて経験する恐怖である。

トランプが、クリントンとの差を縮め始めた途端の金融市場の動揺は、常識的な一般人が感じる恐怖の現れだろう。

因みに9月15日現在の選挙専門ウェブ"fivethirtyeight"による候補者の勝利確率はクリントン65%、トランプ35%である。


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現時点での米大統領選

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Convention Bounce と呼ばれるものがある。

米国大統領選挙の候補を指名する党大会(Convention)がおわるとそれぞれの党の指名した候補のPoll(人気投票)の数字が上がるというものである。

今回の例でも共和党大会の直後のPoll では一時的にトランプがクリントンを制する場面、あるいはタイにまで追いつく場面がみられた。

しかし民主党大会が終わると、今度はヒラリーがbounceして、大幅にトランプをリードする形になった。色々なpoll があるので一概には言えないが、おおむね8-10%ヒラリーがトランプをリードしているのが現状である。

もっともアメリカの大統領選挙では全国区で幾らリードしようが、少数の接戦州(スウィングステート)でのpollが重要である。

何故なら一つの州を制したものが、その州のエレクトラル-カレジ(選挙人)を独占する選挙人制度となっているからだ。

人口比率で決められた各州の選挙人の総数は538人であり、その過半数270人を採れば当選となる。

2000年の選挙では全国の獲得投票数で上回った民主党のアル・ゴアが選挙人で上回ったブッシュに敗北したのが記憶に新しい。

各州の投票傾向はほとんど固定的である。NYは民主党、カリフォルニアも民主党、テキサスは共和党、などなど投票する前からはっきりしている州が多い。

それを足し上げると最初から民主党候補は230以上の選挙人の獲得が確実視される。

共和党は、180人ぐらいは確実に集められる。

それでいくと、確実でない州(これをスウィングステートと呼ぶ)がどちらに傾くかで最終結果は決まる。ところが既に民主党は戦わずして230あるので、あと40を獲得すれば勝ちである。共和党は90スウィングステートで採らないと勝利はない。

ということでこの少数のスウィングステート例えば、フロリダ、オハイオ、ペンシルバニア、ノースカロライナ、バージニア、ウィスコンシン、コロラドで両候補の数字がどうかということが全国区より大事である。

そのスウィングステートでのpollも今現在圧倒的にヒラリーがリードしている。


民主党大会でのプレゼンテーションもよかったが、この2週間ほどはトランプの自滅である。民主党大会でトランプを難詰した戦死した兵士の父親に対して侮辱的な言辞を弄するなど、このトランプというのは、自分が非難されると徹底的に相手をやっつけなければ気が済まない性格である。それでこの父親との論争になり、これがダメージとなって、ヒラリーとの差が開いたのは間違いない。要するにトランプというのは小物なのである。

戦死した兵士の家族には、国に殉じたことに対する感謝を表明し、それ以上論争に入らないのが常識である。それができない。

さらには、民主党全国委員会がロシアにハッキングされたのをとらえて、ロシアに呼び掛け、ヒラリー・クリントンの消されたeメイル3万件もついでのハッキングしてくれという馬鹿な発言をしたことも、共和党支持者も含めて、ごうごうの非難を浴びた。

このセンスのなさ、発言する前に考えない軽薄さは耐え難いものがある。

その結果、トランプは以前にロシアのプーチン大統領を礼賛した事実と含めて、当選したらプーチンと図って、ウクライナやNATO を骨抜きにするつもりではないかといったコメントがテレビで大きく流れた。

こうした発言が次から次へと出てくるので、共和党支持者がクリントンに鞍替えを発表する例が続出した。

また共和党支持の大口ドナー(献金者)がヒラリーに乗り換えを発表するなどトランプキャンペインは崩壊の危機に瀕した。

そこでトランプは、彼に背を向けて保守派の共和党員に対し、ヒラリーが勝てば、今空席の最高裁判事にリベラル派が指名され、9人の判事のバランスがリベラル5人、保守4人となってこれから何十年にわたってリベラルの天下になってしまう。それを阻止するためにトランプが大統領にならなければならないとの理屈で自らに対する投票を呼び掛けている。

後3カ月となった選挙戦まだ一筋縄ではいかない感じである。

とりあえず、クリントン圧倒的有利の態勢に入ったが、ビル・クリントンが父ブッシュを破った1992年の選挙では、クリントンが序盤の劣勢を一気にひっくり返して、勝利した例もある。

ヒラリーにしてみれば早く3カ月たってほしいと祈る気持ちだろう。

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BREXITの意味する潮流

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BREXITのイニシャルショックはマイナー・コモーション(騒動)に終わろうとしている。しかしその意味するところは重大であり、来年以降のユーロ・ドル急騰局面で、縁辺諸国のユーロ通貨同盟離脱のリスクが一層高まったといえるだろう。

そもそも第2次世界大戦の惨禍を繰り返すまいという決意でつくられたEUはそれ自体人類の英知の産物である。その理想は高く、理念は崇高である。

世界経済が順調に拡大する時代においてはこの人類の英知は、あたかも欧州をさらなる高みへ押し上げるもののように見えた。またその通貨同盟は多くの人々の賛同と称賛を浴びて、一時は準備通貨として米ドルをしのぐとも言われた。

2008年のリーマン・ショックで世界経済が明らかにデフレ時代に突入する中で、今まで隠されていたさまざまの問題点がクローズアップされたが、何よりもデフレに呻吟する中産階級の不満が蓄積しつつあった。

エリート階級が推し進めた人類の英知によるシステムに対する、中流、下層階級の反乱がBREXIT である。もちろん米国におけるトランプ現象もエリートに対する労働者の反乱という意味では同根である。これからの世界は米国を中心にさらにデフレが深化する方向にある。

人類の英知はますます現実世界から遊離して、反知性主義的なポピュリズムがはびこる時代を迎えている。その中で唯一の救いは、ここ30年間世界を席巻してきた新保守主義的な経済政策が明らかに敗北し、リベラルの方向に世の中が進もうとしていることである。

中流、下層階級の怒りや不満が政治に反映される時代になりつつあるということである。強欲経済からの脱却、貧富の格差の是正の方向に世の中は変わっていくだろう。

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