酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

IMM.の投機筋も、匙を投げたか?

2026/08/17

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先月末の協調介入後、ドル円は159円台まで戻したものの、シカゴ・IMMの投機筋はドル買いを再開せず、むしろ買い持ちを縮小。円キャリー・トレードの巻き戻しを示唆する動きなのか。介入と金利差縮小を背景に、円高への転換点が近づいているのか――今後のドル円相場を展望する。

先週のドル円相場は、週初こそ157円台の安値で始まったが、その後はドルを買い遅れた実需筋の買い意欲と、介入への警戒から概ね159円台の高値で安定して推移し、月曜日から金曜日までの終値が159.30、159.31、159.42、159.50、そして159.32と何と値幅たった20銭と言う珍しい展開を見せた。

注目の7月米国消費者物価指数は前月比+0.1%、前年比+3.4%、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアも前月比+0.2%、前年比+2.5%と市場予想と全く同じであったが、金曜日に発表になった7月小売売り上げ高が市場予想の+0.1%に対して9か月ぶりの減少となる-0.6%となり、前週の弱い雇用統計結果と相まって米国経済の弱さが更に浮き彫りとなり、9月のFOMC.での利上げ期待が更に後退することとなった。

それにしてはドル円相場の堅調ぶりが気になるところであるが、土曜日に発表された先週11日付のシカゴ・IMM.のポジションが大変興味深い物であった。

このレポートで毎週、投機筋の雄と言われるシカゴ・IMM.と、我が国個人投資家(投資家なのか、投機家なのかはよく分からないが….)のポジションをご紹介しているが、前者は順張りと言うトレンド・フォロー(相場が上がれば一緒に買い、下がれば一緒に売る手法。)を得意とし、後者は逆張りと言うカウンター・トレード(相場が上がれば売り向かい、下がれば買い向かう手法。)を得意とする。

ドル円相場は先月末の介入により163円台のHigh.から安値155.22迄急落し、流石のシカゴ・IMM.も8月4日付で前週の介入前の約125億ドルの買い持ちから一挙に約36億ドルへの買い持ちへとポジションを急減させたが、その後ドル円相場は159円台へと持ち直し、トレンド・フォローを得意とするシカゴ・IMM.は先週のレポートで、

-その後ドル円相場は158円台迄戻したが、順張りが得意な彼らが再び円を売り戻し(ドルを買い戻し)ているであろう事には驚かない。

と述べた様に、ドルの上昇に乗じて当然ドルを買い戻していると見たが、何と8月11日付けで少額ではあるが、ドルを更に3億ドル売ってドルの買い持ち額を約33億ドル迄に縮小している。

その間我が国個人投資家は、ドルが高い時(7月28日、163.85)はドルの売り持ち比率を上げ、ドルが下げた時(8月4日、157.74)にはドテンして買い持ち比率を上げ、再びドルが上昇した時(8月11日、159.31)には多少のドル売りを行って買い持ち比率を減らしてはいるものの、相変わらずドルの買い持ち比率が高い。(ドルの買い持ちポジションを保持している。)

7月28日変化8月4日変化8月11日変化
Chicago IMM.+125億ドル+8億ドル+36億ドル-89億ドル+33億ドル-3億ドル
我が国個人投資家
買い37%-5%64%+27%59%-5%
売り63%+5%36%-27%41%+5%
ドル円相場終値163.85+0.66157.74-6.11159.31+1.57

(外為どっとコム社のホーム・ページより参照。)

筆者が非常に興味を持ったのは、シカゴ・IMM.の行動である。

今までの彼らの得意とする取引手法では、157円台から159円台へと相場が戻す上げトレンドの時には、ドルを買う筈なのに、どうして今回は僅かとは言えドルを売って買い持ちポジションを減少させたのか?

これは全くの筆者の個人的所見であるが、もしかして円キャリー・トレードの巻き戻しの前兆ではあるまいか?

円キャリー・トレードとは、低金利の円を売って高金利通貨の債権(債券、株、預金etc.)を買うか、或いは高金利通貨の債務(借り入れなど)を通貨スワップなどを使って低金利の円建て債務に振り替えるもので、例えばであるが6%で借りた自国建て通貨の借金を1%の円建て借金に振り替えると言う物で、債務者は円の売り持ちポジションを持つことになる。

そして、その円キャリー・トレードの残高は全く謎とされる。

公的な統計は存在しないが、様々な金融機関が推計値を発表しており、JPモルガンは約4兆ドルと推定し、ロンドンの金融市場調査会社TS Lombardは約1.1兆ドルと推定している。

約20兆ドルと推定している欧州系の銀行も存在する。

途方もない金額であることは間違いない。(直近の円買い&ドル売り介入の合計額は凡そ24兆円前後と言われているが、これをドル換算すると約1500億ドルである。)

ざっと換算すると、此の介入額の10倍から30倍の潜在的な円買い&ドル売りが必要なポジションが存在すると言える。

そして、タイミングは分からないが、この巻き戻しは遅かれ早かれ、“必ず”起きる。

キャリー・トレードが上手く働く条件として、大きな金利差、低いボラティリティーが挙げられる。

ドル円に関して言えば依然として日米金利差は存在するが、間違い無く縮小傾向にある。

短期的なボラティリティーは高いとは言えないが、ゴールデン・ウィーク介入での160.70から155.05までの下落は3.5%の下落率で、今回の介入による163.80から157.20の下落は4%の下落率となる。

キャリー・トレードと言う物は、数日の間に3.5~4.0%も変動(元本の棄損)する事には中々耐え難いものだと思う。

ましてやドル円に関しては日銀が利上げをすることは殆どDone deal.(決まり事)であり、日米両政府が、“躊躇なく更なる円買い介入を行う用意が有る。”と言い切っているのである。

言い換えれば金利差はさらに縮まり、介入が有ればボラティリティーは急増する。

もしシカゴ・IMM.が、Don’t fight the Fed.(Fed.と闘うな。財務省と闘うな、と言い換えても良かろう。)と考えて円の売り持ち(ドルの買い持ち)ポジションの解消を図り、これが永年流行ってきた円キャリー・トレードの転換の兆しであれば、そのインパクトは強烈であろう。

その時は、円ベア(円にとって弱気派)が言うファンダメンタルズ(日米実質金利差、我が国の財政問題、Etc.)の議論は全く通用しない。

10円や20円の下落では収まらないかも知れない。

ベッセント財務長官が協調介入後に、“キャリー・トレードが完全に消失することはないと思う。”と突然キャリー・トレードに触れて奇異に感じたが、円キャリー・トレードの巻き戻しによる急激なドル安&円高の動きを警戒しての牽制と思うのは考え過ぎか?

いずれにせよ、シカゴ・IMM.を始めとする投機筋の円・ショートの巻き戻しと、円キャリー・トレードの巻き戻しの兆しの動きには注意したい。

(はっきり言って、シカゴ・IMM.のポジションなどは微々たるものだと思うのだが。)

今週のテクニカル分析

今週のテクニカル分析の見立ては158.00~161.00のレンジを予想。

今週のレンジ

ドル円:154.50~159.50
ユーロ円:181.00~186.00

酒匂隆雄

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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