酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

介入戦略の変更。

2026/07/06

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ドル円相場は一時162円台後半まで上昇したものの、FRB議長の発言や弱い米雇用統計を受けて160円台まで急反落した。市場では「為替介入」の警戒感が再び高まる中、財務省は従来の口先介入から"沈黙の介入戦略"へ転換した可能性も指摘されている。果たして次の一手は実弾介入となるのか――市場は日本当局の動向に注目している。

先週のドル円相場は、週初は先週からのドル上昇の流れを引き継いで高値162.83迄上昇したが、ウォーシュFRB.議長が、“インフレ期待とインフレ・リスクが低下している。”と発言したことを受けて米国の利上げ期待が後退したことと、ロイター通信が“日本政府は投機的な円安への介入姿勢そのものは崩していない。今後介入が行われる場合には、4月30日に行われたような強い警告は発出されない可能性がある。”との報道を受けて急落し、また木曜日に発表された6月米国雇用統計の非農業部門雇用者数が市場予想の+11.3万人を大きく下回る+5.7万人に留まったことと、5月の数字が+17.2万人から+12.9万人に下方修正されたこと受けて一時安値160.46を示現した。

ロイターの報道に関しては恐らく財務省高官が匿名を条件としてリークしたものと思われるが、余り違和感は感じない。

片山財務大臣は、

-為替対応で断固たる措置が含まれることは日米間で確認。

-足もとの為替動向に具体的なコメントしない。

-必要に応じていつでも適切に対応する。

と何時もと同じコメントを繰り返した。

また、介入の指揮官である三村財務官が久し振りに口を開いたが、

-何も申し上げるつもりはない。一切コメントは差し控える。

とつれなく、記者からの“4月30日に最後の退避勧告という言葉​で投機筋を牽制したが、この勧告‌は今⁠も続いているか?”との質問に対して、

-そのことも含めて、​何​も申⁠し上げるつもりはない。

-現在の​相場⁠水準に関しても、“財務官が足元⁠の相​場につい​て、評論めいたことを言うことはない。”と、凡そ我が国の為替責任者とは思えない発言をした。

先週のレポートで、介入方法として

1)当局があからさまに介入警戒感を煽る。

2)当局が全く素振りを見せないで突然、秘密裏に介入を行う。

3)当局が介入をチラつかせて市場に警戒感を産ませる。

をご紹介したが、どうやら今までの3)の方法から、2)の方法に介入戦略の変更を行った可能性が有る。

その効果は結構有り(抜群の効果とまでは言わないが)先週突然ドル円相場が急落する場面が何回か見られた。(下のチャートの赤い線。2日15時には162.33から161.09迄、同日21時には161.64から160.63迄、そして3日15時には161.16から160.46迄短時間で急落している。)

(7月に入ってからのドル円相場の1時間・ローソク足チャート。外為ドットコム社のホーム・ページより参照。)

ゴールデン・ウィーク中に、約40年ぶりの円安進行に対する牽制発言と共に11兆円を超えるドル売り&円買い介入を行ったが、結局相場が戻ってしまい、今度こそ円売りを仕掛ける投機筋に痛手を負わせる狙いも有って、介入戦略の変更を行ったと筆者は推察する。

日本政府は近く策定する経済財政運営の指針である“骨太の方針。”で、高市早苗政権が目指す“強い経済。”の実現に向け、“適切な金融政策運営が行われることも非常に重要である。”との文言を明記する方針だが、市場はこれは日銀に対し、政府の方向性に歩調を合わせることを求める、言い換えれば日本政府は日銀の利上げに対して難色を示していると理解している。

片や財務省が、“介入するから円売りをしては危ないよ。”と言いながら、政府が、“日銀には利上げさせないよ。”と言っている様であれば、上の3)である当局が介入をチラつかせて市場に警戒感を産ませる口先介入は余り効果は無い。

そこで、だんまりの2)に戦略変更したのであろうか?

はっきり言って高市内閣はこの行き過ぎた円安進行に対しての危機感を全く持ち合わせていない。

円安が日本経済にとってプラスとなると持っているのなら、思い違いも甚だしい。

大企業、特に製造業の多くは過去の円高局面に懲りて製造拠点を海外に移しており、円安のメリットは少ない。

物を作るための材料、エネルギーの殆どは輸入に頼っている。

中小企業の円安に対する悲鳴は深刻な物だ。

イギリス・トラス内閣は、鳴り物入りで大型減税計画を打ち出して市場の混乱を招いて債券市場とポンドが急落してたった44日で退陣を余儀なくされた。

我が国の長期金利(10年債利回り)は今や2.8%となった。

そして円相場は40年来と言う円安となった。

高市早苗よ、驕ることなかれ。

さて、戦略変更したであろう介入政策であるが、前回の介入時から比べると原油価格は下がり、また米国の利上げ機運が後退している今は、介入の効果は大きいであろう。

再来週14日に発表される米国6月のCPI.(消費者物価指数)の各社の事前予想は未だ出ていないが、原油価格下落の効果により、前月の前年比+4.2%から大きく増加幅を減らすと思われる。

筆者は利上げ期待が更に後退するであろうCPI.発表後が介入の絶好のチャンスと見る。

尚、先週金曜日がアメリカ・独立記念日で金融市場が休場だったことを受けてシカゴ・IMM.のポジションは発表されておらず、6月29日付けのポジションは不明であるが、162円台の高値を付ける前であり、大きな変化は無いと思われる。

我が国個人投資家のポジションは相変わらず、入手が出来ない状況が続いている。

今週のテクニカル分析

今週のテクニカル分析の見立てはドルの買い過ぎが解消されて再び160.00~163.00のレンジと見る。

今週のレンジ

ドル円:158.50~162.50
ユーロ円:181.00~186.00

酒匂隆雄

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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