トルコ・リラ債の注意点
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経済ジャーナリストの鈴木雅光氏が、高金利で人気を集めるトルコ・リラ建て債券の注意点を解説。過去の事例をもとに、為替リスクやコスト負担の実態を検証します。
この記事で分かること:トルコ・リラ債の仕組み/高金利とリスクの関係/投資判断で確認すべきポイント
先般、国内証券会社が、証券取引等監視委員会からの勧告により金融庁を通じて、トルコリラ建て債券の不適切販売について行政処分が行われるとの記事が掲載されました。記事の内容によると、一部の顧客に対して金利や為替レートに応じた価格下落などのリスクを十分説明することなく、投資勧誘を行ったということでした。不適切販売をされた顧客は少なくとも76人。販売金額は数百万円から数千万円規模とされています。
トルコ・リラ建て債券は、さまざまな外貨建て外債のなかでも相対的に金利が高く、日本が長年、ゼロ金利もしくはマイナス金利という超低金利局面だった時代に、かなりの規模で販売されたという経緯があります。

確かに、金利を見れば魅力的です。たとえば2026年6月15日時点で、償還まで約2年と1カ月の残存期間を持つ「アジア開発銀行トルコ・リラ建利付債」の表面利率は年27.50%であり、利回りにすると年38.251%にもなります。いくら日本で金利が生まれたからといっても、変動金利10年の個人向け国債で利率は年1.74%、固定金利5年だと年1.86%に過ぎませんから、38%超もの高い利回りを目の当たりにさせられたら、食指が動く人も一定数いるのだと思います。
しかしこの高金利は、高いリスクと引き換えにしたものであることを、ゆめゆめ忘れてはなりません。
では、実際にどのようなリスクがあるのかを整理してみましょう。
まず為替リスクです。トルコ・リラ建て債券である以上、その収益性は利子だけでなく、為替レートにも影響を受けます。したがって、トルコ・リラの対円レートが安くなるほど、保有債券には評価損が生じていきます。

古い事例で恐縮ですが、2016年8月16日に発行された世界銀行のトルコ・リラ建債券を事例に挙げてみます。この債券の利率は年7.80%、償還日は2020年8月17日でしたから、これを新規発行で購入し、償還まで保有した場合の期間は4年間です。ちなみに同債券の信用格付は、S&PでAAAという最上級格付けでした。なかには「AAA」の格付を見て、安心して購入した人もいたはずです。その債券が、償還を迎えた時にどうなったのかを計算してみましょう。
2016年8月のトルコ・リラ/円は1トルコ・リラ=35円前後でした。購入単位は5000トルコ・リラ以上ですから、仮に1万トルコ・リラ分を購入したとすると、当時の購入金額は1万トルコ・リラ×35円=35万円になります。
そして償還までの間に、1万トルコ・リラに対する7.80%の利子、つまり780トルコ・リラの利子が4年分受け取れます。つまり合計で3120トルコ・リラになります。

結果、4年後には1万3120トルコ・リラの元利合計額を受け取れるのですが、償還を迎えた2020年8月のトルコ・リラがいくらになったのかを見ると、1トルコ・リラ=14円35銭前後でした。1万3120トルコ・リラに14円35銭を掛けると、18万8272円です。購入額が35万円で、4年後に18万8272円しか戻ってこなかったのですから、投資としては失敗という結果になりました。
もちろん、これはあくまでも結果論です。2020年8月の償還に向けて、トルコ・リラの対円レートが、たとえば1トルコ・リラ=40円だったら、円建ての償還金額は52万4800円になるので、4年の運用期間としては満足できる結果だったでしょう。ただ、そうなるかどうかは誰にも分りませんし、現実には大きな損失を被ることになったのですから、投資する際には相応のリスクがあることを認識しておく必要があります。
ちなみに、「だとしたら、なぜS&PでAAAという最上級格付けを得ることができたの?」という疑問も出てきそうですが、S&Pの格付は、あくまでも債券の発行体が、償還を迎えるまでに元利金の返済が滞るリスクを示したもので、為替リスクは格付に考慮されていません。ここは勘違いしないようにしておきたいところです。
もうひとつ注意しておきたいのが、為替手数料です。トルコ・リラ債投資をする際には、手持ちの円をトルコ・リラに替えて買い付け、償還した時、もしくは途中で売却した時には、トルコ・リラを円に替えて元利金を受け取ります。この為替取引を行う際に手数料がかかり、金融機関によって異なりますが、1トルコ・リラにつき往復で0.40円ほどかかります。2026年6月時点のトルコ・リラ/円は1トルコ・リラ=3.50円前後なので、0.40円の為替手数料は、コスト率で11.43%にもなります。冒頭でも触れたように、直近で購入できるトルコ・リラ債の利回りが年38.251%といっても、このうち11.43%は為替手数料で持っていかれてしまうのです。
最近ではトルコ・リラ建てだけでなく、メキシコ・ペス建てやインド・ルピー建てといった高金利債券も販売されていますが、リスクは基本的に同じです。表面上の高金利に騙されることなく、しっかりどのようなリスクがあるのかを整理して、投資するかどうかを判断するようにして下さい。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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