こんなにまで酷いのか!今月売り出されたトランプ政権内幕本『FEAR(恐怖 ホワイトハウスのトランプ』を読見終えてあらためて愕然とした。ホワイトハウスの混乱ぶりは政権発足時から断片的に伝えられてきたが、その全体像をこれほど生々しく描かれたことはなかったからだ。発売初日に90万部を突破したというから並大抵の注目度ではない。
著者は、カール・バーンスタイン記者とともに、70年代のウォーターゲート事件の調査報道でニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポスト紙編集主幹のボブ・ウッドワード氏。ピュリッツァー賞に2度輝いている著名ジャーナリストである。
内容は、ツイッターなどで衝動的な言動と嘘八百を並べ立てるトランプ大統領と、それを必至で制御しようとする政権幹部とのせめぎ合いだ。現場を直接知る人物たちに何百時間も取材を重ね、ほとんどすべてのインタビューは録音されているというから、そんじょそこらの暴露本とは信憑性が違う。
本書から浮かび上がったトランプ氏の姿は想像以上に酷い。不動産取引の損得勘定以外に政治経済はもちろん軍事・外交も素人丸出し。だが専門家の言葉には耳を貸さない。学ぼうという意志もない。根拠のない持論を信じている。証拠があっても自分の非は絶対認めない。国民の利益より自分の利益とイメージを最優先。人権意識や道徳観は無い。儲からない貿易は悪。イラン・中国・北朝鮮は敵。反移民、反イスラム。相手に「恐怖」を与えることこそが最強の力だと信じている。
こんな人物が世界最強国家のリーダーに選ばれたてしまったのだから、周辺の閣僚や補佐官たちはたまったものではない。トランプ氏が世界貿易機関(WTO)や北米自由貿易協定(NAFTA)から離脱しようとしたとき、マティス国防長官を含む複数の政権幹部が必至で引き留めたという。大統領が米韓自由貿易協定を反故にしようとした際には、執務室のデスク上に置かれた必要書類を幹部がこっそり持ち去ったという。大統領自身はそのことに気づかなかったというからお粗末な話だが。
そんなトランプ氏にも恐怖を感じる人物がいるという。2016年大統領選へのロシア介入疑惑とトランプ氏の関係や同氏の司法妨害を捜査している元FBI長官ロバート・ムラー特別検察官だ。最近のCNN世論調査によれば、国民はトランプ大統領よりムラー検察官を圧倒的に支持しているという結果が出ている。捜査結果が出れば、トランプ大統領が窮地に追い込まれることは間違いない。
その先に待っているのは弾劾手続き。しかし、こちらは11月の中間選挙で民主党が大勝し世論がトランプ氏に愛想を尽かさない限り一筋縄ではいくまい。国会議員が選ぶ日本の総理大臣とは違い、国民から選ばれた米大統領には強大な権力が付与されているからだ。