世間の注目はもっぱら米中貿易戦争に集まっているが、これまでの米中関係の歴史を振り返れば、程なく収束するだろう。なぜなら両国には対ソ連略、アフガニスタン紛争、ベトナムのカンボジア侵攻などで秘密裏に協力してきた長き歴史があるからだ。
自国の諜報機関に不信感を露わにし、目前の中間選挙に勝つためにはなりふり構わないトランプ大統領が暴走することも考えられるが、決定的な米中衝突は起きないだろう。
なぜならトランプ氏の「アメリカファースト」政策が米国の弱体化に繋がることを中国政府は百も承知だからだ。追加関税措置が長引けば、中国本土で活動する米企業はダメージを受け、サプライチェーンも崩壊しかねない。
習近平主席の長期戦略はゆっくりと米国の影響力をそぎ落とし、自国の勢力圏を拡大して世界一の強国になることだ。軍事力が米国の3分の1しかない今はまだその時ではない。
じつは国際情勢で今いちばん危ないのは米国とイランの関係だ。米トランプ政権が本気でイランの政権転覆を画策している可能性があるからだ。
「世界の火薬庫」と呼ばれる中東での有事は、かつての石油ショックを観ればわかるように、遠く離れた私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼす。
5月にトランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄して以来、両国の関係は最悪状態。トランプ氏が先月、イランのロウハニ大統領に対して「二度とアメリカを脅迫するな。
さもなければ、史上まれに見るような結果に苦しむことになる」とツイッターで過激な脅し文句を発信すると、イランのザリフ外相がすぐさま「(そっちこそ)用心するがいい」と反撃。
イランの最高指導者ハメネイ師も米国との交渉を拒否すると明言している。事態は悪化の一途だ。
そもそもアメリカとイランはなぜ仲が悪いのか。その答えを知るには1950年代まで溯る必要がある。イランの石油は長く欧米企業に支配されていた。しかし、1951年の民主的選挙によってモサデク政権が誕生すると石油産業の国有化を宣言。
慌てた米英は53年にクーデターを仕掛け、パーレビ国王を担いで親米政権を樹立した。政権転覆を裏で主導したのは米中央情報局(CIA)だった。
だが結果は裏目に出た。宗教軽視のパーレビ国王に保守派が反発し、民主主義が蹂躙されたリベラル派は失望したからだ。それが1979年のイスラム革命を誘発し、米国を「大悪魔」と痛罵したホメイニ師を最高指導者とするイスラム原理主義政権が誕生した。
イランと国交を断絶した米国で2001年9月に同時多発テロが起きると、ブッシュ大統領がイランを「悪の枢軸」と名指しで批判。イランでは反米感情が一気に燃え上がった。
その後、1995年にオバマ米大統領が粘り強い交渉の末、米・英、仏、独、露、中の6カ国とイランの間でイラン核開発抑止合意を成立させ、事態は沈静化に向かったかに見えた。だが今年に入ってトランプ大統領が突然この合意を破棄。
CIA内部に「イラン作戦センター」が設立されたとの報道もある。果して米国は同じ過ちを繰り返すのか。11月の中間選挙の直前に「史上最強の制裁」としてトランプ政権はイラン産石油輸入停止を各国に要請する。
中東の火薬庫の導火線に火がつく可能性は確実に高まっている。