傍若無人なトランプ米大統領の襟元からだらしなく垂れ下がって床まで伸びているトレードマークの赤ネクタイの上に北朝鮮の独裁者金正恩が立っている。肩には小型ミサイルを担ぎ、トランプを睨みつけて脅しの言葉を吐いた。
「俺は危険で何をするかわからない男だぜ」
すると同じく大型のミサイルを担いだトランプが言い返した。
「俺もそうなんだ」
いかにもありそうな光景だが、もちろん本当にあった話ではない。トランプのネクタイがいくら長いといっても犬のリードのように床を引きずるほど長くはない。
じつは米国のネットメディア上で見つけた風刺漫画の一コマだ。長いネクタイはいわゆるレッドライン。つまりトランプの我慢の限界を示しているというわけだ。
じつに現実をうまくとらえた漫画である。金正恩とトランプは北朝鮮の核兵器開発問題を巡って相手の度胸を試すチキンゲームを続けている。頭の上を北の弾道ミサイルが飛び越えていった日本では、政府は明日にも核戦争が勃発するかのごとく危機感を煽っている。それはそうだろう。トランプの舎弟を気取る安倍首相にとっては防衛費増大とあわよくば憲法改正の絶好のチャンスだからだ。
急降下していた支持率もわずかながら上向いてきた。野党がボロボロのうちに総選挙をやろうなんて話まで出てきている。本当に危なかったら選挙どころではないはずだ。だらしないのはマスコミである。国民のための番犬であるはずのマスコミが事実を冷静に分析することもなく、一緒になって煽っているから国民は現実を見誤る。
考えてみてほしい。
崩壊する崩壊するといわれながら北朝鮮の三代にわたる金独裁政権が何十年も生き延びてこられたのはなぜか。それは国家の存続を最優先するしたたかな戦略を遂行してきたからに他ならない。ヒロシマ・ナガサキで核の破壊力と放射能の恐怖を経験した世界で、チキンゲームを続ければ結末は国家消滅、あるいは人類滅亡だということを金正恩は理解しているに違いない。
もちろん彼が何を考えているかは外部の誰にもわからない。政権内部の一次情報を入手するのが極めて困難だからだ。テレビ番組に物知り顔で出演している専門家も推測で話をしているに過ぎない。ただ、これまでの北朝鮮政権の言動をみれば、核武装が米国の奇襲攻撃阻止と国家存続の唯一の手段だと考えていることは間違いないだろう。
幸いなことに当事国である米国ではケリー首席補佐官、マクマスター大統領補佐官、マティス国防長官の3人の退役将校が過激な孤立主義者バノンとその一派をホワイトハウスから一掃し、なんの知識も経験もなく衝動で動くトランプの暴走を阻止している。中国(北朝鮮の唯一の軍事同盟国)もロシアも朝鮮半島の核化も戦争も望んでいない。米国の先制攻撃は断固阻止するとしながらも様々な手段で金正恩をけん制している。
北朝鮮が核武装しても戦争の危機は減るという説もある。なぜなら核兵器の破壊力と恐怖があまりにも強大なため、敵対する国々が報復を恐れて攻撃を躊躇するからだ。いわゆる核の抑止力である。北朝鮮の核開発を阻止することはすでに不可能だから北を核保有国と認めたうえで関係を正常化して危機を回避するというオプションも米国で考えられているという。
現在の核保有国はアメリカ(核弾頭数9,400)、ロシア(13,000)、イギリス(185)、フランス(300)、中国(240)の5大国に加えて核拡散防止条約を批准していないインド(60-80)、パキスタン(70-90)、北朝鮮(10程度)の3カ国。イスラエル(80)も核保有の疑いが強いので総数9カ国である。
これまで核戦争は一度も起きていない。