トランプ米大統領の外交音痴もここまで来たかと思わず椅子から転げ落ちそうになった。7月初めドイツ・ハンブルグで行われた20カ国・地域(G-20)首脳会議で注目を集めたトランプとロシアのプーチン大統領との初顔合わせのことである。
両者の間にはシリア、ウクライナ、北朝鮮問題や米大統領選挙介入疑惑といった重要かつ喫緊の課題が山積している。当初は30分程度と考えてられていた会談は2時間15分にも及んだ。いったい何が話されたのか興味津々。
しばらくしてさらに重大なことが明るみになった。なんと報道された首脳会談後にふたりだけでこっそりと1時間も話し合っていたというのだ。それだけではない。同席したのはロシア側の通訳だけだったという。つまり米国側にはなんの記録も残らなかったことになる。トランプはよっぽどプーチン以外には聞かれたくない話をしたのだろう。
怪しげな不動産取引ならともかく、首脳会談という重要の外交交渉の場では前例のない事態だ。秘密会談のニュースが流れた後、ホワイトハウスはそのような会談が行われたことを認めたが、トランプ本人は例によってフェイクニュース(根拠のない作り話)で「吐き気をもよおす」と言って否定している。彼にとっては都合の悪い話はすべてフェイクニュースなのだ。
会談の内容は公開されていないが、ロシアによる米大統領選挙介入疑惑に関して米国民には知られたくない話し合いが行われたのは間違いないだろう。しかしそれは外交では相手に弱みを握られたことに他ならない。馬鹿につける薬はないとはよく言ったものだ。
正式の首脳会談でもじゅうぶん驚きはあった。
日本メディアの報道は総じて「シリアに安全地帯設置で合意、対北朝鮮では相違も」という無難な伝え方だったが、米国での評価は「大統領は決意を示した」から「ロシアの罠に落ちた」まで大きく分かれた。おそらく後者が現実に近いだろう。なぜなら元工作員で外交交渉は百戦錬磨のプーチン氏が自分が欲しいと思っていた3つのものをトランプ氏からすべて手に入れたからである。その3つとは尊敬、同志愛、無批判だ。
つまりロシアは中東で主導権を握り、ウクライナ軍事侵攻やロシア国内での人権弾圧に対する米国の批判を封じこめたわけである。
しかしそれ以上に世界を驚かせたことがある。「プーチンと私は選挙介入などの悪事を監視するため強固なサイバーセキュリティ組織結成することを話し合った」というトランプ大統領お得意のツィートである。
これにはさすがに身内である共和党の議員からも批判が相次いだ。米大統領選挙介入疑惑でサイバー攻撃の張本人と名指しされている敵性国家ロシアとサイバーセキュリティで協力するなど「狐に鶏の番」をさせるようなものである。何度も言うが馬鹿につける薬はない。
世の中はいよいよ米国抜きの時代に突入した感がある。モスクワの土産物店ではプーチン大統領が赤ちゃんを抱いている絵が売られているそうだ。よく見ると赤ちゃんの顔はトランプ大統領だという。今や世界にとっても米国大統領はその程度の存在でしかない。