米国はジョークの国である。講演会でもパーティーでもまず気の利いたジョークを言わないことには始まらない。
私も米国・カナダで講演をしたときにはまずジョークをいくつも暗記した。
なかでも政治ジョークは辛辣。
かつてレーガン大統領が狙撃され、運び込まれた病院の医師団に「君たちは共和党員だろうな」と言ったというエピソードがあるくらいである。
お馬鹿で知られたジョージ・W・ブッシュ大統領に至っては、英国で子供にホワイトハウスはどんなところと尋ねられて「白いよ」と答えている。
さらにはアフリカを国と間違いたり、来日した際には「日本とアメリカは150年間に渡って良好な同盟関係を続けている」と発言して失笑を買った。太平洋戦争のことはすっかり忘れてしまったらしい。
あまりに意味不明の言動が多かったのでそれを集めた『ブッシズム』という本がベストセラーになったくらいだ。
そんなおバカな男が石油会社社長、メジャーリーグのオーナー、そしてテキサス州知事を経て、2001年に第43代大統領ジョージ・W・ブッシュ大統領に選ばれている。
考えてみれば、ドナルド・トランプが大統領になっても驚くにはあたらないお国柄なのだ。
政治ジョークで出色なのは米NBCで1975年から放送され続けている深夜90分のコメディバラエティ番組『サタディー・ナイト・ライブ(SNL)』。
若い頃からチャンスがあるたびにずっと観つづけてきたが、まさに捧腹絶倒である。番組の一番の見せ場は米大統領や内外の政治家のパロディや揶揄・政治風刺である。
トランプという面白大統領が誕生したお陰で、低迷していたSNLの視聴率はうなぎ上り。そりゃそうだろう。なにしろ笑いものにするには最適の人物である。
そこに上半身裸のロシアのプーチン大統領を添えれば向かうところ敵なしだ。俳優でコメディアンでもあるアレック・ボールドウィンのトランプ大統領のモノマネは他の追従を許さない。
そこへいよいよ娘のイバンカ・トランプが登場した。といってももちろん本人ではない。なんとあの有名女優スカーレット・ヨハンソンがイバンカの役を演じているのだ。
虚栄の社交パーティーを笑顔ですり抜けるイバンカ。流れるナレーションは「彼女は自分の欲しいものが分かっている。自分が何をしたいのかも知っている」
知的でビジネスでも優等生の彼女の役割はおバカな父親の暴走を止めること。と思いきや洗面所で口紅をつけている彼女の前の鏡に映っているのはトランプ大統領の顔。そこで高級香水の瓶が現れる。
そのブランド名は「Complicit(共謀者)」。
化粧品のCMのパロディを使ってイバンカの正体を暴いているのだ。なんともどぎつく、しかしお洒落な出来栄えではないか。映像を観ながら思わず拍手を送ってしまった。
さすが言論の自由の国である。極右のラジオ局もあれば、こんな政治家などの風刺も許される。
それに比べて我が国の言論空間はあまりにも息苦しい。唯我独尊で大統領を気取る総理とそれに尻尾を振ってついていくメディアによって。民主主義の根幹である表現の自由、報道の自由が脅かされている。
一方的な報道が巷にあふれるから人々はそれが事実だと勘違いしてしまう。いっそ理不尽で腐敗した権力を笑い飛ばしてしまうエネルギーが必要だ。
SNLが今一番必要なのは日本なのだ。心あるテレビ局のみなさん、一緒に日本版サタディー・ナイト・ライブをやりませんか。