明けても暮れても左を見ても右をみても傍若無人な不動産王ドナルド・トランプ氏のニュースばかりである。
北朝鮮工作員による金正男暗殺のニュースもあったがカネと権力を巡っての内輪もめスキャンダルだからすぐに消えてしまう。
トランプ氏はそうはいかない。
れっきとした米大統領だからだ。その自由主義圏のリーダーが「国家を守るためならなんでもやっていい」と言い放って、民主主義の根幹である自由と人権を脅かす大統領令を連発している。
今後もその一挙手一投足を注視していく必要がある。
だが、世界経済大混乱に繋がりかねないリスクの火種は実は別のところにもあることを忘れてはいけない。
それは欧州だ。欧州連合(EU)、特にユーロ圏内の経済格差や失業率の高止まりは域内に深刻な亀裂を生んでいる。
それだけではない。中東から大量に流れ込む移民や難民に対する反感も日増しに広がり、テロの恐怖とも隣り合わせの日々だ。
欧州では重要な選挙が目白押しで、今年はさらに深刻化し政治的な混乱が避けられないだろう。
それはとりもなおさず世界経済に大きな影響をあたえる。
まず3月のオランダ総選挙。寛容な国民性であるはずのオランダで、なんと反移民・反イスラム・反EUを掲げたヘルト・ウィルダース党首率いる極右政党「自由党」が世論調査でリードを保っている。
しかも人種差別を煽ったとして昨年末有罪判決を受けた人物である。
そんな人物が今やマリーヌ・ル・ペン氏率いるフランスの極右「国民戦線(FN)」やドイツの新興右派勢力「ドイツのための選択肢(AfD)」とともに欧州の勢力急拡大中の極右勢力の一翼を担っている。
トランプの自国第一主義が彼らを一層勢いつかせており、すでに脆弱な欧州連合の結束を脅かすことは間違いない。
フランス大統領選は4月下旬から5月上旬に、そして9月にはドイツ連邦議会選挙が行われる。EU統合の要である両国で極右勢力の台頭を許せばEUや共通通貨ユーロ崩壊というシナリオも視野に入ってくる。
もしそれが現実となれば世界経済は大混乱に陥るだろう。
何といっても要注意はフランスの大統領選だ。いままで過激な発言でフランス政界の異端だったル・ペン氏が急速に支持層を広げている。
その主張は自国の国益最優先、国防強化、反イスラム、移民排斥など、米国のトランプ大統領と瓜二つなのだ。
大統領に選ばれたらまずEU残留か離脱かを問う国民投票を実施するとしている。
最新の世論調査では、中道・無党派のエマニュエル・マクロン前経済相とル・ペン党首の一騎打ちになる公算が高い。
決戦投票ではマクロン候補がル・ペン氏を破るとみられている。しかし選挙は水物。蓋を開けてみるまで分からない。
昨年6月の英国EU離脱や11月の米大統領選挙の結果を鑑みると、ル・ペン候補が絶対に当選しないとは言い切れない。フランスでも既成政党に対する国民の信頼が失墜しているからである。
トランプ政権は世界に不安と不信をばらまいているが、欧州右傾化の連鎖も世界経済にとって今そこにある危機なのだ。