蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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父の遺産と錬金術

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景気が悪くなると、テレビ局がこぞって放送し始める番組がある。それはクイズ番組だ。ドラマなどと比べ製作費が格段に安く、その割に高い視聴率が取れるからだ。それでは、このコラムでもひとつクイズに挑戦していただこう。

「原子番号79、元素記号Au、1グラムあれば1平方メートルまで薄く延ばすことが出来るものは何でしょう?」

正解はゴールド(金)である。

有史以来、金はもっとも価値のある金属として装飾品や通貨、投資の対象として使われてきた。じつは、70歳で他界した私の父も定年退職の際に私と弟に金の延板を1枚ずつプレゼントしてくれたことがある。決して大きなものではなかったが、父なりに大幅な値上がりを予測していたのだろう。ところがそれから金価格は急降下。私も弟も父の“投資勘”の悪さを嘆いた。

ところが最近になって金価格が再び上昇し始め、なんと史上最高値をつけたではないか。背景にはリーマンショックやギリシャ経済危機、中国やインドの旺盛な金需要、弱いドル、テロや政治的緊張に対する世界的な不安などがあるという。通貨不安のときは金など現物にマネーの流れがシフトするというのが経済の常識である。

現実には誰かが高値を掴まされて貧乏くじを引くのが世の常だが、それにしても人類は昔から金の輝きに目を奪われ続けてきた。その証拠に、古代エジプトのヒエログリフにはすでに金についての記述がある。金本位制はずいぶん前に崩壊したが、今なお各国の中央銀行が支払い準備金として金を貯め込んでいることは金の揺ぎない価値を象徴している。日本でも以前はずいぶん産出したが、江戸時代以降は国内のほとんどの金山が掘りつくされてしまった。金は今や希少金属なのである。

それならば密かに金を製造してひと儲けしようという怪しげな連中も現れたが、未だに誰も成功していない。じつは、金は人口的に生成できる。金より原子番号のひとつ大きい水銀にガンマ線を照射すると原子核が崩壊して水銀が金に変るからだ。ただし、とてつもなく長い年月と膨大な資金がかかり、とても採算が取れない。というわけで、「金は輝き続ける」と信じて私は父の残してくれた金の延板を持ち続けるつもりである。(終)

 

 

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