個人向け国債をNISAの対象に?
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経済ジャーナリストの鈴木雅光氏が、長期金利の上昇で注目を集める個人向け国債について解説。NISAの対象にする案をめぐり、銀行預金からの資金シフトや「貯蓄から投資へ」というNISA本来の目的との関係を検証します。
この記事で分かること:個人向け国債の仕組み/NISA対象化の背景/銀行預金やNISAへの影響/制度導入をめぐる論点

8月31日の東京債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが2.950%に上昇しました。この水準は1996年9月以来、約30年ぶりの水準となります。
「金利も上がってきたし、固定金利型で住宅ローンを組もう」と考えている人からすれば、長期金利がさらに上昇すると、自分たちが住宅ローンを組むタイミングによっては、より高い金利を長期にわたって負担することになりますし、長期金利の上昇にともなって短期金利まで上昇したら、すでに変動金利型の住宅ローンを組んでいる人は、返済負担が重くなります。住宅ローンに限らず、お金を借りたい人にとって、金利上昇は歓迎できるものではありません。
一方、お金を運用する側からすれば、金利収入の増加につながります。銀行の預金利率はまだそれほど高くありませんが、このところの金利上昇で注目されているのが、「個人向け国債」です。
個人向け国債には、変動金利型といって半年に1度、適用利率が見直される10年物と、購入時の利率が償還時まで適用される固定金利型の5年物と3年物という、3つのタイプがあります。特に今は、金利上昇局面ということで、10年物変動金利型の個人向け国債が人気を集めています。
その個人向け国債をNISAの対象にするという話が持ち上がってきました。財務省と金融庁が、2027年度税制改正要綱に盛り込むということですが、果たしてNISAの対象に個人向け国債を含めることが正しいことかどうかは、議論が必要なところです。
そもそもNISAが誕生し、さらに2024年1月から非課税限度額の引き上げや非課税期間の恒久化が図られたのは、「貯蓄から投資へ」の動きを加速させ、国内企業にリスクマネーを供給することで日本経済の活性化をはかるという大義名分があったからです。

その観点からすると、個人向け国債をNISAの対象に入れるのは、「ちょっと違うんじゃないの?」と気がします。
また、銀行にとっても良い話ではありません。今、銀行の株価が大きく上昇しているのは、預金利率と貸出金利の利ザヤが拡大して、銀行の収益が拡大しているからです。市場金利の上昇にともない、銀行は貸出金利を即座に引き上げる一方、預金利率の引き上げはそれに遅行します。結果、金利上昇局面においては銀行の預貸利ザヤが拡大し、収益性の向上につながるのです。
ところが個人向け国債がNISAの対象となり、利息が非課税対象になったとしたら、どうなるでしょうか。

恐らく、銀行預金から個人向け国債への急激な資金シフトが起こるでしょう。現時点において、10年物変動金利型個人向け国債の利率は年1.87%ですが、メガバンクの定期預金利率は10年物で年1.25%前後です。
しかも、銀行の定期預金は基本的に固定金利なので、今後、金利上昇が続くなかでは、半年おきに適用利率が見直される変動金利型の個人向け国債の方が、収益面で有利になります。そのうえNISAの対象になったら、その利子自体が非課税の対象になるのですから、どちらを選ぶかは火を見るよりも明らかです。
制度導入の大義名分にそぐわないという誹りを受ける恐れがあり、かつ銀行からの資金シフトを促すかも知れないのに、それでも個人向け国債をNISAの対象にするとしたら、それはどういう理由があるのかを勘繰りたくもなります。
国債の新規発行額を見ると、2020年を境にして水準が上がっています。これは、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう経済対策で、多額の資金が必要になったからです。それから6年が経過していますが、新規発行額は相変わらず高水準で推移しています。
一方、国債を保有する側の動きですが、2012年以降、量的金融緩和などによって長期国債を買い入れてきた日本銀行が、2024年夏以降、徐々に長期国債の買入額を減額してきています。
資金循環統計に記載されている「国債・財投債」の部門別保有比率を見ると、2023年9月末には53.86%まで上昇していた日本銀行の保有比率が、2026年3月末には47.88%まで低下しています。ちなみに他の部門の保有比率がどう変化したのかを、同じ期間で見てみると、
取扱金融機関・・・・・・10.58%→13.15%
保険・年金基金・・・・・・21.51%→18.44%
公的年金・・・・・・4.87%→7.24%
家計・・・・・・1.23%→1.98%
海外・・・・・・5.57%→8.09%
その他・・・・・・2.38%→3.21%
上記の数字を比較しても分かるように、家計で国債を直接保有している人の割合は、他の部門に比べてはるかに低い状態です。つまり、それだけ伸びしろがあると考えられているのでしょう。個人向け国債をNISAの対象に入れたら、家計の国債保有比率は、かなりの水準まで上昇する可能性があります。
ただ、それがNISAの主旨から考えた時、妥当なものなのかどうなのか。ここは導入を進めようとしている財務省・金融庁からの説明を待ちたいところです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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