鈴木雅光の「奔放自在」

下落続くJ-REIT市場

2024/03/22

過去最高値を更新した後、やや調整局面に入っているものの、日経平均株価は一時期、4万円の大台に乗せた。一方、TOPIX(東証株価指数)は、この原稿を書いている3月18日時点で、バブル期の過去最高値更新には一歩及ばずのところではありますが、それでも堅調に値上がりしてきています。

ところが、株式市場全般が好調に推移しているにも関わらず、低迷続きなのがJ-REIT市場です。

東証REIT指数の値動きを追うと、2020年3月19日のコロナショックで1138.04ポイントまで急落しました。その直前の高値が2019年10月23日につけた2262.32ポイントだったので、下落率は49.70%にも達しています。これは暴落といっても良いでしょう。

その後、各国中央銀行の超金融緩和政策によって、各国とも株価は順調に回復しました。東証REIT指数も例外ではなく、2021年7月13日には2200.02ポイントまで回復しました。

しかし、堅調だったのはそこまでで、以来、東証REIT指数は下降トレンドをたどり、2024年3月13日には1657.57ポイントまで下落しました。コロナ後高値からの下落率は24.66%にもなります。

J-REITの下落要因は複数考えられます。

第一に、投資家の目が株式に向いていることです。2023年中、国内株式市場は東証改革の影響もあり、バリュー株を中心に順調な値上がりを続けてきました。J-REITは「不動産投資信託」といって、表面的には投資信託の装いをしていますが、株式の株券に相当する投資口は株式市場に上場されており、他の株式と同様に売買されます。つまり投資家の目からすれば、株式の他の銘柄との相対比較によって、J-REITに投資するかどうかを判断されるものであるため、バリュー株を中心に株式への投資意欲が強い状況下では、J-REITに対する関心度合いが薄れるのも仕方のないところです。

第二は、オフィス不況の問題です。米国ほどではないものの、働き方の変化により先行き、オフィス需要の低下が懸念されています。三鬼商事が発表しているオフィスマーケットのデータによると、2021年7月のオフィス空室率は平均6.28%、平均賃料は2万1045円だったのが、2024年2月はオフィス空室率が平均5.86%で、平均賃料が1万9776円です。

確かに空室率は低下していますが、それでもオフィス需要が堅調だった2019年時点では、1%台でしたから、低下しているというよりも、高止まりの方がイメージに合うでしょう。そのうえで、平均賃料が低下しているのですから、オフィスに対する見方が厳しくなるのも当然です。結果、オフィスを中心に組み入れるJ-REITを中心に、相場が低迷しました。

そして第三の理由ですが、新NISAの影響です。

NISAの成長投資枠を用いれば、J-REITに投資でき、その値上がり益や分配金は非課税扱いになります。これは、高い分配金利回りを出しているJ-REITにとって有利な話であり、J-REIT人気に火が着いてもおかしくないのですが、これが実はJ-REITの価格下落要因として、かなり大きな部分を占めているのではと考えられるのです。

J-REITへの投資方法は2つあります。ひとつは東証に上場されているJ-REITを直接購入する方法です。現在、東証には58のJ-REITが上場されていて、ここから数銘柄を選んで投資するわけですが、そのためには銘柄を選ぶ必要があります。

これに対して、さまざまなJ-REITをひとまとめにした投資信託を通じて、間接的にJ-REITに投資するという方法もあります。投資信託なら少額資金で購入できますし、何よりもさまざまな銘柄に分散したポートフォリオで運用しますから、いちいち銘柄を自分で調べて選ぶ必要がありません。

では、この2つの方法のうち、どちらがJ-REITマーケットにおける主流なのかというと、圧倒的に後者です。

いささか古いデータで恐縮ですが、J-REITの投資部門別保有比率を見ると、一目瞭然です。2023年8月時点のデータを見ると、以下のようになります。

・政府・地方公共団体=0.0%
・都銀・地銀等=4.6%・・・・・・①
・信託銀行=45.2%・・・・・・②

・①+②のうち投資信託=35.7%
・①+②のうち年金信託=0.6%

・生命保険会社=1.5%
・損害保険会社=0.1%
・その他の金融機関=4.6%
・証券会社=4.2%
・事業法人等=8.6%
・外国法人等=23.7%
・個人その他=7.5%

投資信託や年金信託は、信託銀行をカストディ(※)としてJ-REITに投資するという流れになるので、信託銀行の保有比率である45.2%のうち36.3%は、投資信託と年金信託によって占められているものと考えられます。つまり信託銀行が自己勘定を通じて保有している比率は、それらの数字の差し引きによる8.9%程度と考えられます。

そうなると、圧倒的にJ-REITを保有しているのは、投資信託ということになります。対して、個人の保有比率はわずか7.5%ですから、多くの個人は投資信託を通じて、J-REITに投資しているのです。

では、そのこととJ-REITの価格下落にどういう関係があるのでしょうか。

全部が全部ではないにしても、J-REITを組み入れて運用している投資信託の多くは、毎月決算を行い、その都度、分配金を出す「毎月分配型投資信託」です。そして、毎月分配型投資信託は、「長期資産形成に不適格な商品性」とみなされており、成長投資枠やつみたて投資枠で購入できない決まりになっているのです。

そのため、この手のタイプの投資信託を保有していた人たちは、基準価額の値上がり益と分配金が非課税になるという、NISAのメリットを享受できなくなります。それを嫌気して、投資信託を保有している個人が解約に動けば、投資信託会社は保有しているJ-REITを市場で売却し、解約資金をつくらなければなりません。

2023年を通じて、投資信託の売買動向がどうなったのかを金額ベースで見ると、以下の通りです。2024年は2月までの動向です。

2023年の投資信託の売買動向

金額動向
01月89億7221万5000円買い越し
02月344億1676万3000円買い越し
03月287億103万8000円売り越し
04月159億3849万5000円買い越し
05月41億6954万3000円買い越し
06月72億8507万3000円買い越し
07月50億8619万5000円売り越し
08月179億9126万4000円売り越し
09月236億8328万9000円売り越し
10月176億7865万円売り越し
11月25億7373万1000円売り越し
12月151億1615万3000円売り越し

2024年の投資信託の売買動向

金額動向
01月62億5334万5000円売り越し
02月64億4915万円売り越し

上記のように、2023年7月以降は一貫して売り越し基調が続いています。

2024年2月末時点で、J-REITを組み入れて運用されている投資信託の本数156本で、純資産残高の総額は4兆3823億7500万円にもなります。この全額が解約されるとは思えませんが、目先、投資信託の解約に伴うJ-REIT市場の売り圧力は、しばらく続きそうです。

※カストディ:機関投資家の代理人として、有価証券の保管・管理等を行う業務を総称していう

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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