酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年7月号

2023/07/03

円安トレンドが止まらない!金利差拡大で投資家の注目が高まる中、一体どこまで下がるのか?世界経済の変動や中央銀行の動向から、円安の理由と今後の見通しまで解説します。経済への影響や投資への示唆もご紹介します。円安トレンドを読み解き、未来を見据えるために、ぜひご一読ください。

円安の進行が止まらない。

最大の理由は世界各国の中央銀行がインフレ抑制を目的として利上げを進める中、我が国の中央銀行である日銀は“2%の物価目標をはっきりと達成出来ると確信するまでは現在の緩和政策を続ける。”と言い続けていて、他国と我が国の金利差が拡大傾向にあるからである。

投資家は金利の低い円を売って、金利の高い通貨を買うと言う投資行動に出ており、必然的に円安が進む。

6月30日時点で、各国の政策金利は以下の通りでその大きな金利差は歴然である。

国名政策金利
日本-0.10%
アメリカ5.25%
欧州4.00%
英国5.00%
オーストラリア4.10%

アメリカは先月のFOMC(公開市場委員会)に於いて昨年3月から続けて来た利上げを一旦据え置いたが、今月25日~26日に開催される次回のFOMCで再び0.25%の利上げが行われることが確実視されている。

欧州の中央銀行であるECBのラガルド総裁は、欧州も物価対策の為に更なる利上げを躊躇しないと言い切っており、此方も益々金利差拡大の傾向にある。

これを受けて円は殆どの通貨に対して売られ、正に円の独歩安の感が有る。

先月初と月末の為替相場のニューヨーク市場の終値を比べてみると、以下の通りである。

6月1日6月30日変化
ドル円138.81144.29+3.95%
ユーロ円149.37157.43+5.40%
ポンド円173.85183.16+5.36%
豪ドル円91.2296.09+5.34%

6月30日のドル・円相場の終値は144.29であるが、同日午前中の東京市場で一瞬145円の大台を超えて高値145.07を付ける場面が有ったが、当局によるドル売り&円買い介入への警戒感が高まって、145円台は長続きせずに144円台に戻って週を終えた。

市場が介入を警戒する理由は昨年145円を超えたところで当局が介入に踏み切っており、再び同じレベルでの介入再開を警戒するのは当然と言えよう。

当局は昨年9月に2兆8382億円(凡そ196億ドル)、そして10月に6兆3499億円(凡そ423億ドル)の円買い&ドル売り介入を行っており、ドル・円相場は10月21日に高値151.94を付けた後、介入の効果もあってか今年1月16日には127.23迄ドルが下げたことは未だ記憶に新しい。

何故介入が出るかと言うと、為替相場が政府の望む水準を逸脱するか、或いは逸脱しそうになる前に一方的に市場に介入してドルが更に下げそうであれば引き上げようとし、逆にドルが上げそうであれば引き下げようとするのである。

今回は後者に当たる。

円高(ドル安)と円安(ドル高)には各々メリット(良い点)とデメリット(悪い点)が存在する。円高(ドル安)のメリットは輸入物価を下げ、全般的な消費者物価指数(CPI)を下げる。デメリットは円高により輸出競争力が弱まり貿易収支が悪化する。

我が国は過去には圧倒的にドル買い&円売り介入が多かった。理由はドルの下落(円の上昇)は我が国の輸出競争力を削ぐ為にそれを阻止しようとしたのである。その頃は、我が国は未だ輸出が輸入より多い、所謂『輸出立国』で、何としても円高を阻止しなくてはならなかった。

円安(ドル高)のメリットは円高(ドル安)の逆で円安により輸出競争力が強まり貿易収支が改善する。デメリットは輸入物価を上げ、全般的な消費者物価指数(CPI)を押し上げる。

昨今の身の回りの物価上昇には目を見張るものがある。

何故我が国の政府が昨年一段のドル高&円安を阻止する為の介入を行ったかと言うと上の円安(ドル高)のデメリットを阻止しようとした訳で、国民にとって不人気な急激な物価上昇を抑える意図と、自国通貨の下落=国力の低下を意識したものと思われる。

現在、我が国は輸入が輸出を上回って貿易収支は赤字であり、輸出立国から輸入国へ転じた。円安になると外貨の支払額が増えるので困るのだ。

日銀は更なる物価上昇を望んでいる(理解に苦しむが..)が、我々一般庶民はこんな急ピッチの物価上昇は受け入れられない。円安になると物価が上がるので困るのだ。

何時、どのレベルで実弾介入が出るかは分からないが、昨今の鈴木財務相の

-為替相場はファンダメンタルズ(経済的基礎要因)を反映すべきだ。
-為替相場の動きを注視している。

とか、介入指揮者である財務省・神田財務官の

-昨今の為替相場の動きは一方的過ぎる。(言い換えれば円安の進行が速過ぎる。)
-あらゆるオプションを駆使して為替相場の安定を図る。

などの発言を聞くと、大分煮詰まってきている(介入の可能性が高まっている。)と感じがする。

現在の円安の最大要因が各国と我が国の金利差に起因しているのであれば、それが縮まらない限り円高への反転は難しいと思われるが、介入で一時的に一方的な円安進行が遅れればそれで良いのではなかろうか?

放っておけば市場が再び150円、そして次は155円を狙うのであれば、介入で現状のレベルを下げておけばそれらの高いレベルへ達する前の時間稼ぎが出来るし、ロケットの発射台を下げる様なものだ。

何れ各国は現状の利上げモードから、利上げ停止、そして利下げへと金融政策の舵取りの変更を行う。

そして我が国は現状の頑なな緩和モードからイールド・カーブ・コントロールの見直し、そして利上げへと舵取りの変更を行う。

その時は現在の円安トレンドが劇的に円高トレンドに変わることが予想され、介入でそれまでの時間稼ぎをすれば良いだけの事。

昨今の国内の物価高や海外に出掛けた時の円安の弊害を見る(まあ円に換算した時の値段の高さに驚く。)につけ、我々一般人にはドル安&円高の方がメリットが大きいと心得る。

円安進行を遅らせる、或いは阻止しようとする介入は大歓迎である。

今月は先ずは145円の大台での攻防が見ものである。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。

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