若林栄四のフライングバックジャパン

若林栄四Flying Back Japan! 035

2020/12/18

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による景気低迷が懸念されるなか、各国中央銀行は積極的な金融緩和を行い、株価は米国をはじめとして過去最高値を更新してきました。
いよいよ2021年、マーケットはどうなるのでしょうか。ワカバヤシFXアソシエイツ代表の若林栄四氏に、今後の動向を伺いました。

世界的にコロナ禍の中、株価は回復。なぜか?

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新型コロナウイルスの感染拡大で世界中の経済がスローダウンを余儀なくされた2020年でしたが、株価は堅調に回復しました。これはどういうことなのでしょうか。

若林

世の中はワクチン開発が進んで、米国経済はV字回復するといったムードが広がっています。NYダウは3万ドルに乗せ、次は4万ドルだという声も聞こえてきました。

しかし、米国株式のPERは100年間で2、3回しかない水準まで上昇していますし、シラー指数(※1)は1929年の大恐慌前のバブルと並ぶ水準に達しています。これで何も起こらないはずがありません。明らかに今の米国株は行き過ぎです。

若林

先ほど申し上げたように、ワクチン開発で米国経済が回復するという意見に加え、米国株がさらに上昇すると言っている人たちの根拠は、8兆円にもなるFED(※2)の資金供給があります。マネーがジャブジャブになっているので、行き場を失ったマネーが株式市場に流れてきて株高になるというロジックですが、マネーがジャブジャブになったからといって株価は上がるものなのでしょうか。

たとえば米国のGDPはほぼ20兆ドルですが、米国株式市場の時価総額は40兆ドルにも達しています。明らかに行き過ぎでしょう。

若林

アマゾン・ドット・コムは新型コロナウイルスの感染拡大を材料にして、PERが90倍になるところまで買われました。でも冷静に考えると、これからワクチンの開発が進んだ時、当然のことですが巣籠しなくて済むようになるはずで、そうなった時、巣籠を材料にして買われてきたアマゾンをはじめとするGAFA銘柄の株価は、どうなるのでしょうか。

FEDの金融緩和だって無尽蔵に資金を供給し続けるわけではありません。ワクチンが開発されれば徐々に金融引き締めに転じるでしょう。そうなった時、株価は下落に転じます

――

米国株が下落に転じるということですが、いつ、どのくらいまで下げると見ればいいですか。

若林

そもそも米国は1%の人間が、米国の富の50~60%を持つという、異常なまでの富の格差がある国です。資本主義なので多少の格差はあって当たり前ですが、これは異常です。

では、こうした一部の富裕層はなぜここまで富を膨らませることが出来たのかというと、株です。保有している株価が大きく値上がりしたため、富がどんどん膨らんでいるのです。

したがってフェアな感覚で言えば、株価はどこかの段階で暴落するはずです。

すでにその入り口に差し掛かっているのかも知れません。米国の株価は12月9日にすべて最高値をつけた後、大きく下げました。たとえばNYダウは3万319ドルを付けた後、2万7511ドルの安値を付けています。

今の日柄は1929年9月3日にNYダウが高値を付けてから91年目に当たります。9月3日がそうだったのですが、今はちょうどそこから1四半期が経過したところにあります。91年は364四半期で、12月4日に1四半期が経過したのですから、365四半期に入りました。ですから、12月9日につけた高値が365四半期の天井を形成する可能性があります。

365四半期を遡った1929年9月3日の天井では、その後、株価は90%も調整しました。それと同じことが起こらないとも限らないのです。これから2、3年間で、米国の株価は80%から90%程度、調整することも考えられます。

――

そうなると2021年の米国株価は大暴落ということですか。

若林

場合によっては年明けあたりから下げ始めるのではないでしょうか。とはいえ一直線に下げるということはないので、恐らく年明けに下げたところで多くの投資家が絶好の買い場と思って買いを入れてきますから、そこで一旦、下げ止まります。

しかし、すでに株価は暴落コースに入っていますから、下げ止まりません。さらに下げます。遅くても来年3月くらいまでには本格的な下げ相場が現れると見ています。

株の下落でドルが売られる!?

――

同時にドル安が進むということですか。

若林

先日、日本の投資家が米国国債を5兆円買ったというニュースがありました。日本国内ではもはや金利がないので、多少なりとも金利が残っている米国国債に資金を移動させたと考えられますが、この手の円ショートポジションが溜まりに溜まって、恐らく400兆円から500兆円規模になっています。この資金は恐らく無事では済まないでしょう。

いよいよこれから2、3年の間に1ドル=65円に向かってドル安が加速していくと見ています。その発端として、来年の1、2月あたりに、1ドル=100円割れを見るのではないでしょうか。

若林

これから2、3月にかけてドルが大きく売られると、自然の摂理で反発しますから、少しドルは戻すでしょう。恐らく1ドル=95、96円くらいまで下げてから、100円前後まで戻る可能性は十分にあります。そして、来年の7、8月にかけて、再びドルが下げるでしょう。この時の水準は1ドル=87円前後だと見ています。

――

ドル安が進むということは、逆にユーロは上昇するということですか。

若林

そうです。今、ユーロは2017年の第1四半期につけた1ユーロ=1.0341ドルから徐々に水準を切り上げていて、現在、1ユーロ=1.2ドルの水準にあります。2000年10月のボトムから2008年7月の天井までが31四半期です。

つまりユーロは上昇トレンドに入ると、31四半期の間、上昇します。ということは今回、2017年第1四半期からの31四半期ですから、2024年の第4四半期まで、ユーロはドルに対して上昇すると考えられます。その時の水準は1ユーロ=1.4~1.42ドルくらいでしょう。

日本株、ゴールドはどうなる?

――

米国株安とドル安では日本株もかなり下がりそうですね。

若林

確かに円高は日本経済にとってしんどいかも知れませんが、日本はバブル崩壊という一番ひどい状態を見ていますから、米国の株安に比べれば、日本株の下落は比較的軽く終わるでしょう。地獄は見ずに済むと思います。

――

金価格はどうなりますか。

若林

そもそも金はどういう時に上昇するのか。金が最も速いペースで上昇したのは、1976年から1980年にかけてです。わずか3年半で8倍になりました。

その時、米国ではインフレの問題が生じていたため、インフレによって金価格は上昇するという定説が生まれたのですが、これは間違いです。たまたまその時がインフレだったというだけのことです。

若林

他に何がこの間に生じていたのかというと、ドル安マルク高でした。マルクは当時の西ドイツの通貨ですが、今で言うユーロのような存在です。つまりユーロ高が進むと金価格は上昇するのです。

これからユーロは対ドルで16%程度上昇します。これに対して1976年から1980年の時は、マルクが対ドルで36%も上昇しました。結果、金価格は8倍になったわけですが、その時との比較感からすると、36%のマルク高で金価格が8倍ですから、16%のユーロ高がこれから進むとなれば、恐らく金価格は3、4倍になってもおかしくないと考えられます。金は間違いなく上昇します。

――

ありがとうございました。

1.シラー指数
S&Pケース・シラー住宅価格指数。米国の住宅価格の水準を示す指数。毎月格付け会社のS&P(スタンダード・アンド・プアーズ社)が発表。

2.FED
S&Federal Reserve Systemの略称で、米国の連邦準備制度(中央銀行制度)を指す。

若林栄四  わかばやし・えいし

ワカバヤシ エフエックス アソシエイツ代表
1966年東京銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。シンガポール支店、本店為替資金部及びニューヨーク支店次長を経て勧角証券(アメリカ)執行副社長を歴任。現在、ニューヨークを拠点として、ファイナンシャル・コンサルタントとして活躍する傍ら、日本では株式会社ワカヤバシ エフエックス アソシエイツ(本邦法人)の代表取締役を務める。

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