酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2022年9月号

2022/09/01

ドルの上昇が止まらない。
ドル・円相場は今朝の東京市場で24年ぶりの円安水準となる高値139.66を示現した。

ドル全面高

(今年に入ってからのドル・円相場日足・ローソク足チャート。)

7月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比+8.5%と6月の+9.1%から好転し、市場にはアメリカのインフレはピークアウトした感が有るとの観測が流れたが、その後FRB(米連邦準備委員会)の地区連銀総裁から相次いでインフレ鎮静の為のタカ派的(利上げに積極的)発言が相次いだ。

又先週カンザスシティー連銀主催のジャクソンホールでの金融シンポジュームにおいてパウエルFRB議長は、

-インフレ抑制に向けた政策をやり遂げるまで利上げを続けなくてはならない。
-金利上昇により成長鈍化や労働市場の悪化で家計や企業になんらかの痛みが生じるのは分かっているが、インフレを放置しておく事の痛みの方が大きい。
-7月の物価の伸び鈍化だけではインフレ抑制と確信するには程遠い。
-9月のFOMCでの利上げ幅は今後のデータや見通しで総合判断する。
-物価安定の回復には暫く引き締め的な政策を維持する必要がある。

とインフレ抑制の為の利上げを躊躇なく続けることを強調した。

これらFRB総出のタカ派的発言を受けて長期金利は上昇して再び3%台を回復してドルは全面高、そして株価は大きく下落する展開となった。

8月1日8月31日
ドル・円131.61138.95+5.6%
ユーロ・ドル1.02581.0052-2.0%
ポンド・ドル1.22531.1619-5.20%
豪ドル・ドル0.69690.6842-1.80%
米国10年債利回り2.587%3.196%+0.609%
ダウ平均株価32,798.4031,510.43-3.90%

(ニューヨーク為替、債券、株式市場の終値。)

パウエルFRB議長は昨年のジャクソンホールでの金融シンポジュームにおいて米国のインフレは一過性のものであると楽観的な意見を述べて、その凡そ半年後に利上げを行うという大失態を演じて市場の不信を買い、今回はどの様な挽回策を出して来るのか市場は期待したが、議長の講演内容は期待以上のタカ派的な物であったと言えよう。

上のチャートで分かる様に結果的に長期金利上昇、ドル高、そして株安となったが個人的にはどうも市場がタカ派的ムードに前のめりになり過ぎている様な気がしてならない。

9月20日~21日にFOMC(公開市場委員会)が開催され、市場は6月、7月に引き続いて0.75%の大幅利上げを見込むが、パウエル議長は”9月のFOMCでの利上げ幅は今後のデータや見通しで総合判断する。”と言っており、そのデータとは今週金曜日に発表になる8月の雇用統計と13日に発表になる8月の消費者物価指数(CPI)であるが、前者の非農業部門雇用者数は前月の+52万8千人から+29万人、後者は前月の+8.5%から+8.2%へと何れも鈍化すると思われる。

この様な状況で今月のFOMCにおいて6月、7月に引き続いての0.75%の大幅利上げが行われるかどうか疑わしいと言うのが筆者の個人的意見である。

そもそも米国GDP.(国内総生産)は第一四半期が-1.6%、そして第二四半期は-0.9%と二期連続のマイナス成長となってテクニカル・リセッションとなっている。

債券市場を見ると景気後退のサインと言われる米国2年物債券利回りと10年物債券利回りの逆転現象、所謂逆イールドが凡そ2ヶ月も続いており、果たして米国経済は依然として強いのか、それとも弱いのか(弱くなるのかと言う方が適切か)が良く分からない。

FRBが頑なにインフレ対策だけを強調して大幅利上げを続けられるかどうかに疑問を持たざるを得ない。

下は相関性の高い米国10年債利回りとドル・円相場の今年に入ってからのチャートであるが、市場が囃すドル・円相場の140円台を目指すには10年債利回りが3.5%近くまで上昇する必要が有る様に見える。

140円台は近くて遠いレベルである様な気がしてならないが、正直なところ余り自身は無い。

ドルが下がったら買うと言うBuy on dips.の戦略が有効と思われる。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。

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