ドル安、円安、そして株高
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2025年の金融市場は、日米金利差が縮小したにもかかわらず、ドル円は横ばい、クロス円は円安、株式市場は大幅高となった。期待されたドル安・円高はなぜ起きなかったのか。 この記事で分かること:2025年相場の総括/市場予想と現実の乖離/円安が続いた要因
先週は、期待した(?)クリスマス・介入も入らず、クリスマス前後は東京市場以外の主要市場が休場となり、相場には大きな変化は無くて穏やかな週となった。
今年も残すところあと三日となり、恐らく大きな変動は期待出来ないと思われるので、今年の相場の動きを振り返ってみたい。
以下は今年の年初と先週金曜日の主要通貨、日米株価、日米長期金利の変化を表したものであるが、今年の金融市場の動きを纏めると、ドル安(主要通貨が対ドルで上伸した。)、円安(ドル安のお陰でドル円は殆ど動きは無かったが、クロス円は大きく円安が進んだ。)、そして株高が進んだ年であった。
下の表には無いが、政策金利は日本は0.50%から0.75%へ、アメリカは4.5%から3.75%となり金利差は4.0%から3.0%へと縮小し、長期金利は日本は1.135%から2.040%へ、アメリカは4.563%から4.129%となり此方も金利差は3.428%から2.089%へと縮小して、所謂ファンダメンタルズ(経済的基礎要因)の観点からはドル円相場はドル安&円高が進んでも不思議ではなかったが、終値ベースではたった1円の動きに終わり、多くの市場参加者にとって驚き(もしかして失望?)の幕切れとなった。
| 銘柄 | 2025年1月3日 | 2025年12月26日 | 変化 |
|---|---|---|---|
| ドル/円 | 157.54 | 156.58 | -0.6% |
| ユーロ/円 | 161.75 | 184.30 | +13.9% |
| ユーロ/ドル | 1.0266 | 1.1769 | +14.6% |
| ポンド/円 | 195.03 | 211.35 | +8.4% |
| ポンド/ドル | 1.2379 | 1.3497 | +9.0% |
| 豪ドル/円 | 97.70 | 105.09 | +7.6% |
| 豪ドル/ドル | 0.6201 | 0.6711 | +8.2% |
| 日経平均株価 | 39,307.05 | 50,750.39 | +29.1% |
| NYダウ | 42,392.27 | 48,710.97 | +14.9% |
| ナスダック | 19,280.79 | 23,593.10 | +22.4% |
| S&P500 | 5,868.55 | 6,929.94 | +18.1% |
| 日本10年債 | 1.135% | 2.040% | +0.905% |
| 米10年債 | 4.563% | 4.129% | -0.434% |
僭越ながら、今年1月6日の最初のレポートをご紹介すると、恒例の日経ヴェリタスでの専門家の予想によると、“2025年は年末に向けてドル安&円高が進む。”と言う意見が圧倒的であった事が思い起こされる。
6.1.2025.
明けましておめでとう御座います。
2025年第一回目のレポートは、恒例の日経ヴェリタス1月5日号に掲載された72名の国内機関投資家や証券会社、為替、債券担当者や投資戦略を担当するストラタジストらを対象にしたアンケートの結果の内、“ドル円相場。”の部分だけを集計して、賢人たちの予想を見てみたい。
尚、この内4名は為替相場予想を“専門分野外。”として空欄としており、68名の投票を有効とした。
先ずは2025年、ドル円相場が最も円高になる月は圧倒的に12月を予想する人が多く、意外にも次に3月が続き、9月と10月が3位を分け合った。
次に最も円安になる月は圧倒的に1月を予想する人が多く、次いで2月と3月が続く。
1月、2月、3月の第一四半期に円安のピークを付けると答えた人の合計は46人にも上り、全体の67.6%にも達する。
纏めると、“今年も。”ドル円相場は年初に円安を付けた後、年末に向けて円高となると考える人が多いと言える。
| 円安時期 | 順位 | 月 | 順位 | 円高時期 |
|---|---|---|---|---|
| 21人 | 1位 | 1月 | 2人 | |
| 13人 | 2位 | 2月 | 3人 | |
| 12人 | 3位 | 3月 | 2位 | 9人 |
| 3人 | 4月 | 0人 | ||
| 1人 | 5月 | 1人 | ||
| 2人 | 6月 | 1人 | ||
| 4人 | 7月 | 2人 | ||
| 0人 | 8月 | 4人 | ||
| 1人 | 9月 | 3位 | 7人 | |
| 1人 | 10月 | 3位 | 7人 | |
| 3人 | 11月 | 2人 | ||
| 7人 | 12月 | 1位 | 30人 | |
| 68人 | 合計 | 68人 |
次に、円高・円安となるとしたら何処まで行くかと言う問いに対しては、以下の結果となった。
5円刻みで集計したので、126~128の答えは125~129に属し、166~168の答えは165~169に属する。
因みに最も円高を予想した人は125で、最も円安を予想した人は170であった。
纏めると、大方(約半数)は140~164のレンジを予想しており、これは2024年のドル円相場の安値139.59、高値161.94と極めて類似しており、上の円高・円安のピークのタイミングと合わせると、多くの賢人たちは“2025年は春先まではドル高&円安傾向が続くが、行ってもせいぜい164止まりで、その後ドル安&円高に転じて年末に向けて140を目指す。”と言うものであろうか?
| 円安 | 順位 | 価格 | 順位 | 円高 |
|---|---|---|---|---|
| 125~129 | 2人 | |||
| 130~134 | 6人 | |||
| 135~139 | 2位 | 14人 | ||
| 140~144 | 1位 | 33人 | ||
| 1人 | 145~149 | 3位 | 11人 | |
| 3人 | 150~154 | 2人 | ||
| 17人 | 2位 | 155~159 | ||
| 32人 | 1位 | 160~164 | ||
| 13人 | 3位 | 165~169 | ||
| 2人 | 170~174 | |||
| 68人 | 合計 | 68人 |
上で、“今年も。”ドル円相場は年初に円安を付けた後、年末に向けて円高となると考える人が多いと言える。”と述べたが、“今年も。”と述べた理由は、昨年1月9日のレポートで、全く同じ要領で日経ヴェリタスのアンケートをご披露したが、それは以下の通りで、今年のアンケート結果よりももっと顕著に“1月にドル円相場はピークを打って、12月に向けてドル安&円高に進み、レンジは130~154。”と言うもので、レンジは兎も角相場の方向は完全に見誤った物であった。
(かく言う筆者も見誤った者の一人であったが)
| 月 | 円安時期 | 円高 |
|---|---|---|
| 1月 | 32 | 3 |
| 2月 | 4 | 1 |
| 3月 | 7 | 3 |
| 4月 | 5 | 3 |
| 5月 | 2 | 2 |
| 6月 | 0 | 1 |
| 7月 | 1 | 2 |
| 8月 | 0 | 3 |
| 9月 | 3 | 5 |
| 10月 | 1 | 3 |
| 11月 | 2 | 2 |
| 12月 | 8 | 37 |
| 価格帯 | 円安 | 円高時期 |
|---|---|---|
| 115~119 | 32 | 3 |
| 120~124 | 4 | 1 |
| 125~129 | 7 | 3 |
| 130~134 | 5 | 3 |
| 135~139 | 2 | 2 |
| 140~144 | 0 | 1 |
| 145~149 | 1 | 2 |
| 150~154 | 0 | 3 |
| 155~159 | 3 | 5 |
| 160~164 | 1 | 3 |
| 165~169 | 2 | 2 |
2025年のドル円相場の行方を左右する大きな要因としては、日米金融政策の行方、トランプ次期大統領の政策が挙げられるが、前者に関しては日銀が利上げに慎重になる中、FRB.の利下げ見通しは後退しており、日米金利差縮小のペースは自ずからスローダウンする見通しで、昨年初に見られた様な日米金利差縮小に基づいたドル安&円高を期待する意見は多くはない。
2024年は日本が0.35%の利上げをし、米国が1%の利下げを行って合計1.35%の金利差縮小が有ったものの、ドル円相場は凡そ20円近くもドル高&円安が進んだ事も、ドルベア派(ドルにとって弱気を抱く派。)の勢いをそぐ。
後者に関してはトランプ氏が掲げる減税、関税強化、移民排斥政策は何れもインフレ要因となり、長期金利上昇を招き易い。
此方も同じくドルベア派の勢いをそぐ。
ファンダメンタルズ(経済的基礎要因)の観点からはドル高&円安の議論がし易いが、注意すべきは円安進行阻止に対しての政治的な圧力が起きるリスクである。
160円を超える様な状況になれば我が国の財務省によるドル売り&円買い介入の可能性が高まるであろうし、かねてから人民元安と共に不満を表明していた円安に対してトランプ次期大統領が円安阻止の行動を起こす事も考えられる。
ファンダメンタルズと言う現実に基づいたドル買いに対して、“What if ?”=(もし、何か起きたら?)、例えば”もし介入が出たら?“、とか、”もし、トランプ大統領が円安阻止の方策を打ち出したら?“と言う仮定の話でドル買いを逡巡するとか、ドル売りに走ると言うのは甚だ難しいが、相場は大多数が考える方向とは違う方へ動くことはままある事。
上で述べた、昨年のドル円相場が年初の日経ヴェリタスのアンケートとは違う方向(ドル安&円高。)へ動いたのも、その一例かも知れない。
筆者の個人的意見としては春先まではドルの堅調地合いは続き、その後はじりじりとドル安&円高が進行して日経ヴェリタスのアンケート結果と同じ様に年末辺りにはドルが安値圏内に在ると見る。
注意すべきはトランプ大統領の突然の政策変更と円安阻止策発動であろうか?
今年も一筋縄では行かない相場展開となると思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。
今週のテクニカル分析(ファンダメンタルズは全く反映しない。)の見立ては、買われ過ぎに注意。
今週のレンジはドル円が156.00~158.50で、ユーロ円が161.00~164.00。
==========
恥ずかしながら(?)、筆者も2025年の相場見通しを大きく見誤った一人であるが、その原因の一つは日米政策金利及び長期金利差は縮まったものの、我が国の実質金利(政策金利から期待インフレ率を差し引いた物。)がマイナスのままであった事により、経常収支を上回る資金が海外に流れ出した事であろうか?
それと我が国の財政収支の悪化を嫌気して、海外からの資金流入が細ったことも挙げられよう。
12月19日の利上げにより、我が国の政策金利は0.75%となったが、12月の消費者物価指数(CPI.)は3.6%で
実質金利は-2.85%となる。
黙って座っていると1年後には単純計算すると、保有する流動性資産(現金に近い資産)は凡そ3%近く減価することとなり、我々年金生活者(?)には、ちと痛い。
為替リスクは有るものの、一部の保有資産を外貨建て資産に移す事を考える事は極自然のことであろうか?
来年もこの状況は大きくは変わらないと思われるが、為替相場はファンダメンタルズ通りには動かないのが常。
来年の相場に関しては、来週のレポートで考えてみたい。
これが今年最後のレポートとなります。
今年の夏、私目の癌騒動でご心配とご迷惑をお掛けしたことをお詫び致します。
7月7日の18時間にも及ぶ大手術の後、経過は極めて順調で現在は癌再発防止と延命の為(延命は望んでいないのですが、医者の説明によると癌が再発しなければ自ずから延命となるそうです。ご尤もです….。)抗癌剤の投与を受けながら自宅療養をしていますが、友人達からは“本当に癌なのか?”と疑われる(?)程、元気に過ごしております。
どうぞ、来年も引き続き宜しくお願い致します。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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