酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年5月号

2023/05/01

植田新総裁の初の日銀政策決定会合が開催され、大規模緩和が維持されることが決定されました。海外市場は植田総裁による現状変更を期待していたが、期待は裏切られた。今後の政策変更の可能性も示唆されましたが今後どうなるのでしょうか。

日銀政策決定会合

4月27日~28日に注目の植田新総裁の元、初の日銀政策決定会合が開催され、大規模緩和が維持されることが決定された。

市場の一部には戦後初の学者出身のリベラルな新総裁の元、ゼロ金利解除は兎も角少なくとも長期金利の更なる自由な動きを促すイールド・カーブ・コントロール政策の変更を期待する向きも有ったが、その期待は裏切られた。

ドル・円相場は決定会合前の133円台から徐々に値を伸ばして136円台を回復し、5月1日(月)お昼前には137円台を伺う展開となっている。

(4月28日から5月1日午後2時までのドル・円相場60分ローソク足チャート)

今回の日銀政策決定会合では結果として大規模緩和が維持されることが決定されたが、会合後の記者会見では植田総裁は以下の様にも述べて、早急ではないものの将来的には政策変更が行われる可能性も高いことを示した。

  • ―今回の会合で金融政策の先行き指針を一部修正して、整理・明確化した。
  • ―新型コロナ感染症に基づいた政策方針、政府の分類変更や経済などへの影響リスク低下したので整理した。
  • ―物価目標達成、ある程度の可能性見えてきているとの声が複数の委員からあった。
  • ―政策レビューを実施していても、政策変更の必要があれば実行していく。
  • ―金融緩和の副作用も認めざるを得ない、注意深く分析進めつつできる限り情報発信していきたい。
  • ―企業収益など経済変数の動き見ていく中で、物価2%持続的に達成されると判断の可能性もある。
  • ―YCCの副作用がまったくなくなったわけではない。
  • ―金利ガイダンスの削除は、緩和を粘り強く続けるという文言の中で読み込むと整理したつもり。
  • ―政策レビューの間に金融緩和の正常化始める可能性もゼロではない。
  • ―長引く緩和の副作用をどう減少させていくかという点も政策レビューに含めていきたい。

今回、筆者を含め特に海外の市場参加者は植田新総裁による現状変更が、今回の会合は兎も角、Anytime soon(なるべく近い内に)行われるであろうとの希望を抱いていたところに、今回の会合後の“1998年以降の25年間を対象とした緩和策を1年から1年半掛けて多角的に評価するレビューを実施する。”と言う文言に対して、“えーっ、では政策変更は1年~1年半後になるの?”と早とちりした感が有る。

そんなに時間が掛かるのであればネガティブ・キャリング・コスト(ドルを売り持ち、円を買い持ちにすると毎日金利差を払わなくてはならない。)を考えると、ドルの売り持ち(円の買い持ち)は避けたいと言う気分になったのであろう。

ところが上の植田発言をよく読むと何時までも現状の緩和政策を続けるとは言っておらず、寧ろ必要とあらば現状変更は有り得ると言っているのである。

今週は5月3日~4日にFOMCが開催され、市場は0.25%の利上げを見込んでいる。

焦点はFOMC後の記者会見でパウエルFRB議長が、果たして今回の利上げで打ち止めとなるのか、或いは更なる利上げを仄めかすのかが注目される。

先週末、米大手地銀のファースト・リパブリック銀行の株価暴落、及び買収案が報道された。

この銀行にはつい数週間前に大手米銀による預金預け入れが行われたが、シリコンバレー銀行破綻の余波による預金流出は止まらず、2008年のリーマン・ショック以降最大の米銀破綻になる可能性が大である。

問題はファースト・リパブリック銀行で事が収まるのか、或いは未だ問題を抱えた中小銀行が存在するかである。

筆者は未だ未だ存在すると思っており、金融当局の監督・規制が益々強まると予想する。

その結果は銀行の与信の圧縮であり、当然米国経済の足を引っ張る。

そして未だヴェールに包まれているシャドー・バンキング(影の銀行)と呼ばれる表に出ていない銀行以外の与信についても懸念が広がる可能性が大である。

現在は日銀の金融政策の変更なし、そしてFRBによる追加利上げによる金利差拡大を受けてドル・円相場の堅調な地合いは続くと思われるが、その後大きく下げるであろうとの考えは変えていない。

ドル・ベア(ドルにとって弱気)の辛抱は未だ続く。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。

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