名波：

まずは、肉マイスターになった経緯をお伺いしたいと思います。
田辺さんのお父様は、社団法人日本歌手協会の8代目会長である田辺靖雄さん、お母様は女優・歌手の九重佑三子さんという芸能一家に生まれました。田辺さん自身も音楽ユニットや音楽プロデューサーなど、主に音楽に携わる活動をされていましたと思いますが、なぜお肉の世界にはまったのでしょうか？

田辺：

僕は22歳の時にアーティストデビューをしたんですが、その時に行きつけの整体院の先生がデビューのお祝いに渋谷に面白い焼き肉屋があるという事で連れて行ってもらったんです。MIYASHITA PARK（旧宮下公園）の屋台でやっているお店で、現在では食べる事が出来なくなったレバ刺しやハラミ刺しを始め、ミノや髄、脳までも刺しで食べさせてくれるお店でした。そこでホルモンってこんなに面白く食べる事ができるんだ。というところから興味がわき、どんどんお肉の世界にはまっていきました。

名波：

お肉の知識はどのようにして身につけたのですか？

田辺：

いろいろな焼肉店を食べ歩いているうちに、焼肉店をやっている経営者だけでなく、肉の卸し業者や生産者、ジビエの猟師さんなど、至るところまで知り合いが増え、気づいたら音楽の知識より、お肉全般の知識が超えていました。

名波：

なるほど。そして田辺さんといえば2013年に出版しベストセラーにもなった「焼肉の教科書」ですよね！牛だけでなく豚や鳥など110種類以上の部位の美味しい食べ方を徹底解説されてますが、作るにあたって結構大変だったと思います。どういうきっかけでこちらの本を出されたのでしょうか？

田辺：

アーティスト時代の担当者がその当時宝島社で働いていて、焼肉のムック本を作る話がでたそうなんです。そこで、連絡があって「田辺、肉に詳しいからやれるよね」と断れないムードのまま進んだ感じですね（笑）
本を作るにあたり、文献を読み漁ったので肉についての知識も更に増えて行きました。その勉強を生かして、焼肉検定なるものも作りました。

名波：

焼肉検定ってアイデアがまたすごいね！
音楽プロデューサーとしてご活躍されていている真っただ中で、新しく全く違うジャンルの焼肉店プロデュースというお仕事を始めるのに葛藤はなかったのでしょうか？

田辺：

もともと家が音楽家系なので仕事が音楽なのは当たり前という環境で育ったんですが『仕事は音楽じゃないとだめだ』というこだわりはなかったんです。そんな中、高校生になった頃に小室哲哉さんが全盛期で、憧れて音楽のプロデュースをしたいと思うようになりました。裏方というよりは目立つプロデューサー。まさに小室哲哉さんの立ち位置ですよね。

夢を叶え様々な曲をプロデュースしてきた中で、自分がプロデュースした曲のひとつである、元AKB48の「まゆゆ」こと渡辺麻友さんのソロ曲「ヒカルものたち」がオリコン初登場1位になったんです。1つの大きな目標だったプロデュース曲1位を叶えた時、燃え尽きたというか、やり切った感が自分の中でありました。プロデュース業よりも文化放送でラジオとかしゃべりの仕事などが増えてきた時に、お店のプロデュースの話が舞い込みはじめたんです。

名波：

そこでプロデュースしたのが日本で1番の高級焼肉店と言われ、そして2019年に私と田辺さんが出会った場所でもある西麻布の「焼肉 X（TEN）」ですよね。西麻布といえば焼肉の聖地とも言われてますが、こちらをプロデュースした時のお話を聞かせてください。

田辺：

「焼肉 X」は自分がプロデュースし、店舗にも立つ。小室哲哉さんでいう「globe（グローブ）」みたいなイメージがありました。シェフの川崎さんがボーカルで僕は後ろで彼を支える役割、音楽のプロデュースと飲食店のプロデュースは通じるものがあると思っています。

名波：

一見全く違うジャンルの世界で両方とも成功されていてすごいと思いますが、実は共通するものがあるんですね！

田辺：

例えば良い素材と出会ったときに、それをどうプロデュースしたら世の中に広く受け入れられるか、を考える。いいボーカルがいたとしても見た目がダサかったり、独特の癖がありすぎたりだとか、それをどんな衣装を着せたらいいかとか、どこまで癖を抜いて弱めたらいいかとか、どんな曲を歌わせたらいいか？とか。それを考えるのがプロデューサーの仕事なんです。

良いお肉があって、良いタレがあって、これをどういうお店で出すのか。店の雰囲気は？場所は？メニューの数は？飲み物は？そういった事を考えるところが音楽のプロデュースと似ています。
コンセプトだったりマーケティングだったりを考えるのがプロデューサーなんです。

アーティストや料理人は自分の好きなことをやればいいと思うんです。それがアーティストや料理人の魅力でもあるわけですから。それをプロデューサーがお店のコンセプトに合わせて少しの手直しを入れて綺麗にまとめる。いいものでも広まらなかったり、受け入れられなかったりすることがある。そこを軌道修正するのが僕の仕事だと思っています。

名波：

なるほど。プロデューサー業って料理人やアーティスト、お店や曲、全体を見て統括してヒットするものを作り上げていくお仕事なんですね！共通点はあるものの、その分野に精通していなくてはできないお仕事だと痛感しました。まさに好きなことを極めて仕事にする。そんな感じですね。

今は音楽とお肉のお仕事の比率はどんな感じなんですか？

田辺：

音楽はもう小数点以下ですね。お肉がメインです。一番の転機はこの「ホルモン人生タロちゃん」を始めたこと。それまでは「本業は音楽なんですよ」と言っていたんですが、言わなくなりました。飲食店のオーナーになったので、もうこれが本業です。

名波：

ホルモン人生タロちゃんはオープンしてどれくらい経つんですか？

田辺：

2021年の10月にオープンしたので、今年の10月で丸2年になりました。TENは約5年ほど経ちますが、自分がプロデューサーとして入るのと経営するのとは全く別ですね。

名波：

お店の名前の「タロちゃん」は田辺さんのお名前である『晋太郎（しんたろう）』から取ったものですよね？

田辺：

僕の名前が「しんたろう」、そしてもうひとりのオーナーが「こうたろう」なんです。Wたろう。それだけではすまなくて、お店の店長がなんと「こたろう」と3人の名前がたろうで一致して。大阪ではちゃんづけの焼肉屋が繁盛していたこともあり、大衆的な雰囲気の親しみやすい名前を付けたかったんです。それで店名が「タロちゃん」になりました。

表の看板やのれんで使われている『タロちゃん』の文字は母が書いたんですよ。いろいろな人のいろいろな思いが詰まったお店なので頑張らないといけないですね。

名波：

「ホルモン人生タロちゃん」の一号店は中野ですよね。オープンのきっかけや場所選びはどのようにされたのでしょうか？

田辺：

九州の小倉で60年続いた老舗焼肉店からお店を閉めるという連絡がきたのがきっかけでした。継ぐ人はいないと言うので「もったいない！引き継がせてほしい！」と名乗りを上げたんです。九州に研修に行き、秘伝のたれの作り方を学ばせてもらい、我々に託していただきました。このたれがホルモンに合うんですよ。

中野を選んだのは中野にこだわって探していたわけではなく、偶然ここの物件のオーナーが私たちの仲間と知り合いで紹介いただきました。
ただ中野にも焼肉屋はたくさんあるんです。客単価を調べると4～5,000円のお店がメインで、うちは7～8,000円。
他のお店より高いと思われがちですが、使ってる肉が全然違うのはわかってましたから、あえて1ランク上の食材を提供することで周囲のお店との差別化を図ることにしたのがうまくいきました。

「周りのお店に2回行くならこっちに1回来たい！」と言ってもらえることも多くてそれは嬉しいですね。府中からタクシーでわざわざ来られるお客さんもいますよ。

名波：

タロちゃんの名物といえば、壁一面に書かれたサインもありますよね。どんな方達のサインがあるんでしょうか？

田辺：

僕の中でも特に仲が良い友達の一人、新條まゆ先生（快感♥フレーズ他）や以前からお世話になっている弘兼憲史先生（課長島耕作シリーズ他）や末次由紀先生（ちはやふる他）など場所柄もあって漫画家の方は多いですね。
面白いのが、ここにサザエさんでおなじみ「波平」のサインがありますよね。これは作者の長谷川町子先生が来られたわけではなく、波平の声優をやられている茶風林さんが来られた時にイラストと一緒に書かれたサインなんです。他にもいろいろなサインがありますので、お店に来れた際にはいろいろと探して楽しんでいただければと思います。
そうだ、名波さんもサインしてくださいよ！

名波：

えええ、私でいいんですか。では、この端っこの方に書かせていただきますね。
私のサインも皆さん、探してみてください！

名波：

そういえば、、ホルモン人生タロちゃんは中野店の他、自由が丘店、桜新町店、そして4店舗目となる横浜関内店が今年の8月にオープンされましたよね。
横浜店の特徴を教えていただいてもいいですか？

田辺：

実は横浜関内店だけ和牛のタンとハラミの仕入れが独自のルートになっていて、希少の物が入るようになっているんです。タン、ハラミが好きな人は是非足を運んでいただきたいですね。

名波：

そうなんですね！これは横浜関内店にも行かないと！

名波：

色々とお話を聞かせていただいたところで、お腹も空いてきました。
そこでホルモン人生タロちゃんのオススメメニューを教えていただけますでしょうか。
インタビューの後、たっぷり食べさせていただきますので、聞いておかなくちゃ。(笑)

田辺：

まずは「いろいろ冷製ホルモン」は是非食べていただきたいですね。
ミノは昆布締め湯引き、タン先は生ハムのような状態で湯がいたハチの巣などと全部一緒に混ぜていただく一皿です。ホルモンが苦手な人がいたんですが、このホルモンを食べて病みつきになったという人もいますよ。

あとは、「神戸ビーフ100％タロちゃんバーグ」ですね。これは僕の作った作品の中で一番のヒット作だと思ってます。オリコン1位になった曲や35万部売れた書籍よりも人の心を動かせるものが作れたと思ってます。

名波：

それは是非食べてみたいですね！この後の食事がますます楽しみになりました。

名波：

いろいろと楽しいお話を伺う事が出来ました。
それでは最後に田辺さんにとって「焼肉とは？」をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか？

田辺：

『究極のライブ』だと思っています。この臨場感が大事だと思いますし、香り、煙、お肉1枚として同じものが存在しない。
一期一会のすべてがこの焼肉には詰まっていると思います。

名波：

く～！カッコいいなぁ。まさにお肉と音楽を極めた田辺さんらしい焼肉愛溢れたアンサーをありがとうございます！
本日はお忙しい中インタビューありがとうございました！

田辺：

ありがとうございました。