鈴木雅光の「奔放自在」

マイナス金利解除で住宅ローン金利はどうなる?

2024/04/05

昨年10月、日銀がイールドカーブコントロール(YCC)における長期金利の上限である1%を超える取引を容認した時、「住宅ローン金利は上がらないのか」と、一部で話題になりました。

ここで言う「住宅ローン金利」とは、変動金利型住宅ローンのことです。何しろ変動金利ですから、市場で取引されている金利水準が上がれば、変動金利型住宅ローンの適用金利も引き上げられると考えるのが普通でしょう。

でも、変動金利型住宅ローンの適用金利は、長期金利には連動しません。長期金利に連動するのは、長期固定金利型の住宅ローンです。

長期固定金利型住宅ローンの代表は、住宅金融支援機構が提供している「フラット35」などです。

フラット35のうち、借入期間が21年以上35年以下で、融資率が9割以下、新機構団信付という条件を満たした場合の適用金利がYCCの上限が緩和されるなかでどのようになっていったかは以下のようになっています。

フラット35の適用金利(一定条件を満たした場合)

最高金利最低金利
2021年8月~9月2.080%1.280%
2024年3月3.450%1.840%

もちろん、フラット35は35年間固定金利なので、返済期間中に適用金利が引き上げられるようなことはありませんが、現状、新規で長期固定金利型の住宅ローンを組むと、それ以前に長期固定金利型住宅ローンを組んだ人に比べると、金利負担は重くならざるを得ません。

一方、変動金利型住宅ローンの適用金利は、基本的に短期プライムレートに連動します。そのため、YCCの修正によって、長期金利の許容変動幅が1%超になっても影響は受けないのですが、3月19日のマイナス金利解除は、それ自体が短期金利の上昇につながるという観測を招き、変動金利型住宅ローンの適用金利見直しが行われるのではないか、という見通しにつながりました

現に、預貯金利率は引き上げる動きが見られています。たとえば三菱UFJ銀行と三井住友銀行、PayPay銀行は、その日のうちに普通預金利率を、年0.001%から年0.02%に引き上げました。結果、一部では「金利が20倍になった」などと騒がれ、「いよいよ金利のある日常が戻ってくる」という声が、方々から聞こえてくるようになりました。

しかし、普通預金の利率が20倍になったといっても、100万円を1年間預けて得られる利息が、10円から200円になるだけの話です。個々人の経済的なメリットは、ほとんど実感できないほどの金利上昇といっても良いでしょう。

また、懸念されている変動金利型住宅ローンの適用金利見直しも、実は、そう簡単には行われないのではないか、と考えられます。

なぜなら、2016年2月にマイナス金利が導入された時、短期プライムレートの最頻値は、それ以前から適用されている年1.475%のまま変わらなかったからです。

マイナス金利が導入された時に引き下げられなかった短期プライムレートを、マイナス金利が解除されたからといって引き上げるのは、理屈に合いません。

もし短期プライムレートが引き上げられるとするならば、よほど短期の市場金利が上昇した時だと考えられますが、そうならない限り、短期プライムレートが引き上げられ、変動金利型住宅ローンの適用金利が見直されるようなことにはならない、と考えられます。

では、短期金利のマイナス金利が解除された後、短期金利が大幅に上昇する可能性がどのくらいあるのかを考えてみたいと思います。

金利の引き上げが行われるとしたら、そのための条件はインフレでしょう。

消費者物価指数のうち、天候によって大きく価格が左右される生鮮食品や、国際政治の問題で大きく価格が左右されるエネルギーを除いた総合値の前年同月比は、バブル経済崩壊後、長らく1%にも満たない水準で推移していましたが、2022年の夏くらいから徐々に上昇し始め、2023年の6-8月にかけて、前年同月比で4.3%まで上昇しました。

このペースが続けば、恐らく日銀も物価の沈静化をはかるため、短期金利の引き上げを実施してくるでしょう。

しかし、そこからは徐々に金利上昇ペースは落ち着きを取り戻しつつあります。2024年2月の消費者物価指数前年同月比は、3.2%まで低下してきました。

物価水準が今後、落ち着きを取り戻すとなれば、金利を引き上げるためのお題目が無くなってしまいます。また、短期金利に連動して長期金利がさらに上昇したら、今度は日銀が大量に保有している日本国債の評価額が下がります。それは日本銀行にとってバランスシートの悪化にもつながりますから、どうしても避けたいところでしょう。

この手のしがらみがあることによって、今は日銀もおいそれとは金融引き締めに転じにくい状況にあると考えられます。そうなると、慌てて変動金利型住宅ローンを固定金利型住宅ローンに変える必要は、ほとんどと言って良いほどない、と結論づけられます。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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