鈴木雅光の「奔放自在」

クラウドファンディングの闇

2024/03/08

「クラウドファンディング」をご存じでしょうか。これは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、大勢の人たちから少額資金を集め、特定の人物やプロジェクト、あるいは組織に対して資金を提供する仕組みです。金銭的リターンが伴わない「寄付型」、金銭的リターンが伴う「投資型」、プロジェクトが提供する何らかの権利や商品、サービスを購入することで支援をする「購入型」の3種類に大別できます。

何かの理由で、お金を必要としている人がいて、その理由に賛同できる人を募り、資金を集めて提供するという行為は、ある意味、お金を介したマッチングビジネスとも言えるかも知れません。

とはいえ、非常に不透明な側面があることにも留意しておく必要があるでしょう。特に寄付型は、金銭的なリターンが伴わないものですが、それでも資金を提供しようという人がいるのは、調達サイドが提案している資金調達の意図に賛同しているからです。いわば善意による資金提供です。

しかし、調達サイドに悪意があり、本来の資金調達の意図とは違う使い方をしていたとしたら、どうでしょうか。これはある意味、詐欺行為です。また、何の見返りも提供せず、単に自分の欲望を満たすことを目的として資金集めをするようなケースも存在します。この手の行為は、人の善意につけこんだ乞食行為といっても良いでしょう。

確かに、クラウドファンディングは、インターネットを介したマッチングが可能になった時代における、新しい資金調達手段と言えなくもないのですが、人の善意につけこむ要素が強いという点において、信頼性が非常に低いと言えますし、市場規模が1800億円前後の水準から、なかなか伸びないのは、まさにそういう問題点が見透かされているからとも言えそうです。

ところが最近、上場企業の中にクラウドファンディングを活用した資金調達を始めたところが出てきました。「上場企業だから安心です」といったことを打ち出しているのですが、これが何の上場企業かというと、消費者金融だったりします。

具体的なスキームについて説明しておきましょう。

まず匿名組合のファンドを組成し、そのファンドを購入する投資家を募ります。

それを購入した投資家の資金が、匿名組合ファンドを通じて、消費者金融会社に貸し付けられます。

借り手となった消費者金融会社は、個人向け消費者金融や、不動産担保ローンなどを扱っていますが、銀行と違い、預金で資金を集めることができません。そのため従来は、銀行から資金を借り入れた後、そのお金に金利を上乗せして、個人などに貸し付けています。

こうした資金調達手段を多様化させるために、クラウドファンディングが利用されているのです。クラウドファンディングによって不特定多数の個人から資金を集め、それを個人向け消費者金融や、不動産担保ローンとして貸し出すのです。

そして、お金を出した個人は、出した金額に応じて金利を受け取ります。金銭的なリターンがあるので、前述した寄付型クラウドファンディングに比べれば、人の善意につけこんでいる面は小さいとも言えそうです。

ただ正直なところ、「いささか質が悪い」と言えなくもありません。

そもそも消費者金融会社を通じて行われている融資は、貸倒れリスクが高いとも言えます。だから個人向け消費者金融は、高い金利を負担しなければならないのです。

もちろん銀行に対して金利を払って、個人などに貸し付ける資金を借り入れているからという側面もありますが、10%を超える個人向け消費者金融の貸付金利は、たとえば貸した相手が100人いたとして、そのうち20人が返済できない状況に陥ったとしても、全体から見ると利益を確保できるように、高めの金利設定が行われているのです。

それだけ貸倒れリスクが高い融資を実行している消費者金融会社は、出来ることなら貸倒れリスクを低めたうえで、資金調達を行いたいと考えているはずです。そこにクラウドファンディングが上手く嵌ったのです。

クラウドファンディングによって調達された資金は、当然のことですが元本は保証されておらず、利回りも確定ではなく、あくまでも「予定利回り」です。予定利回りが年1%だとしても、実際に満期を迎えてみたら、それを下回る数字になることも、十分に起り得ます。良いリターンが実現するかどうかは、ひとえに消費者金融会社が、お金を借りた人からしっかり債権を回収できるかどうかにかかっています。

当然、債権回収が出来なかったというケースも起こり得るでしょう。その場合、本来なら貸倒れリスクを背負うのは、お金を貸した消費者金融会社です。

ところが、クラウドファンディングのスキームを活用して資金調達を行う場合、この貸倒れリスクを最終的に負うのは、クラウドファンディングに投資した個人になります。

確かに、投資する個人からすれば、新しい投資先が増えたと見えなくもないのですが、別な観点で考えると、消費者金融会社が自分で負う貸倒れリスクを個人に転嫁するために、クラウドファンディングのスキームを利用しているようにも見えるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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