鈴木雅光の「奔放自在」

シェアビジネスの闇

2024/02/29

高級ブランド時計を貸したい人と借りたい人をマッチングさせる、シェアリングサービスが1月31日、急にサービス終了の告知をサイトに掲載しました。このサービスは「トケマッチ」といい、合同会社ネオリバースによって運営されていたものです。

同社のサイトには、「法人解散によるトケマッチの今後について」という一文が掲載されていますが、なぜ解散するに至ったのか、貸し出している時計をどのように回収するのか、回収し切れない場合はどのような対処をするのか、といった肝心の点が全く書かれていません。

同社のサイトのページはこちら

借りている人たちには「弊社よりレンタル中のユーザーへ書面及びメールにて返却要請をします。その際にレンタル商品の返却先住所等を指定いたしますため、ご協力いただけますと幸いです。また、月額レンタル決済は前回の更新を最終とし、2024年2月1日以降は発生しませんのでご了承下さい」と書かれています。

また、今回の一件で最も心配している、時計を貸している人たちに対しては、「預託商品は順次、ご登録住所にご返却させていただく流れとなります。現時点において弊社の解散手続き及びレンタル中等の事情により、明確なご返却日につきましてはご回答できかねますことをご了承ください。ご返却につきましては本日より6ヶ月を目安として発送手配いたしますが、万一ユーザー側の帰責事由等によりご返却が難しい場合、弊社サービス規約第9条及び所有時計の預託に関する同意書に基づき、損害賠償の金額をお支払いさせていただきます。損害賠償の金額のお支払い先はご登録の銀行口座と同一となり、変更は不可となりますためご理解の程よろしくお願いいたします。また、預託使用料は2024年1月末(2023年12月分)のお支払いより送金停止とさせていただきます」とあります。

全くもって無責任な告知です。特に自分の時計をレンタルに出していた人たちに対して、「いつ返却できるか分からない。もし時計を貸している人たちから戻ってこなかった場合は、損害賠償するのでそれで許して下さい」と言っているようなものですが、そもそも本当に保険を掛けていたのか分かりませんし、購入した時の金額を満たせるだけの保険金を受け取ることもできないと思います。

一番問題なのは、法人は解散しているし、その代表者の消息が全く掴めないことです。時計が戻ってくるのを待っている人たちは、不安を抱えたまま、ひたすら自分の時計が戻ってくるのを、じっと待っているしかない状態なのです。

シェアリングエコノミーとは、インターネットを介して、個々人が持っているモノやスキルなどをシェアする経済モデルです。自分が持っている空き家、空き部屋、駐車スペースなどの遊休資産を、それを使いたい人に貸し出すことによって有効活用することで、最近ではさまざまな分野において、シェアリングエコノミーサービスが登場してきました。

ただ、それにともなって貸手と借手の間でトラブルも増えています。自分が持っている自動車を、マッチング会社を通じて借りたいという人に貸したところ、非常に乱暴な使われ方をしたとか、室内を汚された、車体に傷をつけられたといった話を、方々で耳にします。トケマッチの場合、貸したモノが戻って来ないという、最悪の状態も想定されますが、なぜこのような事態が生じてしまったのでしょうか。

そもそもシェアリングエコノミーは、性善説に則ったビジネスモデルです。「貸した部屋は綺麗に使ってもらえるはず」、「貸した自動車は丁寧に扱ってもらえるはず」、「貸した時計はちゃんと戻ってくるはず」という前提があるから、一定数の貸手がいるわけですが、世の中、善人だけではありません。最初から悪意を持った人物なら、借りた車を貨物船に運び込み、そのまま他の国に売り飛ばすことを真っ先に考えるでしょう。トケマッチも同じで、最初から盗むことを前提にするならば、借りた時計を中古市場に流してしまうことなど、容易に想像できます。

しかも、空き家、空き部屋、駐車場などの不動産をシェアするのであれば、そこを荒らされたとしても最悪、モノが持っていかれることはあり得ません。そもそも「不動産」ですから。

しかし、自動車や時計のような「動産」の場合、最悪の場合、盗まれることは十分に起り得ます。しかも時計の場合、モノ自体が小さいので、悪意を持った人物なら、それを持って、容易に逃げることができます。

もっともトケマッチの場合、時計を借りた人がとんずらするよりも、それを運営していた合同会社ネオリバースの代表を務めていた人物、もしくはその周りにいたスタッフが持ち逃げした可能性の方が、現時点では大きいと考えられます。何しろ、代表をはじめとして、ネオリバースの誰も消息が掴めない状況なのですから。 恐らくこれは事件化するでしょう。

-2024年2月27日-
”高級腕時計を所有者から預かり、貸し出すシェアリングサービス「トケマッチ」の運営会社が解散し、一部の時計が返却されていない問題で、時計を預けていた名古屋市の男性は27日までに、愛知県警に業務上横領容疑で被害届を提出したと明らかにした。”

産経ニュース

ちょっと意識の高い人たちの間で話題になっているシェアリングエコノミーですが、その闇がいよいよ露呈してきました。今後、この事件がどのように進展するのか、どうすれば被害を最小限に食い止められるのか、注目していきたいと思います。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

この記事をシェアする

無料会員募集中