鈴木雅光の「奔放自在」

「人生100年時代」って本当に来るのでしょうか?

2023/10/27

経済コラム「奔放自在」の第76回目です。「人生100年時代」の到来について疑問が広がっています。本記事では、平均寿命の未来予測を通じて、この概念の実現可能性に迫ります。

最近、働き方や学び、健康、生き方、そして資産運用など、さまざまな分野において枕詞のように使われるのが、「人生100年時代」です。

こんな枕詞が頻繁に用いられるようになったのは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏が「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」で提唱したことがきっかけです。寿命の長寿化によって、先進国においては2007年生まれの2人に1人が103歳まで生きる「人生100年時代」が到来するので、100歳まで生きることを前提にした人生設計が必要です、という内容です。

この話が、資産運用の世界にぴたりとはまりました。今では、「人生100年時代だから投資をしましょう」とか、「人生100年時代に困らないマネープランを建てましょう」、などという文章などが、雑誌や単行本、ウェブ記事などに溢れかえっています。

また、それを声高に唱える人たちが大勢います。「お金の専門家」を自称している人たちです。前述のように、「だから投資しましょう」、「だからマネープランを立てましょう」、「つきましてはお金の専門家にご相談を」ということなのですが、果たして大勢の人が100歳まで生きられる時代が来るのは、いつなのでしょうか。

人間が何歳まで生きられるのかなどは、誰にも分かりません。自身でも分からないでしょう。今日、元気だったのに明日、事故で亡くなる人もいますし、大病ばかりしていながら、気付いてみると80歳を超えていたなんて人もいます。

したがって、人間一人一人が何歳まで生きられるのかなどということは、全くもって誰にも分からないのですが、目安となる数字はあります。

2022年時点の日本人の平均寿命は、男性が81.47歳で、女性が87.57歳です。

内閣府が2022年に発表した高齢社会白書によると、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位仮定による推計結果では、2065年の日本人の平均寿命は男性が84.95歳、女性が91.35歳と見込まれています。

今が2022年だとすると、その23年後でもまだ男女ともに平均寿命100歳にはほど遠いのが現実です。

では、日本人の平均寿命が100歳になる日はいつのことなのでしょうか。

それにはさまざまな要因が絡みます。医療や予防医学が今後どの程度発展するのか、生活習慣や食事、栄養事情はどこまで改善されていくのか、疫病や戦争、自然災害で大勢の人が亡くなるような状況は起こるのか、など変数はさまざまです。そして、遠い未来になればなるほど、不確定要素はどんどん大きくなります。

そのくらいあやふやなものなので、日本人の平均寿命が100歳に到達するのはいつなのかを、正確に予測することは不可能です。

このように、あまりにも漠然としたものなので、日本人の平均寿命が100歳になるのはいつなのかを、正確に把握することはできません。内閣府が発表した令和5年版高齢社会白書にある平均寿命の将来推計によると、2070年時点における日本人の平均寿命は、男性が85.89歳、女性が91.94歳です。今から47年後の話です。それでもまだ平均寿命100歳には到達していないのです。

また、これは少し古いデータなのですが、2018年10月に社会保障審議会年金部会が公表した「65歳が特定の年齢まで生存する確率」によると、2015年に65歳を迎えた1950年生まれの人が100歳まで生きられる確率は、男性が4%、女性が14%でした。

この数字は恐らく、将来的には医学などの進展によってさらに伸びていくものと思われます。ちなみに同資料に掲載されている数字によると、下記の西暦に生まれた男女が100歳まで生きられる確率は、

  • 1960年生まれ・・・・・・男性5% 女性17%
  • 1970年生まれ・・・・・・男性6% 女性19%
  • 1980年生まれ・・・・・・男性6% 女性20%
  • 1990年生まれ・・・・・・男性6% 女性20%

以上のようになっています。

1990年生まれの人たちの現在の年齢は33歳です。女性の場合、100歳まで生きる確率が20%ですから、5人に1人は100歳まで生きることになります。ですから、それを想定して、今のうちからある程度のお金の準備をしておく必要がありそうです。とはいえども、それでも5人に1人しか、100歳まで生きられないとも言えます。

これらを総合して考えると、あまり目くじらを立てて、「人生100年時代だから」などと慌てる必要も、実はないのかなと思ったりもします。

恐らく、人生100年時代を声高に主張する人たちは、そのように言うことで、何か経済的なメリットがあるとも考えられます。分かりやすい事例で言えば、たとえば金融機関などは、「人生100年時代だから投資信託を買いましょう」といったように、自分のところで扱っている投資信託のプロモーションに使っています。

来年1月からは、新NISAがスタートします。それに伴い、「人生100年時代の新NISA活用法」といったプロモーション記事も増えるでしょうし、それによって投資商品に誘導しようという動きも出てくるはずです。

でも、「人生100年時代だから」などと、今の時点で50歳、60歳の人が慌てる必要はありません。前出の確率などを見ても分かるように、この年代の人たちが100歳まで生きられる確率は、極めて低いのですから。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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