鈴木雅光の「奔放自在」

債券格付けの見方をご存じですか?

2023/08/18

長年にわたって超低金利が続いたせいか、預貯金と共に不人気だった金融商品の代表に「債券」があります。 債券とは、国や地方公共団体、あるいは一般民間企業が資金を調達するために発行する有価証券のひとつです。利付債と割引債に大別できますが、ここでは発行量が多い利付債を中心に話を進めていきたいと思います。

利付債とは、「利札が付いた債券」のことです。日本国内で発行される利付債の大半は、額面価格が100円と決められています。この100円に対して、いくらの利子が支払われるのかを示しているのが、利率です。たとえば利率が年3%の債券だとすると、額面100円につき毎年3円の利子が支払われます。額面100円の債券を100万円分保有しているとしたら、毎年の利子は3万円になります。

また、債券は銀行の定期預金の満期と同じように、元本が全額戻ってくる時期があらかじめ決められています。これを償還日といいます。債券は償還を迎えた時、額面価格にそった元本が戻ってきます。額面価格100円の債券を100円で購入していれば、償還日に戻ってくる元本は100円になります。

その意味で、債券も預貯金と同じように元本保証商品といえるでしょう。ただし、その元本保証は、あくまでも債券を発行している発行体がデフォルト(債務不履行)に陥らなければ、という前提条件のもとでの話です。

では、もしデフォルトになったとしたらどうなるかというと、元本や利子の支払いが滞る恐れが生じてきます。特に最近は、個人向けでも「劣後債」といって、弁済順位が低い代わりに利率の高い債券が販売されていたりしますから、発行体がデフォルトした場合、債券の元利金支払いに支障を来すリスクがあることは、頭に入れておいた方が良いでしょう。

もし銀行が倒産したとしても、銀行預金なら元本1000万円とその利息分までを、預金保険機構というところが保証してくれます。

でも、債券は預金保険の適用対象外なので、発行体がデフォルトしてしまうと、最悪の場合、購入した資金が全額、戻って来なくなることも十分に考えられます。前述した劣後債だと、さらにそのリスクが高まります。一般的に「劣後債」という名称の付いた債券は、利率が高めに設定されるケースが多いのですが、それは発行体がフォルトした場合のリスクを織り込んだうえでの高利率なのです。

では、債券の発行体がデフォルトに陥るリスクがどの程度あるのかを把握するにはどうすれば良いのでしょうか。

ここで出てくるのが「債券格付け」です。格付会社はR&I(格付投資情報センター)、JCR(日本格付研究所)、S&P、ムーディーズなどが代表的です。会社が異なると格付の表示法にやや違いがありますが、基本的に定義は同じです。一般的に以下のような定義が用いられています。

ランク定義
AAA
トリプルA
信用力が最も高く、多くの優れた要素がある。
AA
ダブルA
信用力は極めて高く、優れた要素がある。
A
シングルA
信用力は高く、部分的に優れた要素がある。
BBB
トリプルB
信用力は十分だが、将来環境が大きく変化する場合、注意するべき要素がある。
BB
ダブルB
信用力は当面、問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意するべき要素がある。
B
シングルB
信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。
CCC
トリプルC
信用力に重大な問題があり、金融債務が不履行に陥る懸念が強い。
CC
ダブルC
発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。
D
シングルD
発行体のすべての金融債務が不履行に陥っていると判断する格付。

上記の格付定義はR&Iのものです。

このうち、とりあえずデフォルトに陥る恐れが小さいと思われるのは、BBB以上の債券です。これを「投資適格債」と言います。逆に、BB以下の債券は「投資不適格債」といって、償還前にデフォルトに陥るリスクが高いと考えられます。もちろん、前出のように、投資不適格債の中にも、その最上位格付であるBBから、最低位格付であるDまで段階があるので、一概にBB以下のすべての債券がデフォルトリスクを抱えているとは断言できませんが、この手の格付の債券に投資する際には注意しておいた方が良いでしょう。

それともうひとつだけ注意点があります。それは同じ格付であったとしても、格付会社によって判断基準が厳しいところと、緩めのところがあるということです。これは一般的によく言われていることですが、S&Pやムーディーズのような米国系の格付会社は、R&IやJCRのような日本の格付会社に比べて評価基準が厳しく、また日本の格付会社の間でも、R&IとJCRとでは、評価基準に差があるのです。そして、JCRの格付は、R&Iに比べてやや評価基準が緩いとされています。

発行体が債券を発行する際に、この格付を取得するわけですが、基本的にどの格付会社の格付けを選ぶかは、発行体の判断に委ねられています。傾向としては、いささか信用力に難ありと思われる発行体ほど、評価基準の緩い格付会社に格付を依頼するケースがあるので、これも頭に入れておくと、デフォルトリスクを比較するのに役立ちます。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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