鈴木雅光の「奔放自在」

成長投資枠で購入できる投資信託は3分の1って本当?

2023/05/12

新しいNISA制度には「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2つの枠があります。一般NISAと比べて、成長投資枠で購入できる投資信託は限られているという話が出ています。記事では、その制限条件や現行の投資信託の状況について詳しく解説しています。実際の投資価値を考えると、成長投資枠で購入できる投資信託の数はさらに少ない可能性があるとも言われています。詳細は記事をご覧ください。

新しいNISAには「つみたて投資枠」「成長投資枠」という2つの枠があります。

つみたて投資枠は現行のつみたてNISAを引き継ぐものですが、年間投資枠が現行制度の40万円から120万円へと大幅に拡大されます。

これに対して成長投資枠は、現行制度の一般NISAを引き継ぐものと考えて良いでしょう。一般NISAの年間投資枠は120万円ですが、成長投資枠では240万円まで拡大されます。

現行制度のつみたてNISAと一般NISAで投資できる金融商品には、一定の制限が設けられています。

一般NISAは比較的幅広く、株式と株式型投資信託、ETF、J-REITが対象になっており、なかでも株式型投資信託については現在、設定・運用されているすべてのものが対象になります。ちなみにETFを除いた株式型投資信託の運用本数は、2023年3月時点で5559本あります。

本数が非常に多いことについては、「選択肢が広がるから良い」という意見はあるものの、あまりにも多数の選択肢が与えられると、逆に選べなくなるものです。

そのため、つみたてNISAでは金融庁がつみたてNISAの投資対象になる投資信託のスクリーニング基準を設け、それに合致したものだけがつみたてNISAで買えるということにしました。これによって、つみたてNISAの投資対象は、投資信託のなかで、インデックス型投資信託が191本、アクティブ型投資信託が27本、ETFが7本の合計225本まで絞り込まれました。

ただ、つみたてNISAの対象となる投資信託は、インデックス型であれば購入時手数料がゼロで、信託報酬率は国内資産を対象にするものは年0.5%以下、海外資産を対象とするものは年0.75%以下、となっており、またアクティブ型についても購入時手数料がゼロで、信託報酬率は国内資産を対象とするものが年1.0%以下、海外資産を対象とするものが年1.5%以下と定められています。

そのうえ、比較的信託報酬率が高めにとれるアクティブ型については、信託設定されてから5年以上が経過していること、信託期間のうち資金流入超の期間が3分の2以上であることといった、非常に厳しい基準が設けられていることから、多くのアクティブ型がその基準に適合できず、結局、多くの投資信託会社はインデックス型を、つみたてNISA用の対象ファンドとしてラインナップしました。前述したように、つみたてNISAの対象ファンドでインデックス型がアクティブ型を大きく上回っているのは、こういう事情があるからなのです。

ただ、前述したスクリーニング基準でも分かるように、インデックス型は購入時手数料がゼロで、かつ信託報酬率も低いものしか対象にならないため、販売金融機関にとってはうま味のない制度であるとも言えます。そのため、「長期、積立、分散」投資に適した制度であるにも関わらず、盛り上がり方は今一つの感が拭えませんでした。

そして恐らく、2024年1月からスタートする新しいNISAでは、多くの販売金融機関は年間投資枠が240万円に拡大された成長投資枠を中心にして、販売攻勢を仕掛けてくると考えられます。

その成長投資枠について先日、新聞に「購入の対象になる投資信託は3分の1程度」という記事が出ました。

一般NISAは現状、株式型投資信託に関しては大半のファンドが購入対象になるのですが、成長投資枠では一定の制限が設けられるのです。それは、信託期間の残りが20年以上あること、レバレッジ型の投資信託と、毎月分配型の投資信託は除外すること、という3つの条件をクリアできる投資信託をスクリーニングしたところ、全体の3分の1程度しか対象にならないだろうという話です。

でも、実際にはもっと投資するに値するファンドの本数は少ないのではないか、と思うのです。

というのも、純資産総額の規模が50億円に満たないような投資信託は、運用の持続性という面でいささか疑義があるからです。投資信託には「繰上償還条項」というのがあり、これが「受益権口数が30億口を下回った場合」などというように、約款で決められています。

30億口ということは、運用当初の基準価額が1万口あたり1万円でのスタートだとすると、30億円がこれに該当します。また、基準価額が1万6700円程度まで上昇した場合、受益権口数が30億口で純資産総額が50億円程度になります。これらの数字から見て、純資産総額が50億円程度あれば、当面、繰上償還には引っ掛からないだろうという、大雑把な話です。

では、純資産総額が50億円に満たない投資信託は、公募投資信託全体の本数のうちどの程度を占めるのでしょうか。1月時点の数字で数えると、5662本ある追加型公募投資信託のうち、純資産総額が50億円に満たない本数は、実に3623本もあるのです。

つまり、純資産総額が50億円未満という条件でスクリーニングした段階で、すでに全体の3分の2に近い投資信託が、長期投資を前提にした場合、投資するに値しないということになるのです。そこから、前述した信託期間の残りが20年以上あること、レバレッジ型の投資信託と毎月分配型の投資信託は除外すること、という条件を加味すると、さらに成長投資枠で買える投資信託は、もっと少なくなってしまうと考えられるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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