鈴木雅光の「奔放自在」

長く付き合えるJ-REITを見つけるためには

2023/04/03

J-REITは長期保有に適した安定した分配金を得る投資対象であり、東証REIT市場の市場規模は15兆4,400億円にも及びます。しかし、コロナ禍以降、格付と分配金利回りの関係が変化し、単純な比較が難しくなっています。この記事では、長期保有で安定した分配金を目指す投資家が、過去の分配金推移をチェックし、安定した分配金支払と年4%前後の分配金利回りを実現しているJ-REITを見つける方法を解説します。

現在、東京証券取引所に上場されているJ-REITの本数は61本です。61本すべての時価総額を合計した東証REIT市場の市場規模は、2023年2月末時点で15兆4,400億円です。

前回も触れましたが、J-REITは積極的に値上がり益を追及するような投資対象ではありません。どちらかといえば長期保有して、安定した分配金を得るのに相応しいと考えています。
では、J-REITの分配金利回りはどの程度なのか、ですが、3月14日時点の終値を基準にして計算したものでは、最も高いのが「いちごオフィスリート投資法人」の年6.84%で、低いものとしては「星野リゾート・リート投資法人」の年2.37%となっています。

かつてJ-REITの分配金利回りは、J-REITに対する信用力が反映されていました。J-REITは「投資法人」といって、不動産への投資を専業とする法人格を有した会社型投資信託の一種です。投資家は、この投資法人が発行している「投資証券」を購入することによって、その投資法人が保有しているオフィスビルや商業施設、レジデンス、物流施設などに投資し、そこから得られる家賃収入の90%以上を、分配金として得ています。

投資証券は一般事業法人にとっての株式のようなものであり、その発行を通じて資本市場から調達した資金は、その投資法人の自己資本に組み入れることが出来ます。つまり投資家に返済する義務が発生しない資金です。

加えて、投資法人は法人格を有しているため、銀行から融資を受けたり、自ら投資法人債と呼ばれている債券を発行したりして、資金調達をすることも出来ます。この借入や社債発行によって調達した資金の返済能力を示すものとして、第三者の格付会社が付与した「格付」があります。

J-REITの格付は、親会社ないし大株主であるスポンサー企業の信用力や、事業リスク、保有物件の質やキャッシュフローの安定性などを、総合的に考慮したうえで決定されます。そして、この格付と分配金利回りの間には、債券のそれに似たような関係性がありました。つまり、格付が高いと利回りが下がり、格付が低いと利回りが高くなるのです。

したがって、長期にわたって安定した分配金利回りを得るためには、ある程度、格付の高いJ-REITを保有した方が、得られる分配金の額は高くないものの、財務リスクが低いので、安心して保有し続けられる傾向が見られたのです。

しかし、特にコロナ禍以降は若干、格付と分配金利回りの関係が歪になっているようです。

前述したように、3月14日時点で最も分配金利回りの低いJ-REITは「星野リゾート・リート投資法人」ですが、この投資法人は決して格付が高いというものではありません。JCR格付で「A+/安定的」、R&I格付で「A/安定的」というものです。

ちなみに最上位格付を取得しているのは「日本ビルファンド投資法人」で、JCR格付が「AA+/安定的」、R&I格付が「AA/安定的」というものですが、日本ビルファンド投資法人の分配金利回りは、3月14日時点で4.05%もあります。

なぜ、格付が下位にあるJ-REITの分配金利回りが低いのでしょうか。ちなみに分配金利回りが低位にあるJ-REITは、星野リゾート・リート投資法人の他に、いちごホテルリート投資法人2.45%、ジャパン・ホテル・リート投資法人の2.67%というように、ホテル系リートが並んでいます。

このように、ホテル系リートの分配金利回りが低いのは、ファンドの中身を評価した結果によるものではない、という点に注意が必要です。信用力を云々する以前に、いずれも投資先であるホテル施設の収益力が、コロナ禍の影響で大幅に落ち込んだために、分配金に回せる余力が無くなっているのです。

実際、星野リゾート・ホテル投資法人の1口あたり分配金の推移を見ると、第2期の6540円から徐々に増えて、第14期には1万3302円まで増えましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で宿泊施設の来客数が激減したことから、第16期の分配金は6406円へと半減しました。2023年10月に迎える第21期の分配金予想は、徐々に回復の兆しを見せつつあるとはいえ、8370円です。

つまり分配金利回りが低下した要因は、信用力の高さを背景に買い意欲が向上したからではなく、投資法人の収益力が低下したからなのです。

したがって、単純に分配金利回りの高低で、投資法人としての財務安定性を評価できなくなっているのが、今の状況です。そのなかで、安定した分配金支払を継続できるだけの財務健全性が維持できるのかどうかを判断するには、過去の分配金推移をチェックするのが良いでしょう。

J-REIT各社はホームページを持っていて、そこには過去の分配金実績がグラフなどで表示されています。
これを見て、安定的に分配金が増加傾向をたどっているかどうか、仮に増加傾向をたどっていないとしても、極端に増減していないかどうかをチェックしたうえで、安定した分配金支払を実現しており、かつその分配金利回りが年4%前後あれば、投資対象として魅力的と考えられそうです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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