鈴木雅光の「奔放自在」

過去最高の取引額となった外国為替証拠金取引(FX)

2022/10/20

「外国為替証拠金取引(FX)」の7月の月間取引額が、過去最高の1229兆円に達しました。
取引高の推移を見ると、7月に入ってから個人の米ドル買い・円売りポジションが目立って増加しています。理由は言うまでもなく、円安・米ドル高が急伸したからです。
7月に入り、1米ドル=135円台から米ドル高が加速した後、8月2日にかけて1米ドル=130円台まで調整する場面もありましたが、その後は再び米ドルが大きく買われ、介入直前の9月22日には、1米ドル=145円台まで米ドル高が進みました。

こうした場面で、FXの口座を持っている個人が一斉に取引に参加した可能性は、十分に考えられます。金融先物取引業協会が公表している店頭FX取引速報では、円の売り越し残高が7月末時点で1兆8932億円となり、6月末に比べて倍増しています。しかも、このうち73.6%の1兆3935億円が、米ドル買いで占められました。

現状においてFXの取引を積極的に行っている個人は、全体から見ると少数です。FXの口座数は今年3月末時点で1000万口座を超えたものの、金融先物取引業協会の資料によると、このうちアクティブに稼働している口座数は80万口座程度と言われています。つまり口座は持っているものの、実際に証拠金を入れて取引をしている人は、ごく一部に過ぎないということです。

しかし、これから先、個人のFX取引はさらに増える可能性があります。なぜなら米国をはじめとして世界各国が利上げに転じているからです。

リーマンショック以降、日本だけでなく米国や欧州各国でも金利が大幅に低下し、ゼロ金利、あるいはマイナス金利の状態に陥りました。

加えて2020年以降、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、経済活動が停滞した国々は、更なる金融緩和に踏み切りましたが、その副作用と、ウクライナ情勢の混迷により、世界的にインフレ懸念が浮上してきました。

インフレ対策として、米国や欧州各国は金融緩和を止め、本格的な金融引き締めに取り組んでいます。現状、金融緩和政策を維持しているのは、先進国のなかでは日本くらいのものでしょう。

米国FRBに至っては、9月のFOMCで3回連続、0.75%幅の利上げを実施してきました。通常、利上げを行う際には0.25%幅で行うのが通例なので、0.75%幅の引き上げは3倍の利上げ幅になります。それを過去3回連続で行ったということは、実質的に9回分の利上げを行ったことに相当します。

こうした徹底的な対インフレ利上げによって、日本と米国の金利差はどんどん広がりつつあります。日米金利差の拡大は、キャピタルゲインを狙った短期的な米ドル買いの材料になるだけでなく、金利差を狙った中長期の米ドル買いにもつながります。

現状、大手銀行が扱っている外貨定期預金の利率を見ると、預入金額が10万米ドル相当以上でも、1年物の利率は0.01%に過ぎません。ユーロ建て、英ポンド建て、スイスフラン建てなど、その他の通貨に関しても一律0.01%の利率が適用されているところが目立ちます。

もちろん円建て定期預金の場合、預入金額、預入期間を問わず一律で0.002%ですから、それに比べれば外貨定期預金の方が有利ですが、年0.01%という超低金利ですから、為替手数料を加味した実質的な利率は、ほぼゼロになってしまいます。

これに対してFXは、スワップポイントによって内外金利差をダイレクトに享受できます。

スワップポイントとは、異なる2つの通貨間の金利差を、日割りで獲得できるというものです。たとえば日本の金利が0.2%、米国の金利が3%という状況で、円を売り、米ドルを買うと、この両者の金利差が得られるのです。

では、円を売って米ドルを買った場合、このスワップポイントはいくら得られるのでしょうか。

FX会社によって異なるので一概には言えませんが、FX会社のなかでも大手に属するところが出しているスワップポイントを見ると、1週間のうちの1日平均が、1万米ドルあたり90円前後でした。

ちなみにこれは1日あたりのスワップポイントですから、年に直すとこの365日分で3万2850円になります。そして1米ドル=145円として1万米ドルだと145万円でポジションを持つことになるので、利回り換算すると2.26%になります。

このように、スワップポイントが安定的に得られるということになれば、FXを外貨預金的に使う個人も増えてくる可能性があります。これによって、さらにFXを利用する個人が増えるのではないかと考えられるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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