酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

為替報告書

2025/06/16

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米国財務省が半期ごとに連邦議会へ提出する“為替報告書”を公表した、注目されるのは今回の報告書で日銀の金融政策に関して新たな記述が見られることである。

2025年6月16日号

米国財務省は6月5日、半期ごとに連邦議会へ提出する“為替報告書。”を公表した。

“為替報告書。”は財・サービス貿易の輸出入総額上位20ヶ国・地域を対象に、今回は2024年12月までの1年間の為替政策を分析・評価した。

今回の報告書では前回と同様に“為替操作国・地域。”に該当する国・地域は無いと結論付けた。

為替操作国・地域の認定は2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づく3つの基準、1)大幅な対米貿易黒字(年間150億ドル以上の財・サービス黒字額)、2)GDP.比3%以上の経常収支黒字、3)持続的で一方的な為替介入(過去12ヶ月の内8ヶ月以上の介入、かつGDP.比2%以上の介入総額。)の全てを満たしているかどうかを基に判断する。

上の3つの基準の内、2つに該当した国・地域は監視対象リストに登録され、登録されると少なくともその後2回の報告書で監視対象国・地域として取り上げられ、3つの基準での改善が一時的でなく永続的なものとなっているかどうかについて評価されるが、今回為替操作監視対象国リストには、前回2024年の報告書で対象国・地域となっていた、中国、日本、韓国、台湾、シンガポール、ベトナム、ドイツの7ヶ国に加え、新たにアイルランドとスイスが加わった。

日本は3期連続となる。

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日本は対米黒字(640億ドル)に加え、経常収支黒字(GDP.比4.8%)の2つの要件を満たしているが、為替介入に関しては2024年4月以降日本が3回に渡って円買い&ドル売り介入を行ったと前回に引き続き事実関係を紹介しているものの、そもそもこれは米国が問題視する自国通貨売り&ドル買い介入の真逆のオペレーションであり、特段問題視はされていない。

只、注目されるのは今回の為替報告書が日銀の金融政策に関して新たな記述が見られたことである。

報告書では、

1)日銀の金融引き締め政策は、成長率やインフレ率を含む日本経済のファンダメンタルズ(経済的基礎要因)に対応して継続すべきであり、それはドルに対する円の正常化と切望されている日米2国間貿易の構造的なバランスを支える。

2)大規模な公的年金基金の様な政府系投資機関は、リスク調整後リターンと分散投資の為に海外に投資すべきであり、競争上の目的で為替相場を目標にすべきではない。

と記述された。

 (以上は、日経新聞記事を引用した。)

2)は我が国のGPIF.(年金積立金管理運用独立行政法人)ついて触れたのであろうが、彼らが自らの為替リスクを取って円売り&ドル買いを行い、米国債券をせっせと買っている事を無視した全くの言いがかりであり、1)も他国の金融政策に対して注文を付けた“余計なお世話。”ではあるが、これはあたかも

-日銀は利上げを継続すべきで、それにより日米貿易不均衡を是正する円安修正が進む。

と言っているのと同じである。

ドル円相場は2024年7月に高値161.94を付けた後9月には139.58迄下落し、2025年1月には再び158.86の戻し高値を付けた後に今年の為替報告書が公表された先々週時点で142~143円であったが、どうやらこの程度では未だ円安修正は充分ではないらしい。

4月下旬の日米財務相会談後に読売新聞の1面のトップに、“米、ドル安・円高を望む。”と大きな文字が躍った。

記事は、日米財務相会談に関して“ベッセント氏はドル安・円高が望ましいと述べ、トランプ大統領の意向に沿って為替水準への強い懸念を表明した模様だ。”と言い切り、今後の協議で米国の対応について予断を許さないと書いていたが、我が国財務省・政府筋は“為替の話は出なかった、と否定して筆者は強い違和感を感じた。

恐らく、4月に起きた株安、債券安(金利高)そしてドル安と言うトリプル安に驚いたトランプ政権、特に良識派のベッセント財務長官がドル安議論を一旦封じる作戦に出て我が国にも、”為替の話は無かったことにしよう、勿論、暫くは我々も為替の話をする積もりは無い。”。とでも言ったのであろう。

ところがどっこい、アメリカの本音は勿論貿易面で有利な円高を望んでおり、例の“強いドルでいて欲しいが、安いドルの方が良い。”と言うヤツである。

まあ、身勝手なものだ。

金曜日に、イスラエルがイランの核施設や軍事的に重要な拠点を空爆した。

この行動はある程度予期されていたもので、市場の反応は先ず”リスクオフの円買い。”で円高に振れたものの 、直ぐに今度は”有事のドル買い。”となって、ドルのジリ高の展開となり、週明けの東京市場でも144円台で取り引きされている。

中東地域のゴタゴタは円安要因となるが、今迄筆者が述べて来た中長期的なドル安要因以外にも又々”ドルを買いたくない。”と思わせる事が起きている。

トランプ大統領の移民排除政策に反対するデモの激化に対応する為に、カリフォルニア州知事やロサンゼルス市長の反対にも拘らず州兵と海兵隊がロサンゼルス市に投入された。

この暴挙は大統領選挙の公約に掲げた移民排除を進める為と、民主党員であるカリフォルニア州知事やロサンゼルス市長を窮地に追い込む政治的な嫌がらせであろうが、このままでは益々アメリカの分断が進むだけだ。

事も有ろうにトランプ大統領は自らの誕生日と陸軍創設250周年が一緒だったことを良いことに、湾岸戦争後34年ぶりとなる軍事パレードを開催した。

連邦政府のコスト削減を目指すと言いながら、自分の誕生日に65億円を使って行われたこの軍事パレードに対しての批判も凄まじい。

トランプ大統領はデモ参加者が掲げる、“No King !”=(王様は要らない!)と言うアピールに対して、“They are animals !”=(奴らは動物だ!)との暴言を吐いた。

何ともはやである。

矢張り、ドルは買えない。

自分としては中期的なドル安の流れは変わらないと見るが、勃発したイスラエル対イランの中東情勢の変化には気を付けたい。

原油価格の上昇は原油の殆どを輸入する我が国にとって大きな打撃となるが、アメリカにとっても益々の物価上昇要因となる。

先週発表された5月のアメリカの米生産者物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)が予想を下回り、5月はインフレが加熱しなかったことを示していたが、今回のイスラエル対イランの紛争で楽観は吹き飛び、パウエルFRB.議長はトランプ関税の行方とその影響と共に、中東情勢のそれをも中止する必要が出て来た。

“1%の利下げをしろ!”などの戯言に耳を傾けている暇などは無いであろう。

ドル円相場が142~146円のレンジ内に留まる中、我が国個人投資家は145円へのドル上昇局面で僅かにドルの買い持ちを減らしてネットで5億ドルの買い持ちとなり、シカゴ・IMM.は又僅かながらドルの売り持ちを減らしてネットで125億ドルの売り持ちを保持している。

彼らの中期的なドル安&円高の見方は不変の様である。

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個人投資家残高

前週6月9日付け比較
+10億ドル+5億ドル-5億ドル
@144.03@144.86+0.83

シカゴ・IMM

前週6月10日付け比較
-132億ドル-125億ドル+7億ドル
@142.68@144.62-1.94

今週のテクニカル分析

見立ては、先週と同じくレンジ取引を想定し、上下何れかにブレークすると同方向に相場が走ると見る。

今週のレンジ

ドル円:142.00~145.00
ユーロ円:165.00~168.00

酒匂隆雄

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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