鈴木雅光の「奔放自在」

資産運用の常識を疑おう

2024/02/16

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新NISAが今年に入ってからスタートし、SNSでは新NISAに絡めた投資セミナーのお誘い広告がたくさん掲載されています。 なかには「新NISAと不動産投資のどっちが有利か」などという、そもそも比較対象として正しくないものを比べて、自分たちにとって有利なプロモーションを展開しようと目論んでいる輩もいます。言うまでもないと思いますが、この比較広告をSNS上で展開しているのは、不動産会社です。

書店に行けばたくさんのNISA関連本が並び、テレビで特集が組まれるなど、確かにNISA界隈は盛り上がりを見せており、これまで資産運用には全く興味を示さなかったような人たちでも、「何かしないとマズイ?」という気分になってきているのかも知れません。

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だからこそ、良からぬことを考えている人たちが、これをチャンスと思って、NISAセミナーを開いている可能性があります。

この手のセミナー広告をざっと見たところ、主催者はさまざまでした。日本証券業協会や、FP協会、大手新聞社のカルチャーセンターが開催しているケースは、まだ安心できると思うのですが、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)会社、保険代理店、セミナー運営会社、投資教育会社、といったところが主催しているセミナーは、少し注意した方が良いでしょう。

なぜなら、彼らは自分たちが扱っている商品・サービスを売り込むための名簿を作るために、この手のセミナーで名前や連絡先を集めていると考えられるからです。もしセミナーに申し込むのであれば、なるべく公的機関か、それに近いところが主催しているものを選んだ方が無難です。

そして、セミナーで聴かされる内容についても、あまり鵜呑みしないことをお勧めします。

恐らく、新NISA関連のセミナーで、講師が話すことと言えば、「長期・積立・分散投資しましょう。そうすれば投資のリスクを軽減できます」といった内容ばかりのはずです。

「長期投資すれば損するリスクを大幅に減らせます。積立投資すれば高値を掴まされるリスクを減らせます。分散投資すれば特定の資産が大きく値下がりしても、ポートフォリオ全体で大きく損をするリスクを減らせます」と言いたいわけです。そして、「投資は決して怖いものではありません。長期・積立・分散投資を心がければ、将来、自分の財産は大きく増えるはずです」と続けるのです。

果たして、本当でしょうか。

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言うまでもないことですが、投資は「絶対に」儲かる保証はどこにもありません。でも、絶対と言えることがひとつだけあります。それは「損をする」ことです。自分のお金をマーケットにさらす以上、常に損をするリスクに向き合う必要があります。まずそのことを認識して下さい。「長期・積立・分散投資をすれば、きっと大丈夫なんだ」などと思い込まないことが大切です。長期・積立・分散投資をしていたとしても、リスクをゼロにすることはできないのです。

「長期投資をすると元本割れのリスクが減る」などと言われますが、いくら保有期間を変えたとしても、特定の資産クラスが持つリスク量そのものが減ることはありません。

これは、長期・積立・分散投資のうち「長期」と「分散」投資に掛かってくることですが、全世界株式のポートフォリオで長期投資した場合、運用期間を長くすることによって元本割れリスクが低減されることを、データで立証しているレポートがあるのは事実です。

しかし、これはよくよく考えてみると、基本的にこれまでの株式市場が、特に米国株式を中心にして上昇トレンドが続いていたからと考えることもできます。

ちなみに、リーマンショックの前後における資産クラス別の最大下落率を見ると、

・米国株式(2007年10月9日~2009年3月9日)=▲56.0%(▲63.0%)

・新興国株式(2007年10月29日~2008年10月27日)=▲66.0%(▲72.0%)

・日本株式(2007年2月26日~2009年3月12日)=▲61.0%

となっています。ちなみにカッコの中の数字は、円建ての下落率になりますが、たとえば20年くらい運用した将来に、この手の大暴落に直面するリスクも当然のことながらあります。

もし、そのような状況に直面した時に、「長期投資はリスクが軽減される」などと言い続けることはできないでしょう。そのあたりの想像力を少しだけ巡らせれば、「長期保有すれば投資のリスクは軽減されます」などとは言えないはずです。

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もうひとつ、積立投資がいいという話も、少し割り引いて考える必要があります。

よく定時定額購入といって、毎月決まった日に、一定金額で、同一の投資対象を買い続けることのメリットが強調されます。価格が高い時は少なく、価格が安い時には多く株数を買えるので、平均の買いコストを安く抑えられるという話です。

なぜ投資するのかというと、投資先の価値が上がり、それに連れて株価が値上がりするから投資するわけです。そうである以上、今の株価が適正であると思うなら、一括購入した方が有利です。積立投資は、時間の経過と共に株価などが上昇すると、逆に平均の買いコストが上がってしまいます。

そもそも「長期・積立・分散投資」は、全く投資経験を持っていない人たちが、投資に対して抱きがちな「損をする」、「怖い」という感情を軽減させ、1人でも多くの未経験者に投資してもらうため、金融庁が考えた標語のようなものです。投資で成功するための真理では決してない、ということを頭の片隅に置いておくことをお勧めします。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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