鈴木雅光の「奔放自在」

手数料引き下げ競争の問題点

2023/11/14

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金融取引の手数料が引き下げられ、無料化の動きが広がっている背後には、利用者にとってのメリットと共に、金融機関にとっての課題も潜んでいます。この記事では、手数料の変遷と競争の問題点について詳しく検証します。

さまざまな金融取引にかかる手数料が、どんどん引き下げられています。最近はSBI証券などのように、株式の売買委託手数料を無料化する動きも出てきました。

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確かに、こうした手数料の大幅な引き下げ、あるいは無料化の動きは、金融取引をする側にとっては歓迎でしょう。株式の売買委託手数料が自由化される前、1990年代半ばくらいの話ですが、取引金額100万円以下に適用される株式売買委託手数料の料率は1%程度だったと思います。100万円の株式を買うのに1万円、売却するのに1万円で計2万円の手数料が取られたのです。それが無料化している証券会社で売買すれば、今は全くかかりません。

投資信託もそうです。かつて投資信託といえば購入時手数料として、購入金額に対して2%程度の手数料を取っていました。さらに、保有期間中には信託報酬といって、年2%程度のコストを、受益者が負担していたのです。購入して1年間で解約すると、合計で4%ものコストが取られることになります。まさにかつての投資信託は、コストの塊だったといっても過言ではないでしょう。

それが今はどうかというと、購入時手数料は販売金融機関にもよりますが、インターネット証券会社で購入すれば無料のところが大半です。そのうえ、信託報酬の料率も、かつてのように年2%も取るようなファンドは皆無に近い状況で、昨今では0.1%を割り込むようなインデックスファンドも登場してきました。

まさに隔世の感があります。

ただ、少し反対側からも見ていただきたいのですが、利用者にとって有利な状況は、逆に金融機関の側からすれば減収要因になります。

なぜ手数料を取るのか、というと、そのサービスを提供することの対価であり、サービスの提供者である金融機関からすれば、徴収した手数料によって雇用を確保するのと同時に、サービスのクオリティを高めるための投資を行っています。

「手数料の料率はいくらが妥当なのか」という点は非常に不透明であり、利用者からすれば「不当に高い手数料を取られているのではないか」といった疑心暗鬼を生む余地があるのは事実です。だから、「安ければ安いほどいい」的な議論が出てくるのだとは思いますが、手数料競争が行き着くところまで行き着くと、別なひずみが生じる危険性があります。

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たとえばFXの売買手数料ですが、限界値とも言える無料が普通になったことで何が起きたのかというと、カバー取引をしないFX会社が増えました。

一般的にFXを行っている投資家は3割が損をすると言われています。その確率からすれば、投資家からの注文を受けてカバー取引をしなければ、7割の確率でFX会社が勝つことになります。

結果、カバー取引をしなければ、投資家が勝手に損をするので、手数料収入よりも大きな利益が生じるという理屈になるのですが、それはあくまでも理屈の上での話です。

時折、為替レートは物凄い幅で動くことがあります。そのような時、カバー取引を行わないまま、投資家から受けた注文で生じるポジションを持ち続けていると、FX会社が大損を被ることになります。下手をすると、その損失が理由で破綻する恐れもあります。

株式売買委託手数料の無料化についても、一体全体、何をどうすれば無料にできるのでしょうか。

米国で最初に株式売買委託手数料を無料化したチャールズ・シュワブ社は、信用取引で投資家に資金や株式を貸し出す際の金利収入が非常に大きかったことから、無料化に踏み切れたのです。

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しかし日本の場合、昨今のような低金利下では、売買委託手数料をカバーできるだけの金利収入を確保するのが困難です。となると、IPOやPOの引受手数料でということになりますが、IPOやPOの引受手数料は、相場の状況に大きく左右されるため、安定収入にはなりません。

そうなると、SBI証券や楽天証券が競い合っている、IFAのプラットフォームサービスが安定収入の柱になるのかも知れません。日本のIFAはネット証券会社をプラットフォームとして、そこの証券会社が扱っている商品を顧客に販売し、その販売によって生じた各種手数料の約30%を、プラットフォーマーに利用料金として支払っています。

しかし、このように手数料に頼った収益構造だと、IFAは少しでも自分の実入りを増やすため、より高い手数料が取れる商品の販売に注力するでしょうし、それを証券会社が暗にそれを誘導するような働きかけをする恐れも生じてきます。一時期、手数料の高い仕組み債の販売が積極的に行われたのは、IFA個人の欲によるものなのか、IFAがより手数料を稼げるように、プラットフォーマーである証券会社が仕組債を積極的に提供したのか、そこは何とも言えませんが、恐らくその両方が相まった結果だと考えられます。

このように、手数料が極限まで引き下げられたり、あるいは無料化されたりするのは、表面的には利用者にとって喜ばしいことのように思えますが、別な形でしわ寄せがくる恐れもあることを理解しておく必要があります。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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