鈴木雅光の「奔放自在」

なぜ外貨預金の利率が急上昇したのか?

2023/11/10

外貨預金の利率が急騰し、メガバンクが米ドル建て定期預金の利率を大幅に引き上げました。では、なぜこんな急上昇が起きたのでしょうか?その謎に迫ります。

今年9月、三井住友銀行が、パーソナル外貨定期預金(米ドル建て)の適用利率を、大幅に引き上げました。

まず変更前の利率ですが、米ドル建て定期預金のそれは預入期間1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年のいずれも、年0.01%でした。それが9月25日以降は、下記の利率が適用されています。

預入期間適用利率
1カ月年1.00%
2カ月年1.00%
3カ月年3.70%
6カ月年5.30%
1年年5.30%

これまで年0.01%でしかなかった6カ月もの、ならびに1年ものの米ドル建て定期預金の利率が、一気に年5.30%まで引き上げられたのだから、驚きの声が上がるのも当然でしょう。

確かに、ここ2年くらい米国ではインフレが昂進していて、金利水準が上昇傾向をたどっていました。米国を代表する金利である10年国債の利回りは、コロナショック前後の2020年3月9日時点で0.521%だったのが、2023年10月4日には4.852%まで上昇しました。

また、それよりもさらに期間の短い1年物になると、2020年3月9日が0.31%で、2023年10月4日は5.42%です。

これらの数字を見ると、9月25日以降の米ドル建て定期預金の利率が年5.30%に引き上げられたのも当然といっても良いかと思いますが、問題はなぜ9月25日まで年0.01%に据え置かれ続けたのか、ということでしょう。

米国1年国債の利回りを見ると、2021年中は0.1%~0.39%で推移していましたが、2022年に入ってからはFRBによる金融引締め政策を反映して上昇傾向をたどり、2月には1%台、4月に2%台、7月に3%台、9月に4%台というように水準を切り上げ、12月末には4.71%まで上昇しました。

しかし、この間も米ドル建て定期預金の1年物利率は、年0.01%に据え置かれたままでした。

そして、2023年5月以降、米国1年国債の利回りは、5%台を維持するようになったのですが、それでも9月25日まで、米ドル建て定期預金の1年物利率は、年0.01%だったのです。

ご存じのように銀行は、預金で集めたお金を貸出で運用し、金利差を銀行の収益にしています。つまり銀行側から見ると、預金は預金者に対する負債になります。その負債に該当する米ドル預金の利率が年0.01%だとしたら、これは非常に安いコストで、資金を調達できていることになります。

そして、年0.01%という非常に低金利で集めた米ドルを、貸出に回すことで利ざやを稼ぐわけですが、恐らく米国1年国債の利回りが年5%台に達した時点では、米ドルを1年の貸出期間で融資すれば、5%以上の金利収入を得ることが出来ます。単純化して言えば、年0.01%で調達した資金を年5%超で運用できたことになるのですから、銀行からすれば、儲かって笑いが止まらなかったはずです。

しかし、いつまでも米ドル定期預金の利率を年0.01%という非常に低い水準に据え置けない事情が生じてきたと考えられます。

まず外部環境ですが、世界中に流通している米ドルの流通量そのものが減っています。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、FRBは大幅な金融緩和を行いました。FRBが金融を緩和するということは、世界中に米ドルがばら撒かれることを意味します。

ところが、2022年2月まで0.25%に据え置かれていたFFレートは、そこから11回にわたって引き上げられ、現在の水準は5.50%です。このように金融が引き締められると、今度は世界中にばら撒かれていた米ドルが、どんどん回収されることになります。結果、世界中に流通していた米ドルの流通量が減っていったのです。

そのうえ、2021年8月に超党派によって可決された「インフラ投資および雇用に関する法律」によって、米国国内に生産拠点を回帰させる動きも生じてきました。当然、米国国内に生産拠点を新たに設けるとなれば、米ドルが必要になります。つまり米ドルは、需要増と供給減という、相反する2つの動きが同時に生じており、ますます米ドル不足が加速しているのです。

このように米ドル不足が深刻化しているなかで、日本国内ではネット銀行を中心にして、米ドル建て定期預金の利率を大きく引き上げる動きが広まってきました。たとえばSBI新生銀行のパワーフレックス外貨定期預金の米ドル建て1年定期預金の利率は、年6.00%です。

このように、国内銀行同士で米ドル建て定期預金の利率が高水準になったことで、いよいよメガバンクも米ドル建て定期預金の利率を、競合並みに引き上げざるを得ない状況に直面したのです。

ちなみに、三井住友銀行の外貨定期預金利率を見ると、年5.30%といった高金利が適用されているのは、10月13日時点では米ドル建てのみです。他にユーロ建て、英ポンド建て、スイスフラン建て、豪ドル建て、ニュージーランドドル建てがあるものの、米ドル以外の通貨の定期預金利率はおしなべて低く、期間の長短に関係なく年0.01%が適用されています。この点からも今、いかに米ドル不足が深刻な状況にあるのかが、わかります。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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