鈴木雅光の「奔放自在」

資産活用層のポートフォリオを考える

2023/10/13

「資産活用層」の未来の資産運用を考えます。低金利と長寿化に対処するため、不動産投資信託(J-REIT)を検討しましょう。安定的な配当収入を得るための新たな戦略が、老後の経済的な安心感を提供します。

「資産運用」に関して書かれたものというと、これから資産を築かなければならない、資産形成層を対象にしたものが大半を占めています。資産形成層の資産運用は、基本的にリスクを取れるという前提で、株式を中心としたポートフォリオが望ましいとされます。

では、資産活用層の資産運用はどうあるべきなのでしょうか。資産活用層とは、現役時代にある程度の資産を築いた後、仕事の第一線から引いたリタイヤメント層と言い換えても良いかも知れません。これまでリタイヤメント後の資産運用は安全第一で、預貯金ならびに債券といった元本割れリスクの低い金融商品を中心にしたポートフォリオが望ましい、とされてきました。

しかし、こうした資産活用層の資産運用法は、時代に合わなくなりつつあります。なぜなら超低金利が続く一方、インフレが進んでいるからです。前回も触れましたが、預貯金にお金を預けておくと、実質的な資産価値が目減りする時代になっているのです。

そのうえ、長寿化も進んでいます。人生100年時代というのはいささか大げさですが、それでも2022年時点における日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳です。退職する年齢が60~65歳だとすると、男性で約20年、女性だと約30年程度、現役時代に形成した資産を取り崩しながら生活しなければなりません。

もちろん、金利はある程度、物価上昇率をキャッチアップする形で上昇するのが経済学的にもセオリーではありますが、少なくとも現状の金利情勢を見ると、ほとんど物価上昇にキャッチアップできていません。この状況がいつまで続くのかは分かりませんが、少なくともリスクフリーとされる安全性資産のみのポートフォリオでは、老後の生活が苦しくなる恐れがあります。

このリスクをできるだけ軽減させるためには、ある程度、ポートフォリオにリスク資産を組み入れる必要があります。

では、何を組み入れれば良いのでしょうか。

ポイントになるのは、定期的にある程度の利回りが得られる金融商品を組み入れることでしょう。

とはいえ、前述したように預貯金の利率は極めて低い水準です。今、銀行の定期預金に預けたとしても、預入金額の多寡、預入期間の長短に関わらず、利率は年0.002%程度です。これでは仮に3000万円程度の資産を運用したとしても、年間の利子収入は600円にしかなりません。いくら何でも600円ではどうしようもありません。

そこで検討したいのが、株式などの高配当銘柄への投資です。とはいえ、株式の場合は業績によって、大きく変動するケースがあります。ある時、業績不振で減配、あるいは無配に陥ることもあります。大事なのは継続的な配当収入の確保ですから、それが可能な金融商品を選ぶ必要があります。

そこで注目したいのが不動産投資信託(J-REIT)です。

J-REITの良いところは、ファンドに組み入れられている不動産から得られる家賃収入のうち、90%以上を分配金に回さなければいけないというルールがあることです。J-REITは東証に上場され、市場で売買されるため、株価と同様に投資口価格が常に変動していますが、いずれにしてもファンドに不動産物件を組み入れなければならず、そこからはほぼ確実に家賃収入が得られるため、こと分配金という点のみを見れば、極めて安定したキャッシュフローが期待できるのです。

東証に上場されているJ-REITの分配金利回りを見ると、5%台の銘柄も8本あります。5%の分配金利回りのJ-REITを仮に3000万円分保有すれば、毎年の分配金は150万円にもなります。税引後だと120万円です。

年間120万円の分配金を受け取れるとすると、毎月の額は10万円になります。「老後2000万円問題」で、高齢者夫婦無職世帯の平均的な家計収支で不足するとされる月5万4520円を補って余りある金額になります。つまり分配金利回り5%のJ-REITを3000万円分保有すれば、老後2000万円問題など気にせずに済むのです。

またJ-REITは年2回、決算が行われます。その決算月を見ると、1月・2月決算、2・8月決算、3・9月決算、4・10月決算、5・11月決算、6・12月決算というように揃っているので、それぞれ決算月のJ-REITに分散投資すると、毎月、分配金を受け取れる仕組みをつくることができます。J-REITの投資口価格はそれぞれ異なるため、各決算月のJ-REITへの投資金額を6分の1ずつに完全に分けることはできませんが、たとえば3000万円を500万円ずつ6本のJ-REITに分散させ、各々5%の利回りを確保できれば、毎月12万5000円の分配金を得られるようになります。

J-REITは証券会社の窓口でのみ購入できるのですが、基本的に証券会社がJ-REITへの投資を勧めることは、ほとんどありません。なぜなら、証券会社にとっては収益にならないからです。

ただ、証券会社が勧めない商品は、逆に利用者にとっては良い商品であるケースが結構あります。その意味でも、資産活用層の資産運用の対象として、J-REITは検討するに値すると考えられるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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