鈴木雅光の「奔放自在」

新NISAは直販中心の投資信託会社にとって本当に不利なのだろうか?

2023/09/04

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新NISA制度の導入により、投資信託会社の戦略と利用者の選択肢に新たな局面がもたらされる中、その利点と潜在的な課題を探ります。

新NISAが来年1月からスタートします。すでに制度の詳細については、さまざまなメディアでも報じられているので、ここで詳しくは説明しません。

ざっと概略を申し上げると、つみたて投資枠と成長投資枠の2つがあり、つみたて投資枠は現在のつみたてNISAの延長版といっても良いでしょう。年間の投資枠は120万円までで、金融庁の定めた基準に合致した投資信託のみを、この枠で積立購入できます。

もうひとつが成長投資枠で、こちらは現在の一般NISAの延長版になります。こちらの年間投資枠は240万円で、上場株式と投資信託が対象です。ただし、①整理・管理銘柄、②信託期間20年未満の投資信託、③毎月分配型の投資信託、④デリバティブ取引を用いた一定の投資信託、は対象外で、現在、この成長投資枠で購入できる投資信託2000本が順次公表されています。

成長投資枠とつみたて投資枠を合計した非課税保有限度額は1800万円ですが、成長投資枠に関しては最大1200万円までという内枠が設けられています。

しかも、非課税期間は無期限で、現行のNISAは時限的措置でしたが、新NISAは恒久化されます。つまり、20年、30年という長期間運用して得た収益に対する税金はかかりませんし、制度そのものが恒久化されていますから、途中で売却もしくは解約して利益を得た後、その枠を再利用することも可能です。

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このように、非常に使い勝手が良くなった新NISAですが、一部からは「新NISAのスタートを不安視する声もあります。

新NISAは非課税保有限度額が1800万円なので、現行のNISAに比べて非課税で運用できる金額が格段に大きくなりました。つみたてNISAだと800万円、一般NISAだと600万円までで、しかもそのいずれかしか利用できなかったのが、新NISAではつみたて投資枠と成長投資枠のいずれも使うことができ、かつ合計で1800万円まで非課税運用が出来るようになったのです。

このように投資できる金額が大きくなると、単一の商品ではなく、さまざまな株式、さまざまな投資信託に分散して投資したくなる人も出てきます。そういう人は、商品の品揃えが豊富な金融機関、たとえばオンライン証券会社に新NISAの口座を開いた方が良いのではないかと考えます。

ちなみに、新NISAの口座は1人につき1口座、1金融機関での開設しか認められていませんから、ますます取扱商品数の多い金融機関に口座を開設する人が増えるのではないかと考えられています。

その分、取扱商品数の少ない金融機関にとって、新NISAは不利になる恐れがあると言われています。

でも、本当にそうでしょうか。

新NISAに1800万円という高額の非課税枠が設定されたことによって、恐らくこれまで預貯金でしかお金を運用して来なかった層にも、投資に対する関心が高まってくると思われます。しかも最近は物価の上昇によって、預貯金のみの運用では資産価値がかなりのペースで目減りしてきています。これまでの日本は長いことデフレ経済でしたが、インフレ経済に転換しつつあるなかで、嫌が応にも投資を考えざるを得ない状況に直面しているのです。

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こうした投資初心者が投資信託を選ぶ場合、恐らく、取扱商品の数があまりにも多すぎると、恐らく「選べない」という事態に陥る恐れがあります。実際、投資信託協会が2022年に実施した「投資信託に関するアンケート調査報告書」によると、投資信託の現保有者及び過去に保有したことのある経験者でさえも、その約20%が投資信託に対する不満として「種類が多く選択に迷う」と回答しています。ましてや、これまで投資信託などを購入したことのない初心者なら、なおさらです。なお、オンライン証券会社では口座数が非常に多いSBI証券が扱っている投資信託の本数は2700本を超えていますし、楽天証券も2600本を超えています。

これは断言しても良いと思うのですが、投資初心者が2600本超もある投資信託の中から選ぶのは不可能です。

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だからこそ、逆に取扱商品の本数が絞り込まれている販売金融機関の方が、投資初心者には向いているとも言えます。もちろん、扱っている金融商品がロクでもないものではどうしようもありませんが、長期間、保有し続けられる投資信託を扱っているのだとしたら、むしろ取り扱われている投資信託の本数は少ない方が、選択するうえで迷わずに済みます。取扱商品の数が多いほど、利用者は選択の自由を存分に生かして良い商品を選ぶことができるというのは、幻想に近いことなのです。

たとえば自社が運用している投資信託を直接、顧客に販売している直販中心の投資信託会社は、基本的に自社が運用している投資信託しか販売していないので、選択肢は2~3本程度です。確かに、少ないといえばその通りなのですが、しっかりした運用哲学を持った投資信託を扱っているのであれば、そして、しっかりした運用成績を残しているのであれば、むしろ投資初心者にとっては、直販を中心にした投資信託会社で新NISAの口座を開いた方が、迷わずに済むというメリットがあるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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