鈴木雅光の「奔放自在」

信託報酬は安い方が良いのか問題

2025/12/29

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投資信託選びで「信託報酬は安いほど良い」と信じていませんか。 本記事では、信託報酬の仕組みと長期リターンへの影響を整理した上で、インデックスファンドにおける“本当の評価軸”を解説します。 この記事で分かること:信託報酬の役割/低コスト信仰の落とし穴/インデックス投信の正しい見方

投資信託を購入・保有することで受益者が負担しているコストは、ざっくり言うと「購入時手数料」と「信託報酬」の2つになります。反対側から見れば、この2つが販売金融機関や運用会社、受託銀行など、投資信託のビジネスに関わっている業者が得る収益になります。

少し細かく説明すると、購入時手数料は投資信託を販売した金融機関が、その全額を受け取ります。その料率は、売れた金額に対して1~2%程度です。100万円を購入したとしたら、1~2万円程度になりますが、インターネット証券会社を中心にして、購入手数料を取らない販売金融機関が増えています。

次に信託報酬ですが、これは運用しているファンドの運用資産に対して日々、差し引かれていきます。たとえば信託報酬率が年1%だとしたら、1%を365日で割った額が、日々、徴収されていくのです。そして、徴収した信託報酬は、運用会社、受託銀行、販売金融機関の3者で分けます。

購入手数料はファンドを購入した時だけ取られるのに対し、信託報酬はファンドを保有し続けている限り日々、徴収されます。この10年ほどは購入時手数料を取らない販売金融機関が増えてきたことや、そもそも購入する際に1度しか取られない購入時手数料は、長期保有すればするほど1年あたりの負担率が軽減されるので、実はそれほどファンドのリターンには影響しないのですが、信託報酬は違います。何しろファンドを保有している限り取られるコストなので、その料率が高いほど、ファンドのリターンに悪影響を及ぼすと考えられているのです。

そのため、特にここ5年程度で、信託報酬率に対する受益者の選別が厳しくなってきました。「とにかく料率が低ければ良い」という風潮が強まっており、それが近年のインデックスファンドブームにつながっている面は否定できないでしょう。

こうした流れにうまく乗って成功しているのが、三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim」シリーズです。なかでも全世界株式(オール・カントリー)は、その信託報酬率を業界最安の年0.05775%とし、注目を集めてきました。その運用資産総額は約9兆円にも上り、同シリーズの米国株式(S&P500)の約10兆円と並んで、国内投資信託では最大の規模になっています。

なぜ、これだけの人気を集めたのでしょうか。もちろん、運用成績が良かったのは事実です。今まで米国株式が長期的に上昇トレンドだったため、高いリターンが実現しました。加えて、業界最安と言われた信託報酬率も、ファンドのアピールに大いに貢献したと思われます。

では、なぜ信託報酬率が低いほど良いのでしょうか。その方が、より高いリターンが期待できるからと考える人は少なくありません。たとえば信託報酬率が年1%のファンドと年0.08%のファンドで、100万円を年5%の利回りで20年間運用したという想定で、20年後の元利合計額を計算してみましょう。

まず、信託報酬率が年1%の場合、運用のリターンが5%だとすると、実質のリターンは年4%です。これを1年複利で回していった場合、20年後の元利合計金額は219万1000円になります。

次に年0.08%の信託報酬率で年5%の1年複利運用を行うと、261万3200円になります。20年で42万2200円の差が生じます。信託報酬率が低いほど高いリターンが期待できるのは、確かなようです。「eMAXIS Slimは低コストなので、おトク」的な発想は、ここから来ているものと思われます。

でも、ここでよく考えてもらいたいのですが、アクティブファンドならまだしも、インデックスファンドを対象にして、「信託報酬率が低いので、おトク」とする考え方は、いささか勘違いしているように思えます。

これがアクティブファンドなら、銘柄選定によってポートフォリオ全体のリターンを1%押し上げるのは極めて大変なことなので、信託報酬率を引き下げるのはトータルリターンにプラスの効果をもたらします。

しかしインデックスファンドは、リターンが高ければ良いというものではありません。大事なのはベンチマークとの連動性です。たとえばS&P500が1年で10%上昇した時、S&P500をベンチマークとするインデックスファンドのリターンが15%だとしても、それは良い評価にはつながりません。なぜなら5%ものトラッキングエラーが生じているからです。

もちろん、信託報酬率が低いほどベンチマークへの連動性を高められるので、低いに越したことはありません。が、「おトク」というのが何を指しているのかという問題はありますが、それが「より高いリターンにつながる」と考えているとしたら、それは間違っています。極端な話、インデックスファンドなら信託報酬率が年5%だとしても、ベンチマークとのトラッキングエラーが無ければ、評価されるのです。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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