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経済ジャーナリスト鈴木雅光の「奔放自在」 vol.44
公開日:2022年4月01日

再認識された新興国投資のリスク

ロシアのウクライナ侵攻は、資産運用にも大きな影響を及ぼしています。なかでもロシアの株式市場を投資対象とした投資信託や、ロシアルーブル建てで発行されている債券は、ロシア株式市場の閉鎖やロシアルーブルの暴落によって、資産価値が大きく毀損しました。

ロシアといえば2003年に、ゴールドマンサックスの経済学者だったジム・オニール氏が提唱したBRICsで、21世紀中に高い経済成長が期待される国の一角に含まれたことから、投資対象国として注目を集めました。BRICsファンドなど、ブラジルやロシア、インド、中国に分散投資する投資信託のポートフォリオの一部に組み入れられた投資信託や、ロシアや東欧諸国への分散投資、あるいはロシアのみに集中投資する投資信託も増えていきました。2022年1月末現在で、ロシアのみ、あるいはロシア・東欧諸国に投資する投資信託の本数は、全部で7本あり、それらの純資産総額合計は213億円に上ります。

新興国投資の魅力は、将来に対する高い経済成長期待にあります。そして、実際に高い経済成長率が維持できれば、それにともなって株価の上昇期待も高まります。投資信託の運用成績も投資先によってまちまちですが、たとえば中国圏に投資している投資信託の運用成績は、過去10年で年率10%に乗せているものが結構あります。過去10年間の年平均リターンが10%ということは、この10年で投資元本が2倍になっている計算です。

同じように、インドの株式を組み入れて運用する投資信託の運用成績も、過去10年間の年平均リターンが10%を超えているものがたくさんあります。ちなみにインドの株式のみを組み入れて運用している投資信託の本数は21本ありますが、このうち過去10年間の年平均リターンが10%を超えている投資信託の本数は、19本もありました。

逆に苦戦しているのがブラジル株式を組み入れて運用している投資信託です。こちらは過去10年間の年平均リターンがすべてマイナスになっています。最もひどいものだと年率で▲4%ですから、この10年間で元本が4割前後減ったことになります。

ブラジル投資の場合、ネックになっているのは為替レートでしょう。ブラジルは一時期の狂乱物価は落ち着いたものの、それでも6~10%前後のインフレ率が続いていますから、その分だけ通貨価値が下がりやすくなります。2012年1月時点のブラジルレアル/円のレートは、1ブラジルレアル=45円前後で推移していましたが、2022年1月時点では1ブラジルレアル=20円程度まで円高が進みました。この10年で、ブラジルレアルの対円での通貨価値が半分以下になったのですから、投資元本が4割近くも減るのは当然のことです。

新興国投資のリスクを整理しておきましょう。

総じてインフレ率が高いこと。経済成長率が高く、需要超過が発生しやすい経済構造ですから、インフレ圧力は自然と強まります。インフレ圧力が強い国の通貨は、物価との見合いで通貨の価値が下がります。1000円で1個のモノの値段が2000円になったら、同じ1万円で買えるモノの数が半分に減るため、通貨価値が下がったという理屈です。つまり需要超過という問題を解決できない限り、新興国のインフレ率は恒常的に高く、それゆえに新興国通貨には下落圧力がかかり続けるのです。

また、ロシアによるウクライナ侵攻によって改めて認識されたのは、地政学リスクも含めた政治リスクによる影響です。国連安全保障理事会の常任理事国が他国侵略を行うという前代未聞の行動だっただけに、単なる地域紛争とは全く違うレベルの国際問題にまで発展し、経済制裁の規模も前代未聞のものとなりました。それだけに、ロシア関連の投資が今後、どのような結果をもたらすのかについては、今後、新興国投資を行う際の参考材料として、チェックしておく必要があります。

ロシア関連投資信託で現在把握できているリスクは、何といっても流動性リスクでしょう。ロシア株ファンドの多くが、設定・解約できない状態になっています。ロシアの株式市場が取引を中止している状況ですから、投資信託の設定・解約が出来ないのは当然ですが、恐ろしい事態はこれから訪れます。

というのも、現在の基準価額はマーケットが閉鎖される前の株価、あるいは債券価格をベースにして算出されているものなので、どこかの時点でマーケットの取引が再開された時、株価にしても債券価格にしても大幅に値下がりした水準で寄り付き、マーケット再開後初日の基準価額が大暴落する恐れがあります。

しかし現状、ロシア関連投資信託を保有している人は、次に基準価額が算出される時に暴落することが分かっていても、現時点では何も対策を打つことが出来ないのです。

加えてロシアルーブルの通貨価値が暴落しています。ウクライナ問題が深刻化する前、ロシアルーブルの対円レートは、1ロシアルーブル=1.65円前後だったのが、ウクライナ侵攻が行われた後、一時は1ロシアルーブル=0.8円程度まで下落しました。ロシアルーブルの価値が半減したことになります。これも、ロシア関連投資信託の運用成績に深刻なダメージを及ぼします。

仮にウクライナ紛争に何らかの解決の糸口が見つかったとしても、ロシアがグローバル経済に組み込まれて、再び経済成長の軌道に乗れるどうかは、全くといって良いほど見通しが付きません。恐らく相当の時間を必要とするはずです。そしてこの間、投資信託やその他の債券など、ロシア関連の投資商品は値段が戻らない状態が続きます。

こればかりは、どうにもしようがない話であり、誰もが今できるのは、ロシアに投資した分はまるまる損をしたという前提でポートフォリオから外し、それ以外の資産を増やすことに専念するくらいでしょう。



金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)

JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。

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