
なぜ投資信託の数を減らすことが出来ないのか
以前、日本には投資信託が6000本近くあるけれども、その大半は純資産残高の規模が非常に小さく、どこまで真剣に運用されているのか分からない、という話をしました。
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直近の数字を見てみましょう。公募投資信託全体からETF、ミリオン、財形株投、SMA、確定拠出年金の対象となる投資信託を除いた4467本です。このうち純資産残高別に本数を見ると、
1億円未満・・・・・・229本
1億円以上10億円未満・・・・・・1267本
10億円以上30億円未満・・・・・・1026本
カウントの対象となる4467本中、2522本の投資信託が純資産残高で30億円未満しかないのです。投資信託は長期投資のツールであるという前提を置くのであれば、純資産残高30億円未満の投資信託には繰上償還リスクがあるので、買う意味がないと判断できます。
つまり今、設定・運用されている公募投資信託の半分超は、購入を検討する際の候補リストから外しても、差し障りはない、ということになります。
実は金融庁は、この小規模ファンドを前々から問題視しており、2016年9月に公表した「平成27年事務年度金融レポート」において、投資信託の規模が小さければ、一般的には、スケールメリットが働かないので管理コスト等は割高になりがちであり、顧客が支払う信託報酬等の手数料も高くなるものと考えられる」と指摘しています。そして、金融庁はこの問題を解決するため、2014年12月に投資信託の併合を簡単に行えるようにするため、改正投資信託法を施行しました。
投資信託の本数を減らすためには2つの方法が考えられます。ひとつは「投資信託の併合」であり、もうひとつは「繰上償還」です。
投資信託の併合とは、複数の小規模ファンドを一緒にしてしまおうということです。といっても、無条件で併合できるわけではありません。併合が認められるのは、①投資対象や保有資産、運用方針が同一であること、②受託銀行が同じであること、③2007年9月末以降に設定されたものであること、という条件を満たしたうえで、実際に併合を行うにあたっては、書面等で投資家の半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成が必要とされています。
このようにルールが定められているにも関わらず、今のところ投資信託の併合が行われたのは、2022年2月時点で2件だけです。なぜ投資信託の併合が進まないのかというと、前出の条件に合致する投資信託が、そもそも少ないからと言われています。
また、もうひとつ大きな問題があります。それは、販売金融機関にとって何ら経済的インセンティブがないことです。
投資信託を販売すれば、販売金融機関には手数料などが入ってきますが、投資信託の併合は逆にコストと手間がかかるばかりで、販売金融機関にとっては、それを一所懸命に行うだけのモチベーションにつながらないのです。
では、繰上償還はどうでしょうか。実はこれもほとんど進んでいません。繰上償還を行うためには、投資信託の併合と同様に、書面等で投資家の半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成が必要になりますし、いくら規模が小さいといっても、運用されている投資信託が償還されれば、その時点で信託報酬や代行手数料が入って来なくなります。
「チリも積もれば・・・・・・」ではありませんが、小規模ファンドでも本数がそれなりに多ければ、そこから多少なりとも収益が得られます。繰上償還させれば、事前告知などでコストがかかるだけでなく、それまで得られていた収益をも失うことになるのです。寝ている子を起こさず、そっとしておいて欲しいというのが、目下、小規模ファンドに対する投資信託業界関係者の切なる願いというところなのかも知れません。
このように、投資信託会社や販売金融機関の内部事情から、投資信託の併合や繰上償還が進まないのです。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
