
着実に増加傾向をたどる海外の日本国債保有
先般、2021年第3四半期の資金循環統計が発表されました。資金循環統計とは、国内の金融機関や一般事業法人、家計といった各経済主体が保有している金融資産や負債残高、それらの増減などを記録したものです。よくニュースなどで、「個人金融資産が2000兆円目前に」といった記事などを目にすることがあると思いますが、それはこの資金循環統計の数字を用いています。
さて、2021年第3四半期における個人金融資産がいくらになったのかというと、総額が1999兆8000億円でした。この額は、2020年3月末こそコロナショックによる株価急落で減少したものの、それ以降は総じて増加傾向にあります。ちなみに2019年12月末の個人金融資産は1890兆円でしたから、それから2年弱の間に、個人が保有している金融資産の総額は100兆円ほど増えたことになります。
ただし、ここで言われている1999兆円もの個人金融資産の中には、企業年金などの年金受給権、ゴルフ場預託金などの預け金、さらには個人事業主の事業性資金もカウントされているので、純粋にいつでも必要な時に現金化して使える金融資産ではない点には注意して下さい。
個人金融資産の具体的な中身を見てみましょう。
現金・預金 | 1072兆円(53.8%) |
---|---|
債務証券 | 27兆円(1.4%) |
投資信託 | 90兆円(4.5%) |
株式等 | 218兆円(10.9%) |
保険・年金・定型保証 | 539兆円(26.9%) |
上記のうち保険 | 378兆円(18.9%) |
その他 | 54兆円(2.7%) |
以上となっています。相変わらず、現金・預金の比率が高いのが目につきます。もちろん前述したように、このなかには個人事業主の事業性資金がカウントされているため、そのすべてを個人が自由に使える現金・預金として捉えることはできませんが、個人金融資産のうち53.6%と過半を占めています。
また、2021年9月末時点まで個人金融資産が大きく増えた原因のひとつとして、投資信託や株式等の投資商品の伸びが大きかったことを指摘しておく必要があるでしょう。投資信託と株式等の残高は、2021年3月末、6月末、9月末のいずれも前年比で2ケタ増が続いています。
ちなみに投資信託のそれは、3月末=33.9%増、6月末=28.3%増、9月末=24.0%増であり、株式等は3月末=42.6%増、6月末=29.8%増、9月末=28.6%増です。ちなみに、この増加は単純に新規資金が入ってきたからではなく、投資信託や株価の値上がり益がカウントされているため、昨年の株価上昇によって残高が大きく膨らんだというのが実体です。
ところで、同じ資金循環(速報)の数字のなかで、やや気になるものがあります。それは「国債等の保有者内訳」です。ここで言う「国債等」は、国庫短期証券、国債、財投債が含まれています。これらの発行残高は、2021年9月末現在で1219兆円に上りますが、その保有者別の比率は以下のようになります。
中央銀行 | 538兆円(44.1%) |
---|---|
預金取扱機関 | 166兆円(13.6%) |
保険・年金基金 | 251兆円(20.6%) |
公的年金 | 45兆円(3.7%) |
家計 | 13兆円(1.1%) |
海外 | 164兆円(13.4%) |
その他 | 43兆円(3.6%) |
なかでも注目してもらいたいのが、「海外」の保有比率です。過去の数字を見ると、2005年3月末は4.0%でした。それが年々上昇傾向をたどり、2021年9月末には13.4%まで上昇してきているのです。ちなみに、2005年3月末時点で最も国債の保有比率が高かったのは預金取扱機関で、その比率は35.49%でした。それが年々低下して、2021年9月末時点では13.6%となり、今や海外との比率が拮抗しつつあります。
ここで思い出してもらいたいのが、「日本国債の発行残高が増えても大丈夫だ」と言う人たちの根拠です。かつて、「日本国債のほとんどは日本人が買っている。これを家族に当てはめると、父親が銀行から借金をしたのではなく、母親から借りているのと同じことだから破綻しない」と言われていました。
しかし、前述したように海外の国債保有比率は年々上昇し、今では預金取扱機関とほぼ同じ比率にまでなっています。このままだと、恐らく第4四半期、あるいは2022年第1四半期の資金循環統計では、両者の比率が逆転することも十分に考えられます。
仮に海外の投資家が大量に日本国債を保有することになると、彼らは運用目的で日本国債を保有しているので、日本の財政事情が危ないとなったらすぐに日本国債を売る恐れがあります。かつて起こったアジア通貨危機などは、まさに海外投資家がアジア新興国への投資から手を引いたために起りました。これと同じことが日本に起らないという保証は、どこにもありません。
「だから日本は財政破綻する」などと言うつもりはありませんが、海外の保有比率が高まっていることに対して、こうした懸念があるのかどうかを、財政当局者はきちんと説明する必要があるでしょう。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
